病気や事故、加齢など様々な理由で歩行が困難となってしまった人たちのリハビリに自身の接骨院にて長年携わってきた株式会社YAMADAの山田好洋氏は、ゴムひもをつなぎあわせて歩行補助具を自作。改良を重ね、ゴムの力で歩行支援する世界初の歩行筋サポートギア「futto」を2023年6月22日より発売した。
futtoを着用した開発者の山田好洋氏。
世界初のゴムの収縮で歩行をサポートする歩行補助具
世界初の技術として国内特許も取得済の「futto」は、骨格筋に沿って配置された前後左右のゴムが、歩行時に交互に収縮することで、歩行時に使う筋肉をサポートする歩行補助具。
Jr・A・Xの3つのサイズのコルセットとSS・S・M・Lの4つのサイズのゴムチューブを体格に合わせて組み合わせ、服の上から着用。タイツを履くように着用し、膝の横の部分の留め具で固定し、ひざの皿の部分がひし形の部分に合うように調整するだけで着用できる。重さも約280gと軽量なので、持ち運びも便利だ。販売はfuttoの公式ECサイトからのみとなっている。
コルセットを着用し、コルセットと繋げたゴムチューブを片足ずつ足先、かかととひっかける。
両足通したら、膝の横の部分のフックをひっかけるようにして留め、膝の皿の部分を合わせると装着完了。
futtoは各サイズ1セット 3万3000円(税込み)
コルセットとチューブを体格に合わせて選んだものでセットになっている。
着用するとスムーズな歩行をサポートし、歩く際・走る際の身体への負担を減らし、転倒も予防できる。これは歩行時に使うべき筋肉を正しい位置に導くサポートをする効果があり、姿勢の改善にも繋がっている。
実際に着用してみると、通常の筋力を持つ筆者でも極端に引っ張られている感じはなく、ストレッチ素材の服を1枚重ねている程度の体感だ。これだけで劇的に歩けるようになるというのだからすごい。
288万円のロボットよりも100倍いい歩行サポートを3万円台で実現
開発のきっかけは、後縦靭帯骨化症という難病患者の方が「来週ロボット(型の歩行補助具)を買うので、それで歩けるようになる」という満面の笑顔から。その結果は、ロボットを使っても歩くことはできないという残念なものに終わってしまう。
患者の方のあまりの落胆ぶりを目にした山田氏は、施設に置いてあったトレーニング用のゴムチューブを使い、ロボット型の歩行補助具をヒントに、ゴムを衰えてしまっている筋肉の代わりにする歩行補助具を自作。着用した患者の方からの「ロボットの100倍歩ける」という声を受け、これをきっかけに、第1号機を作り、本格的な商品開発を開始した。歩行に問題を抱える様々な症例に対し使ってみると、今まで歩けなかった人が自分の足で歩くという場面が次々と巻き起こっていった。
そこから2019年9月の日本支援工業理学療法学会での発表を皮切りに、様々な学会での発表や、治験も進め、この度自社オンラインでの本格的な商品流通を実現した。
「従来の歩行補助器具では、こういった直接足に装着して使うタイプではロボットしかなく、借りるだけでも288万円ぐらいしました。病院内での歩行トレーニングなどはロボットで行われてきましたが、購入となると数千万円かかってしまいます。そのうえ、坂道や階段の昇降トレーニングではロボットは使えません。それだったらもっと安く、簡単に必要な方にお届けできればなと思っています」(山田氏)
発表会にてプレゼンテーションを行う山田好洋氏。
ゴムもコルセットも特注で作っており、価格はゴム製品としては比較的高額な3万円台。ただ、製造業者も山田氏の心意気に乗って挑戦してくれた手弁当のプロジェクト。今後多くのユーザーに売れ、生産体制を変えることができればちょっといい歩きやすいスニーカーを選ぶぐらいの価格ぐらいまでは下げたいと考えている。
保険適用については、医学的な治験も取れているものの、販売企業や製造会社が様々な制度上の申請や資格が必要となるため申請の準備は行っていない。現状ではまずは製品を必要な人へと届けていく活動を優先していく。
6人6様の病に寄り添う新たなツールはQOLの向上にも寄与
今回の発表会には、6人の歩行困難な患者の方が登壇。実際にfuttoを着用し、それぞれの歩行困難な状態をサポートしてくれる様子を披露してくれた。今回はそのなかから3名の方の例をご紹介する。
●長谷川聖さん(55歳・筋萎縮性側索硬化症)
ALSという略称でも知られている筋萎縮性側索硬化症を患っている長谷川さんは、今年に入ってから歩行で転ぶことが多くなり、3月からは歩行時には歩行器を使っている。ただ、歩行器を使っても筋力の低下によりすり足になってしまい、安定せず危ない状態に。
今回futtoの使用なしと、使用ありの例を提示するなかで、明らかに後者の方が安定性があり、ご本人にとっても歩けるということは大きな喜びになっているようだ。
futtoがない状態だと、普通に立っている状態でも姿勢の維持が難しい。
futtoのサポートがあると、足をあげて歩くことができた。
●佐藤トモ子さん(83歳・左ひざに人工関節全置換術 術後)
左ひざに人工関節をいれた手術後で、歩行時に波打つように歩いてしまう問題が。また、どうしても姿勢が前のめりになりがちだった。futtoを着用すると安定して歩けるだけでなく、姿勢も良くなり、歩くスピードもぐんとアップした。
歩行の筋肉だけでなく、それに付随する筋力のリハビリにもつながっている。
●前野幸子さん(44歳・脳梗塞による片麻痺)
令和元年に脳梗塞を発症。その後リハビリを経て、現在は装具なしの杖を使っての歩行は可能なまでには回復できている。今回登壇しての感想で「歩けて本当に嬉しい」と涙ながらに語る姿に、失ってしまった日常を取り戻せる喜びが伝わってきた。
普段は歩行時に杖を使用している。
futtoを着用すると、支えなしに歩くことができた。
6人の歩行困難者の方の様子を実際に見て思ったのは、「自分で歩ける」ということが大きな原動力となっていることだ。進行性の難病であっても、自分の力でできることをやりたい。そんな力強い想いをサポートしてくれる歩行補助具の誕生は、大きな喜びになっているという。futtoは歩行困難な人の補助具だけでなく、登山時や観光での長時間の歩行など、身体への負担を軽減するための利用も可能だ。
山田氏は今後は日本だけでなく、世界中の歩行困難な人の助けになっていきたいと考えている。
取材・文/北本祐子