適度な飲酒で心血管リスクが低減する理由とは?
適度な飲酒が心臓の健康に良いことは多くの研究で示唆されているが、その理由については明らかになっていない。
こうした中、飲酒には脳をリラックスさせる効果があり、それが主要心血管イベント(MACE)発生リスクの低下をもたらしている可能性が、新たな研究で示された。
米マサチューセッツ総合病院(MGH)心血管イメージング研究センターのAhmed Tawakol氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」2023年6月号に掲載された。
適度な飲酒とは、一般に、男性では1日2杯以下、女性では1日1杯以下の飲酒とされている〔注:日本での適度な飲酒は純アルコール20g(ビール500mL相当)程度で、女性ではその半分程度にとどめることが推奨されている〕。
ただし、このような節度ある飲酒は心臓の健康に良い可能性があるとはいえ、健康増進のために飲酒が勧められることはない。なぜなら、アルコールには乱用や依存のリスクがあるほか、がん発症リスクの増加など健康に悪影響を及ぼす可能性もあるからだ。
Tawakol氏は、「飲酒量に安全なレベルなどない」と強調する。
今回の研究でTawakol氏らは、適度な飲酒がなぜ心血管リスクの低減につながるのか、その理由を探ろうとした。対象者は、Mass General Brigham Biobankへの参加者5万3,064人(平均年齢60歳、女性60%)。
このうちの713人は、主にがんのサーベイランスのために、18F-FDG(18F-フルオロデオキシグルコース)を用いたPETによる脳検査を受けていたため、ストレスに関連する脳内の神経ネットワークの活性(stress-related neural network activity;SNA)の評価が可能だった。
対象者を1週間のアルコール摂取量に応じて、1杯未満の「飲まない/最低限の飲酒」、1〜14杯の「軽度/適度の飲酒」、14杯超の「大量飲酒」に分類したところ、2万3,920人が「飲まない/最低限の飲酒」、2万7,053人が「軽度/適度の飲酒」に該当した。
中央値3.4年にわたる追跡期間中に1,914人にMACEが生じた。解析からは、心血管リスク因子を調整した後でも、「飲まない/最低限の飲酒」に比べて「軽度/適度の飲酒」ではMACE発生リスクが22%弱低いことが示された(ハザード比0.786、95%信頼区間0.717〜0.862、P<0.0001)。
一方、脳の検査を受けた713人を対象にした解析からは、「飲まない/最低限の飲酒」に比べて「軽度/適度の飲酒」はSNAの減少、具体的にはストレス反応に重要な役割を果たしている扁桃体でのシグナル伝達が有意に減少することが明らかになった。
また、SNAの減少は「軽度/適度の飲酒」がMACEリスクを低下させる効果の一部を媒介していることも示された。
周囲からの脅威に対して適切に反応するためには、扁桃体を抜け目なく働かせる必要がある。しかし、扁桃体が常に活発に活動していると、血圧の上昇や血管の炎症などが生じて心血管系に負担をかけることになると研究グループは説明している。
今回の研究には関与していない、米National Jewish Healthで心血管疾患の予防とウェルビーイングを指導するAndrew Freeman氏は、「この研究の興味深い点は、ストレス軽減の重要性を指摘していることだ」と話す。
そして、「アルコールのような害をもたらすことのない別のもので、今回の研究結果を再現できるだろうか」と疑問を呈した上で、「マインドフルネスの実践や運動なら再現できる可能性が高い」との考えを示している。
Tawakol氏もFreeman氏と同様の考えを持っており、同氏らは実際に、運動とマインドフルネスに基づくストレス軽減の効果を研究している最中だという。
Tawakol氏はこの研究結果から伝えたいメッセージとして、「脳と心臓のつながり」の重要性と、ストレス要因への健康的な対処法を持つことの大切さを挙げている。(HealthDay News 2023年6月13日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2023.04.015
構成/DIME編集部