「ゲームの仕事を受けたのはファンタジーだから」アーティスト・天野喜孝氏が描き続けてきた『ファイナルファンタジー』の世界

2023.07.13

主人公以外のキャラクターを描くのが好き

──天野先生の印象に残っているキャラクターを教えてください。

天野　基本的に主人公ではない脇役が好きですね、ライバルとかラスボスとか。例えば『スター・ウォーズ』だと、ルーク・スカイウォーカーよりも、ハン・ソロやダース・ベイダーといった周りのキャラクターがいい味を出していますよね。これはある種の法則と言いますか、主人公はしっかりした役柄が多くて〝いい子だけど個性が薄い〟印象がありませんか？　それとは真逆で『ファイナルファンタジーVI』に登場するケフカ・パラッツォのように、どこか尖ったキャラクターがお気に入りです（笑）。『ファイナルファンタジー』に登場するキャラクターは十人十色で、性格や職業も全然違う。印象に残るキャラクターはたくさんいますが、それを自分なりに表現できるのはおもしろいところだと思います。

様々な人たちの才能と情熱に刺激を受けた作品

──36年目を迎えている『ファイナルファンタジー』シリーズの強みはどんな部分にあると感じますか？

天野　『ファイナルファンタジー』というひとつのジャンルが世界中で人気を集めているのは、作品を生み出すスタッフ陣の才能と、現場から生まれる情熱があるからだと思います。厳しい世界ではあるものの、それぞれのスタッフがポリシーを持って制作に励んでいることが、打ち合わせのたびにヒシヒシと伝わってきます。そうしたスタッフ間の切磋琢磨も、いい意味で作品の質に関係していると思いますね。私自身もそうした、才能ある人たちがたくさんいる中に参加させてもらっているんだと感じています。『ファイナルファンタジー』という、いわば〝神話の世界〟についてスタッフの人たちが調べたり考えたりした設計を、自分なりに表現する。それは、ほかの仕事では得られないかけがえのないものだと思います。そういった役割に徹しながらも『ファイナルファンタジーVII』の時にはリトグラフ（石版画）を使ってみたり、時にはシルクスクリーンの手法を用いたりと、様々なことにもチャレンジしてきました。そういった意味では、様々な人たちの才能と情熱に刺激を受けながら、新しいことを試して発表できる場と言えるかもしれません。見られるプレッシャーよりも、表現できることのおもしろさは、自分にとってとても大きなものですね。

天野先生が描いた1作目のイメージイラストのひとつ。巨大な影が戦士たちの前に立ち塞がるダイナミックな構図だ。当時、このようなイメージイラストがゲーム誌などに公開され、ドット絵のゲームで遊んでいたプレイヤーたちの創造力を駆り立てた。

『ファイナルファンタジーXVI』関連商品に描かれた天野先生のアート

『FF16』のタイトルロゴをはじめ、『【数量限定】FINAL FANTASY XVI コレクターズエディション』の特装アートBOX、『PS5 デジタル・エディション用カバー〝FINAL FANTASY XVI〟リミテッドエディション』などに描かれた天野先生のイラストが、最新作『FF16』に花を添える。