国内消費は家庭内では堅調だが飲食店での回復が鈍くなっている
2022年度の日本酒輸出総額は約475億円という最高額を記録しました。一方で国内の消費量は、家庭内の消費は堅調でしたが、コロナの影響で飲食店への販売が減ったためコロナ前の2019年に比べ1割ほど減少しています。今年は昨年と同程度には回復しており、今後の回復状況に注目しています。
海外向けは好調が続いていましたが、ウクライナ情勢という不安材料があり、その影響が出てきています。また、国内・海外で共通して、コロナ収束後、外食では高価格帯と低価格帯の飲食店は客足が戻ってきているものの、中間帯が戻っていない傾向があります。中間帯の飲食店でいかに客足が戻るかにより、消費動向も変わってくると考えています。
輸出用では特に高価格帯のクラスが好調です。日本の人口が今後さらに減少する中で、海外で評価の上がった国産ウイスキーのように、日本酒もグローバル展開ができる商品にしていかないと生き残れないと考えています。
日本国内で日本酒があまり飲まれない理由とは
食生活の変化やチューハイや発泡酒などとの低価格な商品との競争という面があります。日本酒は原料に国産の米を使っていることもあり、価格を落とした製品が作りにくい現状があるからです。
しかし中央会の調査では、直近1年で飲むようになった酒類として、Z世代はビール類と共に日本酒を挙げています。中央会のインスタグラムでも「フルーティー」「甘口」「飲みやすい」「低アルコール」といった商品に反応が良くなっています。
発泡酒も大手酒造メーカーがコンビニで販売するような商品を展開して認知度が上がっており、日本酒を飲むきっかけとしては若い世代にも取り入れやすいのではないかと思います。日本酒フェア2023でもセミナーを開催した一般社団法人awa酒協会は、本格的なスパークリング日本酒に取り組んでおり、売れ行きも好調だと聞いています。先日開催されたG7広島サミットでも乾杯用のお酒として使われたこともあり、認知もかなり広がってきました。
カレーやエスニックにも日本酒は良く合う!日本酒に対する固定観念を捨てよう
我々の調査でも食事との組み合わせは関心が高く、季節感を楽しむ方も多くいます。飲食店では食事と合わせたり、季節の日本酒を楽しむことができますが、家飲みはなかなかそこまで行っていない状況なので、食事とのペアリングや季節の日本酒の楽しみ方など、「日本の酒情報館」やインスタグラムで、情報を数多く発信しています。
おちょこを用意しないといけない、和食と合わせないといけないなど、日本酒にはルールがあると思い込んでいる方も多いですが、本来、日本酒は飲み方の自由度が高いもの。また、日本酒にはうまみ成分のアミノ酸が含まれており、いろいろな料理の味を補完してくれるため、合わない料理がほとんどないと言ってよいほどなのです。
中華やエスニック料理も日本酒と相性が良く、カレーはにごり酒やアルコール度数の低い少し甘めの酒と合わせやすいですね。ナンプラー(魚醤)はビールやワインと合わせると生臭く感じることもありますが、日本酒とは相性がとても良いです。
中央会は国際ソムリエ協会ともパートナーシップを締結しており、様々な料理とのマリアージュも提案しています。海外の方にはワインと同じように使えるとお伝えしていますが、日本の方には実は日本酒と合う料理がたくさんあるということを知っていただきたいと思います。
日本酒の飲み方にルールはない!燗酒、ロック、カクテルと自由に楽しんで
日本酒は冷やしても温めてもおいしい酒で、温度や飲み方によって味が様々に変化します。
日本酒はストレートで飲むもので、水や炭酸で割っていけないと言われていた時代もありましたが、水や炭酸、お湯で割っても、氷を入れても全然構いません。純米酒のように味が濃いものはまろやかで飲みやすくなります。
氷を入れると香りをさらに感じることができるし、お湯割りにしてから燗にするのもおすすめ。香りの高い吟醸酒をトニックウォーターで割るととてもおいしく、ウイスキーのように香りが立ちます。
フルーツやアイスを入れたり、ハーブやコーヒーで作った氷を入れてみたりなど、カクテルのようないろいろな飲み方ができます。
