2、3年で終わるとも言われていたサウナブームだが、2023年の今も新しいサウナが続々とオープンしている。
サウナーである筆者も、相次ぐ新施設のオープンに慣れてしまった感はある。サウナブームといわれて数年も経つと、最近オープン したサウナはみんなサウナーの好みを反映し、それなりに“良い”のだ。
サウナの温度だったり、ストーブの形状だったり、水風呂の水のよさだったり、休憩するととのいスペースの快適さだったり、考えてつくられた施設が多く、「これはないわ~」と思うことは滅多にない。
とはいえ、増え続けるサウナ施設の経営がすべてが順調なわけではない。高騰するエネルギー代の影響は特に大きく、新施設が増えると同時に、多くの銭湯やサウナが閉店もしている。
生き残るサウナの条件について考えたとき、ひとつは「そのサウナにしかない特徴」が挙げられるのではないか。2023年4月にオープンした「HARE-TABI SAUNA & INN(ハレタビサウナ)」は、まさにオンリーワンの魅力を持つ施設。詳しく紹介していこう。
横浜中華街のど真ん中にある宿泊施設併設のサウナ
HARE-TABI SAUNA & INNは、横浜中華街の中にある宿泊施設併設のサウナだ。運営するのは株式会社アミナコレクション。「世界の文化を伝える」をテーマに、雑貨店や体験施設の運営、イベント企画などを行っている。
もともと中華街では、宿泊施設「HARE-TABI Traveller’s Inn」を運営していた。コロナ禍には宿泊施設はもちろん、中華街全体が活気を失っていたことから、横浜観光を盛り上げるために『観光のハブになるサウナ施設』のプロジェクトを開始した。
宿泊施設運営の経験はあっても、サウナ事業は初めてのこと。そこで「かるまる池袋」をプロデュースした「サウナ王」こと太田 広氏に監修を依頼し、オープンにこぎつけた。
最大の特徴は「横浜の街とつながるサウナ」であること
地域性を取り入れたサウナは少なくないが、それは木材や地下水の利用や、海や森近くのロケ―ションなど、自然に由来するものが多い。
しかしHARE-TABI SAUNA & INNは、横浜中華街のど真ん中。大自然はないが、横浜の歴史や根付く文化を施設内に徹底的に取り入れることで、「横浜を感じられるサウナ」であるのが最大の特徴だ。
まず圧巻なのが、男性サウナ室の中央に鎮座するドイツ製の水車型ストーブ。水車が逆回転をしているときはただ回転しているだけだが、30分ごとに正回転に切り替わり、羽の部分がひしゃくのように水をすくうことで、オートロウリュとなる。
お話を伺ったアミナコレクション SAUNA事業部長 坂西氏によると、このストーブは「日本初導入で、世界でも数台しかないんです」。横浜らしいストーブを探していたときに、海外の通販サイトで発見。直接連絡を入れ、仕入れることに成功したそうだ。
サウナ施設で使われるストーブはある程度限られたメーカーのものが多いが、他では見られないオリジナリティあるストーブを見つけられたのは、もともとの事業で世界中の商品を扱ってきたからだ。
そんな特別なストーブは、水車型でありながら、どこか船のハンドルのような趣も感じるのは、壁を覆うレンガのせいだろうか。これはもちろん、横浜を代表する観光スポット、横浜赤レンガ倉庫をイメージしてのしつらえだ。
サウナ室の天井は勾配を一回上げ、その後入口に向かって下がるような傾斜がつけられている。これにより、ストーブ近くは暑く人が出入りする入口付近は温度が低くなるようなことがなく、入口近くまで熱を回すことに成功した。サウナ室の背もたれには5度の角度をつけ、よりリラックスできるようにもしている。
また、施設内で流れる心地よい音楽は、横浜出身のミュージッククリエーター、REO MATSUMOTO氏によるもの。船の汽笛の音や、蒸気機関車の音、かもめの声などを織り交ぜたHARE-TABI SAUNA & INNオリジナル音源で、耳からも横浜の風情を楽しむことができる。
水風呂に行くとあえて表に出した水道管がデザインアクセントになっていることに気づく。これは横浜が「水道発祥の地」であるゆえんだ。
そして湯船の水に色がついているのは、同じく中華街にある老舗漢方薬局『更生堂薬局』とタッグを組んだ漢方水風呂だからだ。
湯船に沈められた袋には、水をミネラル化する効果があると言われている牡蠣の殻や、鉱石、シソなど10種類以上の材料が詰められている。この中身は今後、反応をみながら変えていくかもしれないそうだ。
この水風呂に入ると、下からのバイブラで身体を冷却し、上からはファンの風で頭を冷やすことができる。筆者も「身体だけではなく、のぼせた頭も冷やしたいんだよな~」といつも思っていた。
そしてサウナ好きには気になる、ととのいスペースと呼ばれる休憩エリア。サウナ室も広々としているが、ととのいスペースの椅子の数もかなり多く、空き待ちをすることは少なさそうだ。
ただ椅子の数が多いだけでなく、場所によって風の種類が変わることに驚く。外気浴のスペースが取れないため、「外より気持ちのいい内気浴」というコンセプトで考えられているそうだ。ひとつめは「ゆらぎのプロペラ」。風が速くなったり遅くなったりすることで、一辺倒ではなく自然の風のような、顔に当たって気持ちの良いゆらぎ感のある送風機を探した。
次に首の後ろや背中にやさしく風があたるカーテンエアがあり、一番奥に並ぶ椅子は一席移るごとに、だんだん当たる風が強くなっていく仕様だ。ちょうどおでこに風が当たるように奥行の位置を決めると、工事業者に頼むのが難しくなり、通販でパーツを買い集めてDIYで設置したそうだ。横浜を体験させることに対するこだわりだけでなく、最高のサウナ体験に向けたこだわりもすごいのだ。