■連載/阿部純子のトレンド探検隊
5月にオープンした居酒屋「新橋銀座⼝ガード下 THE 赤提灯」(以下、THE 赤提灯)は、飲食店経営を展開するミナデインとスキマバイトサービス「タイミー」を提供するタイミーが協業し、すべてのアルバイトスタッフがスポットワーカーという新コンセプトの店舗だ。
飲食業界の人手不足を解消する新しい採用・育成のモデルケースに
タイミーは、従来の求人サイトや派遣とは異なり、働き手の「働きたい時間」と企業の「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービス。働き手は面接や履歴書無しで、空いている時間に最低1時間からすぐに働くことができ、企業側も今働いてほしい人がすぐに見つかるメリットがある。
タイミーの募集職種を見ると時代の様相を反映している。2019年は飲食業が6割近くを占めていたが、2020年以降、新型コロナで人手が余剰になった飲食業から物流業や小売業、デリバリー等の配達へ転換した。
今年5月から新型コロナウイルスが5類感染症に移行し、行動制限が緩和されて人流が回復するに伴い、コロナ禍の2021年と比較したタイミーの募集状況は飲食業界全体では約46倍となり、レストランが約56倍、居酒屋が約37倍で、4月は最繁忙期の年末を超える過去最多の募集人数を記録。また、店内飲食とデリバリーとの比率は9対1と、店内飲食の割合が大幅に増加した。
外食産業が賑わいを取り戻す一方で、飲食業界の人手不足は深刻さを増していることから、「THE 赤提灯」は飲食業未経験のワーカーでも働きやすい“教育店”という位置付けで、未経験者・初心者限定枠と経験者限定枠を設けてワーカーを募集している。
タイミーが所有するスキマバイト人材の活用・育成ノウハウと、ミナデインの飲食業界における人材育成の知見を掛け合わせ、「はじめての人が働きやすいこと」を追求した独自のカリキュラムを設計、飲食未経験のタイミーワーカーをサポートしている。
「飲食は忙しい、経験がないと入れないなどネガティブなイメージを持つ方も多く、飲食業の人手不足に拍車をかけています。スポットワークだと、働くことへの障壁が低いのでやってみようというアクションが取りやすいことから、未経験者でも働けるように間口を広げて、まず働いて飲食業を知ってもらいたいという目的で『THE 赤提灯』をオープンさせました。
教育店はタイミーでも初の取り組みです。人手が足りない飲食業の現状を解決できることはないかと模索する中で、スキマ時間を活用し潜在労働力を喚起することはもちろん、体験的に働くことができて、飲食業界の魅力を知っていただく場が必要だと考えました。未経験でも働くことができて、スキルアップしてまた働きたいというモチベーションにつながる場所を作ろうとミナデインさんと共同で立ち上げました」(タイミー BX部 広報 松本知世氏)
「THE 赤提灯」は1階が立ち飲みカウンター、2階が着席で全44席。社員2名、タイミーのスポットワーカー4名で店を回している。4名のうち2名が初心者枠で、初心者枠は設けるが、店の状況によって臨機応変に対応していくという。
初心者でも安心して働けること、段階的にスキルが習得できるということを目的にしていることから、同店の場合、求人の段階から店のルールや業務の説明をまとめたマニュアルと、段階的に身に付くスキルの一覧を見ることができ、事前に仕事の内容や方法などを確認できる。
初回勤務時には開店前に店長からレクチャーを受けたり、メニューの試食や、動画を見ながら店の雰囲気を知ってもらうオンボーディングの時間も設定している。
椅子やカウンターの裏側にも席番が書いてあり、初心者でもどの席にいる客が何を注文したかすぐにわかるようになっている。また、事前に店長が想定した、おすすめメニューや、メニューの特徴、食材の産地、酒造の所在地など、客から聞かれる可能性が高い質問への回答を書いたカンペも用意している。
実際に働いた後に、ワーカーと事業者が相互評価するタイミーの「レビュー機能」を活用し、店側からその日の業務でできていたスキルをフィードバックして、ワーカーと店側がキャッチボールできる仕組みになっている。
「『THE 赤提灯』は、タイミー上での飲食稼働経験が10回未満を未経験者・初心者としており、この店舗での経験は飲食店で働くベーススキルを学ぶことができます。事前確認できるマニュアル、カンペ、社員のフォローなど、右も左もわからなくて慌てるということが起こらないように、初心者でも働ける体制を整えています」(松本氏)
5月末に「THE 赤提灯」でスキマバイト経験した大学生の村上大知さんに話を聞いた。村上さんは塾講師のアルバイト経験はあるが、飲食店は同店が初めて。
「飲食店には興味がありましたが、忙しくて大変というイメージがあり、長期のバイトとして入るにはハードルが高いと感じていたことから、パッと空いているスキマ時間に単発で入れるタイミーを使って、お試し的な感覚で『THE 赤提灯』で働かせてもらいました。
飲食は未経験だったので、自分の場合は『バッシング』と呼ばれる片付けやグラスや皿を洗う基本的な仕事をメインに行いました。オープンして間もない時期だったのでお客様も多く、オーダーを取ったり、バッシングをしたりとひっきりなしに仕事をしている忙しい状況でしたが、マニュアルやスキルチェックシートのおかげでスムーズに仕事ができました。
募集の時点で仕事の内容がわかるので、初めての経験でもイメージがしやすくとてもありがたかったですね。スキルチェックシートも気を付けるべきことが一目瞭然で、飲食が初めてだった自分にとっては基本的なことから学べることができ、こちらも初心者にはありがたいと感じました。
現場に立って働いたことで、今まではイメージだけだった飲食業が理解できたことは大きかったです。飲食業をやりたいけれど不安があると迷っている人には、初心者がスポットで入れる『THE 赤提灯』での体験をすれば、次も飲食業をやってもいいと前向きな気持ちになれると思います。
塾講師のバイトとタイミーでのスキマバイトを並行してやっていますが、同じ人と関わる仕事でも、少人数に対応する塾と違い、居酒屋は大勢の人を相手に接客します。中には外国人の方もいるので、対応の仕方なども身に着けられる良い機会になりました。
アルバイトが全員スポットワーカーだと、人間関係なども気にすることがないので、その点でも働きやすさがあります。チェーン店の居酒屋でも働いたことがありますが、『THE 赤提灯』のようなマニュアルや社員さんの手厚いフォローもないので、比べてしまうと未経験や勤務経験が数回の人にとっては大変だなと感じました」(村上さん)