3年続いたコロナ禍は大規模な国際展示会の開催内容にも大きな影響を与えている。長年歴史のある展示会はマンネリから脱却するため以前から試行錯誤を重ねていたが、ハイブリッド開催が当たり前になり、リアル会場にどうやって出展者たちを集め、参加者数を増やせるかが大きな課題になっている。今年に入って多くの展示会が対面開催に戻りつつあるが、コロナの影響がまだ残る中国からの出展や参加者は減少したままで、地域によっては政治的な問題で同じような状況が続く可能性がある。
毎年6月に台湾で開催される「COMPUTEX TAIPEI(コンピュテックス・タイペイ)」は、そうした影響を最も受けそうな展示会ではないかと著者は見ていた。しかし、実際に会場を訪れると以前に比べてビジネス色が強くなり、海外からの出展も増えて国際展示会としての雰囲気が強まり、取材者としてはとても見ごたえのある展示会となっていた。
4年ぶりに本格的な対面展示会に戻った会場は全体的に落ち着いた雰囲気だった。
もともと黎明期にあった台湾のコンピュータ企業が製品を発表する場として1981年にスタートしたCOMPUTEXは、コンシューマ向けのハードウェア製品に関連する技術を紹介する展示会という印象だった。パソコンからガラケー、ノートPC、タブレット、スマホと時代が変化しても、自作パソコンやゲーミングマシン、オーバークロック大会といった秋葉色は今も残り続けている。
自作パソコンのデザインを競うコーナーやオーバークロック大会は健在。
だが今年は週末の一般参加日がなくなり、会期は5月29日から6月2日の4日間に縮小された。出展数も2019年の約1600社に比べると1000社以上(主催者発表)と減っており、それだけ見ると大幅に縮小されたように見える。だが会場に入ると個々のブースサイズが大きく、ケーブルや電源などの周辺機器だけを出展する小さなブースが減ったいせいか、むしろスケールアップしたように感じられた。
ブースは全体的に大きくなり、デザインレベルも上がっていたように見える。
参加者は基調講演や併催するスタートアップ系展示会のInnoVEX(イノベックス)も含め、150か国から47,594人が参加したと発表されている。会場が台北駅から地下鉄で約20分の南港展覧館に集約されたこともあり、連日多くの人であふれていたように見えたが、混雑をかきわけて取材するというほどではなくだいぶ取材はしやすかった。
会場にあふれるAI、スマート、サスティナブル
今年のCOMPUTEXをまとめるなら「AIが主役」であったのはまちがいない。基調講演ではNVIDIAにはじまりQualcomm、Arm、NXP、SuperMicroのトップらが、AI時代の到来によるハイパフォーマンス・コンピューティングの必要性を話題にし、それらを支えるテクノロジーの提供が不可欠であると強調していた。
さらに街や家、自動車、オフィス、工場まであらゆる場でスマート化が進むことで社会がより良い方向へと進み、世界で大きな問題となっているエネルギーや環境問題の解決にもつながるというメッセージも多く聞かれた。
莫大な電気量を消費し、熱を発散するコンピュータの省エネ化は世界でも大きな課題となっている。エネルギーの輸入依存度が2021年には97.4%に達している台湾では、国内総生産の約3分の1を占める情報通信技術産業が抱えるエネルギー問題を重視しており、会場でもサスティナブルやグリーンをテーマにする企業ブースが目立っていた。
面白かったのは、台湾ではスティーブ・ジョブズやイーロン・マスク以上の人気者であるNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが、AIの可能性を多くの人たちに伝えようと、会場や周辺で開催されている台湾の半導体関連企業の発表に連日姿を見せ、精力的にトップセールスを繰り広げていたことだ。基調講演では生成系AIで作ったテーマソングを合唱するなど、その魅力をフルに活かして自社製品が切り開くAIと台湾の明るい未来をアピールしていた。
エンドユーザー向け商品もサービスもないBtoB企業のCEOが、なぜこれほど人気なのか理由はよくわからなかったが、「あらゆるシーンでAIが使われるようになり、その鍵となるのが計算能力だ」と述べるフアンCEOの言葉に共鳴する人たちが、台湾の情報通信技術産業界を支える新たな人材として加わるのだろうというのは感じられた。
メディア向け発表会で芸能人のように記者たちに囲まれるNVIDIAのジェンスン・フアンCEO。