温める温度によって呼び名が変わる燗酒は、料理の一種だという考え方もあります。私が好きな飲み方は燗酒にガサムマサラを入れる、茶葉を入れて燗酒にするというもの。
日本の酒情報館(以下、情報館)ではお屠蘇を現代風にアレンジした「ネオお屠蘇」を提供したこともあります。お屠蘇は「屠蘇散」と呼ばれる5~10種類の生薬を配合したものを、日本酒やみりんに漬け込んだ薬草酒。屠蘇散の中身は山椒、八角、陳皮など、日本でもなじみのあるスパイスも入っています。
情報館では、コクのある甘口の酒+ガラムマサラ、燗酒+クローブ(共に下記画像)を提供していましたが、私のお気に入りはにごり酒+山椒。とてもさわやかな飲み口になります。いろいろなものを日本酒に混ぜてぜひ“実験”してほしいですね。
日本酒はその日に飲み切らなくても劣化しにくいのもメリット。ワインは開けると2~3日で味が変わりますが、日本酒は2週間ほど持ちます。生酒でなければ冷蔵庫に入れなくても大丈夫ですので、台所の片隅にでも置いておけます。
日本酒はアウトドアだとより香りや味が楽しめるということはご存じですか?風や木の香り、雨が上がった後の土の香り、焚火の炭の香りと日本酒の香りは実はとてもよく合います。風を感じながら屋外で飲む日本酒はとてもおいしく、炭火焼きやBBQに合わせるのもいい。冒険家やキャンパーといったアウトドアの専門家に聞くと、日本酒が一番合うという方がとても多くいます。キャンプではなくても自宅のベランダで風を感じながら、シャンパングラスに入れた日本酒を楽しむのも良いですね。
多様化する日本酒
スパークリングや、酸味やうまみをもっと濃くするなど日本酒自体に味の幅を持たせようという傾向が出てきています。
酒米、酵母の開発も、以前は香りが良い、さらっと飲めるものを目的としていたことが多かったですが、最近は個性的な米や酵母を作ってみようという動きも活発です。
地元の米を使おうという酒蔵も多く出てきて、地元に適した米の開発も行われています。山形の酒米「雪女神」は少し前なら山田錦に比べると渋く感じると評価されたと思いますが、味を複雑化させて、渋みを個性として使って行こうという流れが感じられます。
また、近年注目されているのが低アルコールの日本酒。従来の日本酒はアルコール度数が15度程度ですが、最近は新しい風味や味わいの低アルコールの日本酒も出てきています。製造技術の進化もありますが、飲む方のフィーリングや嗜好が変わってきているのかもしれません。
日本酒は郷土料理のような面もあり、味わいに地域の特色が出ることが多いですが、さらに造り方、原料の酒米、酵母などの自由度も高まっており、今後はさらにバリエーションが豊富な日本酒が出てくると思います。酒の中でも日本酒は造る手間、コストがとても高い酒。それだけ複雑みもあるし、それぞれの日本酒に個性があるのでそこをぜひ楽しんでもらいたいですね。
【AJの読み】自由な発想で日本酒を楽しんでみよう
筆者は夫婦で日本酒が大好きで、専用の冷蔵庫には常に一升瓶を3本常備している。「公開きき酒会」は一般人が全国の酒蔵のきき酒ができる稀有な機会で、じっくりと時間をかけて楽しんだ。
「全国日本酒フェア」でも様々な地域の日本酒が試飲できるが、目を惹いたのはピンクのスーツに身を包んだ蔵元の方々がPRしていた愛媛県酒造組合のブース。「新しい酵母を作ると聞いていたが、4種類もできたと聞き驚いた」(宇都宮氏)という、天然の花から取った「愛媛さくらひめ酵母」を使った酒が並んでいた。
愛媛県酒造組合、東京農業大学、食品産業技術センターが共同研究を行い、愛媛県農林水産研究所が開発した愛媛県オリジナル品種の花「さくらひめ」から、4種の清酒用花酵母「愛媛さくらひめ酵母」の分離培養に成功。愛媛県の酒蔵が「愛媛さくらひめ酵母」を使った日本酒の提供を開始した。
こうした新しい酵母や酒米を使ったものや、スパークリングなど、新しい形の日本酒が増えてきている。飲み手も日本酒に対する固定観念を取り払い、自由な発想で楽しんでみれば、日本酒が持つ多彩な魅力に気づくのではないだろうか。
文/阿部純子