『ファイナルファンタジーXVI』の根幹を担うのは、主人公クライヴ・ロズフィールドと、幼なじみでもあるジル・ワーリックが織りなすストーリーだ。原作および脚本を手がけた前廣和豊さんに加えて、クライヴ役の内田夕夜さん、ジル役の潘めぐみさんにも参加いただき、両キャラクターの設定や役づくりへの思いなどを語ってもらった。
声優 内田夕夜さん
海外ドラマや映画ではライアン・ゴズリング、ジェームズ・マカヴォイをはじめとした多くの海外俳優の吹き替えを担当。シリーズの初プレイは初代『ファイナルファンタジー』。
声優 潘めぐみさん
アニメ『HUNTER×HUNTER』ゴン=フリークス役にて本格的に声優デビュー。『ファイナルファンタジー』シリーズの初プレイは『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』。
クリエイティブディレクター 前廣和豊さん
今作の原作・脚本・クリエイティブディレクター。『ファイナルファンタジータクティクス』からシリーズの制作に携わり『FF14』ではイベント統括とメインシナリオライターを担当。
クライヴという主人公の〝生き様〟を描いた物語
──『ファイナルファンタジーXVI』は戦乱の歴史を深く掘り下げて描く、大河ドラマのような物語だという印象を受けます。物語づくりで注力した部分は何でしょうか?
前廣 僕自身は特別壮大な物語にしようという意識は持っていなかったのですが、今作は主人公クライヴという人物の生き様を描くことに徹底したため、それが大河ドラマのような印象になったのかもしれません。
──クライヴの生き様を描くうえで、どんな切り口から今作のストーリーを着想したのでしょうか?
前廣 シリーズ初の本格的なアクションRPGですから、過去作に比べてプレイ中の〝操作が忙しく〟なることを懸念しました。そこで、クライヴの目的を絞り、表面的な物語はシンプルにして、物語に入り込みやすいようにと考えたのです。そこから着想したテーマが〝復讐〟でした。「兄弟関係を軸とし、大切な弟を殺されて兄のクライヴが復讐に燃える」といった設定を思い描きながら大枠を固めていきました。
──ジルはどのような存在として設定されたのでしょうか?
前廣 クライヴが成長して復讐の鬼と化した時に、彼の傍らにいる〝芯の強いの仲間〟として描こうと考えました。クライヴとジルは互いに影響し合い、ともに成長していく間柄として、対等な関係性にしています。
──内田さんと潘さんはクライヴとジルについてどんな印象を持ち、役づくりをされたのでしょう?
内田 クライヴについて、説明を受けた時には「これは大変な役だな」と(笑)。本当に大河ドラマ1本を演じきるくらいの気持ちが必要だと覚悟しました。今回の仕事は、どこから見られるのかがわからない舞台の上に立つ演劇に近かったように思います。向き合う人物やシーンの違いに合わせて一面的なクライヴを演じ分けるのではなく、多面的なクライヴを常に演じることが必要でした。そのためには土台となるものがしっかりしていないと、人物像が途中で崩壊してしまう……。そんなことを感じていました。幸いにも、前廣さんからいただいた資料や台本には必要なことが網羅されており、知りたいことは教えていただけたので、クライヴを演じきることができたと思います。なお、収録中には2回ほどスクウェア・エニックスの本社にも伺い、開発中の技の映像などを見せていただきました。おかげで「うりゃっ!」という技の掛け声ひとつでも、どのようにテンションが違うのかを感じられました。
潘 ジルはクライヴのように物語のすべてに関わっていません。しかしながら少年期・青年期・壮年期を通して演じさせていただくこともあって、時代背景や人間関係などをしっかりと理解し、把握しておかなければ、ジルという人物と生きることはできないと感じました。そこで、内田さんと同様、いただいた資料と台本は、すべて読み込んでから収録に臨みました。少年期のジルは、クライヴの幼なじみとして一歩引いたところから見守る立ち位置にいます。クライヴに言葉を伝えたくても、彼女なりに時代や立場などを考えて、グッとこらえる。そんな繊細な関係性を細かく意識して演じました。一方、青年期にはドミナントとして戦うことを強いられ、背負うべきもの、償うべきことが大きくなっていきます。その変化も演じるうえで意識しました。特にクライヴとの再会した時の〝距離感〟は、前廣さんのディレクションをもとに、何度か調整させていただいた記憶があります。長い時を経て再び出会えたのはうれしいことではあるんですけど、その思いよりも自分の背負っている使命や葛藤があり、彼に甘えることはできない。まるでシヴァのごとく、心に氷をまとっていたと思います(笑)。
前廣 内田さんも潘さんも丁寧に役づくりをしていただいたおかげで、細かいディレクションをした覚えが正直ないんです。演じるというよりも、クライヴとジルそのもののように振る舞っていました。クライヴが叫ぶシーンでは、内田さんが役にのめり込みすぎて酸欠で倒れちゃったことも。潘さんに至ってはジルが泣くシーンで号泣するあまり「収録はここまで!」みたいな(笑)。そのシーンだけは、音源を確認するたびにもらい泣きをしちゃいますね。
自分を受け入れてラクに生きてほしい
──クライヴとジルの印象は、演技を通じて変わりましたか?
