1990年代以降に早期浸潤性乳がんと診断された女性の死亡リスクは大幅に減少、オックスフォード大学研究報告

2023.07.04

早期浸潤性乳がん患者の死亡リスク、過去数十年で大きく低下

1990年代以降、早期浸潤性乳がんと診断された女性の死亡リスクは大幅に減少し、ほとんどの女性が長期にわたる生存を見込めるようになっていることが、新たな研究により示された。英オックスフォード大学腫瘍学分野のCarolyn Taylor氏らによるこの研究の詳細は、「The BMJ」に2023年6月13日掲載された。

乳がんは、がん細胞が乳管や小葉にとどまっている非浸潤性乳がんと、がん細胞が乳管や小葉を超えて間質にまで広がり、血管やリンパ管に入り込んで全身へ流れていくこともある浸潤性乳がんに大別される。

浸潤性乳がんのうち、がんの転移が脇の下のリンパ節（腋窩リンパ節）までのものが早期浸潤性乳がんと見なされる。

早期浸潤性乳がんの診断を受けた女性の乳がんによる死亡リスクは、過去数十年で低下したことが研究により示唆されている。

しかし、どの程度低下したのか、あるいは、あらゆる患者で低下したのか、それとも低下は年齢など何らかの特徴を持つ患者に限定されるのかなどについては明確になっていない。

Taylor氏らの研究は、英国で1993年1月から2015年12月までの間に早期浸潤性乳がんの診断を受けた51万2,447人を対象にしたもの。

対象者を2020年12月まで追跡し、診断からの経過時間、診断を受けた暦年（1993〜1999年、2000〜2004年、2005〜2009年、2010〜2015年）、診断時の年齢、エストロゲン受容体（ER）陽性/陰性、HER2陽性/陰性、腫瘍のサイズなど、患者とがんのさまざまな特徴を考慮して、乳がんによる年間死亡率と累積死亡リスクを推定した。

その結果、いずれの暦年であっても、早期浸潤性乳がんによる年間死亡率は診断後5年間が最も高く、その後は低下することが明らかになった。

また、1993〜1999年に診断を受けた対象者の5年間の乳がんによる累積死亡リスクは14.4％（95％信頼区間14.2〜14.6％）であったのが、暦年が進むにつれ徐々に低下し、2010〜2015年に診断を受けた患者では4.9％（同4.8〜5.0％）にまで下がったものと推定された。

次に、2010〜2015年に浸潤性乳がんの診断を受けた15万6,338人に対象を絞り、がんの悪性度、腫瘍のサイズ、陽性結節数、ERおよびHER2陽性か陰性かなどの特徴を組み合わせて対象者を分類し、平均40人以上で構成される253グループ（15万3,006人）について5年間の累積死亡リスクを推算した。

その結果、死亡リスクは特徴の組み合わせにより大きく異なることが明らかになった。例えば、全体の62.8％（9万6,085/15万3,006人）の対象者が持つ特徴に該当するグループでの死亡リスクは3％未満であったのに対し、4.6％（6,962/15万3,006人）の対象者が持つ特徴に該当するグループでの死亡リスクは20％以上であった。

こうした結果についてTaylor氏は、「早期浸潤性乳がん患者の予後が大きく改善したことを示すこれらの結果は、早期浸潤性乳がんと診断された女性の大多数にとって歓迎すべき知らせだろう。早期浸潤性乳がん患者のほとんどが、今では長期にわたる生存を見込める」と話す。

ただし、この研究は観察研究であり、死亡リスク低下の原因を特定することはできない。また、がんの再発に関する情報も入手できなかったため、考慮されていない。

さらに、この研究での対象者は最初に手術による治療を受けた女性であり、手術前に化学療法を受けた女性や、乳がんがすでに転移していた女性などを除外している点も限界点として挙げられる。

それでも研究グループは、「この研究結果は、早期浸潤性乳がん患者とその治療を行う臨床医に、最新データに基づく可能性の高い予後の推定を提供するものだ」と述べている。（HealthDay News 2023年6月14日）