コロナ禍は外食や宿泊、観光産業に甚大な影響を及ぼしました。しかし、まん延防止等重点措置の解除、5類への移行に伴って消費者は日常を取り戻しつつあり、被害を受けた産業も立ち直りつつあります。
その一方で、コロナ禍で特需に見舞われ、そこからの反動減に苦しむ企業が出てきました。誰もが知るとある有名企業は、大改革に乗り出しています。
大規模なレイオフで退職金が利益を圧迫するMeta
特需からの揺り戻しで苦心しているのが、アメリカのテック系企業。Meta(Facebook)、Alphabet(Google)などの大手新興企業からNetflix、Zoomなどのこれからの成長に期待されていた企業まで幅広くダメージを受けています。
特に厳しい状況に置かれているのが、Metaでしょう。2023年1-3月の最終利益は前年同期間比24%減の57億ドルでした。
Metaはコロナ禍による広告特需の影響を受け、2021年度の売上高が前年同比37%増の1,179億ドルと大幅に伸張したものの、2022年度は1,166億ドルと1%の減収に見舞われました。
業績に急ブレーキがかかったため、3回にわたる大幅な人員削減策を打ち出します。2023年1-3月の最終利益が縮小している主要因は退職金の支払いです。
同じく、大規模リストラを発表したのがZoom。同社はコロナ特需で2021年1月期の売上高が26億5,100万ドルとなり、なんと前年同期の4.3倍に跳ね上がりました。2022年1月期は同1.5倍の41億ドルまで伸びたものの、2023年1月期は同7%増の43億9,200万ドルに留まりました。頭打ちが鮮明になったのです。
Zoomは全従業員の15%に当たる1,300人のレイオフを発表しています。
LINE主導の経営体制に切り替えた背景
国内で伸び悩んだ企業といえば、ヤフーを運営するZホールディングス。2023年3月期の売上収益は前期比6.7%増の1兆6,723億円でした。ZホールディングスはLINEと経営統合したため、2022年3月期の売上収益は前期比30.0%増の1兆5,674億円と大幅に伸びました。
そこからの増収で悪くないようにも見えますが、主力の広告事業において数字を伸ばしているのはLINEの方。ヤフーは軒並み成長率を落としています。ディスプレイ広告においては、減収となりました。
■広告関連売上収益成長率
※決算説明資料より
ECの取り扱いは、2021年3月期に前年同期比24.4%も増加したものの、2022年3月期は18.7%増、2023年3月期は7.4%増と段階的に成長率を落としました。
ヤフーは2013年10月に「eコマース革命」を掲げ、Yahoo!ショッピングのストア出店料を無料にしました。このときは国内のECにおいて流通総額トップに立つと息巻いていました。
しかし、それも上手くいきませんでした。2018年3月期に流通総額が2兆円に達したものの、同時期の楽天は3兆4,000億円で圧倒的な差が生じており、現在も引き離されています。
ヤフーはEC、広告の両面において遅れが目立つようになりました。Zホールディングスは経営体制の大幅な変更を行います。
次々と事業を整理する出澤CEO体制
2023年4月からは、ヤフーのコングロマリット化を推進した川邊健太郎氏がCEOから外れ、出澤剛氏がCEOに就任しました。出澤氏はLINEのCEOを務めていた人物。今回の経営体制の変更は、LINEが主導権を握って全体を引っ張るという姿勢を鮮明にする内容です。
経営体制が変化する中、Zホールディングスは事業の大再編を行っています。動画サービスGYAO!は2023年3月末でサービスを終了。みずほフィナンシャルグループと共同で進めてきたLINE Bankプロジェクトは中止。LINE証券は野村証券に譲渡する予定です。ヤフーは、突如として動きが軽くなりました。
事業の整理で合計300億円規模の固定費を削減する計画です。
マスクと消毒需要が縮小して減収に
反動減に苦しんでいる意外な企業と言えば、関東地方でホームセンター「ケーヨーデイツー」を運営するケーヨー。2021年2月期の売上高は前期比5.4%増の1,134億1,100万円となりましたが、翌2022年2月期は10.0%もの減収。更に2023年3月期は6.4%減となり、売上高は1,000億円を下回ってしまいました。
■ケーヨー売上高の推移
※決算短信より
ケーヨーは業績好調だった2021年2月期に中期経営計画を発表しており、2023年2月期に売上高1,170億円という目標を掲げました。しかし、その翌年に早くも目標を1,000億円へと引き下げています。実際の着地はそれをも下回るものでした。
ケーヨーは売上高の3割をハウスキーピング部門が占めています。ここには洗剤、シャンプーなどの他、マスク、消毒液、ビニール手袋などが含まれています。
2023年2月期のハウスキーピング部門の売上高は275億2,100万円。2021年2月期と比較して2割近く数字を落としました。
■ハウスキーピング部門売上高
※決算説明資料より
同じくホームセンター「コーナン」を運営するコーナン商事は、コロナ禍で一時売上収益は横ばいとなったものの、2024年2月期は3.2%の増収を見込んでいます。
ハウスキーピングが苦戦しているのは、ケーヨーと変わりません。しかし、コーナンは建材や塗料、工具などのプロ向け領域に強みを持っており、そちらは堅実に成長しています。
ケーヨーはDIYと園芸部門を強化し、成長軌道に乗せるとしています。同社は中長期的なトップラインの伸び悩みにも苦しんでおり、コロナ禍で生活様式が変化した後の新たな日常に適応できるかどうかの瀬戸際に立たされています。
取材・文/不破 聡