内田 クライヴには様々な場面があります。心に傷を負っていながらも、このシーンでは心を開いているのか、それとも逆にあきらめているのか……。その時々で異なる〝重心の置き方〟のようなものについて、前廣さんからディレクションを受けながら演じていく中で、ひとりの人間としてクライヴのことをとても大好きになりました。すべて演じきった今言えるのは、一つ一つの演技に偽りがあればディレクションのOKは出なかったので、クライヴの感情はすべて私の偽りない気持ちということです。クライヴは僕自身であり、僕の中にはクライヴがいる──それは私の一生の自信になります。
潘 青年期のジルは、言われたことに従うしかなく、自分を持つことができず、目の前のこととも向き合えていなかった。けれど、物語が進むにつれて自分と向き合い、過ちを乗り越え、周りとも向き合えるようになり、大きく成長していきます。それは、クライヴのおかげなんです。彼との旅を通じてジルという人間が形作られていく。先ほど前廣さんが「クライヴとジルは互いに成長し合う関係」だとおっしゃっていたのですが、それが収録を終えた今すごく腑に落ちました。
──物語を通じて、プレイヤーには何を感じてほしいと思いますか?
前廣 大それたテーマは入れていない一方、キャラクターに対しては〝自己肯定〟という小さなテーマを盛り込んでいます。様々な登場人物がそれぞれ葛藤を抱えていて、何らかのかたちで受け入れ、乗り越える……。その過程についてストーリーを通じて描きました。現代の我々もそうですが、生きることって結構つらいし、自分を受け入れるって大変ですよね。だけど「もっと楽に生きていいんだよ」「難しく考えなくていいんだよ」ということを、キャラクターを通じて感じ取ってほしい。そして、明日からがんばるための糧にしてもらえたらと思っています。
潘 実は、今作の収録期間中、自分自身が必要としていたテーマが〝自己肯定〟でした。このお仕事をさせていただいていて不思議に感じるのは、演じている役が、その時の自分に必要なことを教えてくれることがあるんです。クライヴとともに戦い、歩んで行くジルから、本当に多くのものをもらいました。『ファイナルファンタジーXVI』とは、巡り合うべくして巡り合わせていただいたんだなと、心から感謝しています。
前廣 本編のラストシーンでクライヴとジルが会話をするシーンは、演じたおふたりの心からの言葉だと感じるんですよね。これはきっと、プレイした人にも伝わるはず。ぜひ最後までプレイして、クライヴとジルがどんなやりとりを交わすのか、見届けてほしいですね。
「クライヴの感情はすべて偽りのない私の気持ちです」
「クライヴは、客観的には主人公であり、悩めるヒーローかもしれませんが、演じる主観的には、それらをすべてひっくるめた、ただのひとりの人間を演じる必要があります。重圧を感じつつも、自分にとっては生涯を通じて大切な経験になるだろうとワクワクしました」(内田さん)
「クライヴとともに歩むジルから本当に多くのものをもらいました」
「クライヴとジルって、いわゆるヒーローとヒロインではなく、ジルはクライヴに対して発破をかけたり諭したりできる対等な関係だからこそ、培っていけることがあります。それがクライヴの成長にも、そしてジルが自分に向き合うきっかけにもつながっているんです」(潘さん)
取材・文/桑元康平(すいのこ) 撮影/干川 修 ヘアメイク/MAKI(TOKYO LOGIC)[内田夕夜さん]、齊藤栄梨[潘めぐみさん]
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※本記事は、雑誌「DIME」8月号に掲載されたものを転載しております。
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※電子版には付録は同梱されません。
構成/DIME編集部