■連載/石野純也のガチレビュー
FCNTの経営破綻、京セラのコンシューマー市場撤退と、日本のスマートフォン市場には大波乱が起こっている。新規参入のハードルも高く、2021年に鳴り物入りで登場したバルミューダですら、後継機の開発を断念したばかりだ。そんな中、格安のスマホ、タブレット、PCなどを開発する米国のスタートアップ的な企業が上陸した。Orbic(オルビック)だ。
同社は、2006年に事業を開始しており、2019年には4Gのスマホが米最大手キャリアのVerizonに採用される。その後、着々と製品のバリエーションを広げ、納入先であるキャリアも拡大している。米国に拠点を構え、米国内に製品を展開していたOrbicだが、国際展開の第一弾としてオーストラリア市場に参入。ここに続くのが、日本市場となる。
日本で初めて投入するスマートフォンは、エントリーモデルの「Fun+ 4G」。想定価格は2万4800円とリーズナブルながら、チップセットにはミドルレンジ向けのSnapdragon 680を採用する。指紋認証をサポートし、バッテリーも4000mAh備えるなど、価格以上のスペックを備えているように見える。キャリア市場に納入している実績を引っ提げ、日本に参入したOrbicだが、その実力はいかほどのものか。Fun+ 4Gを実際に使い、その性能をチェックした。
Orbicの日本初スマホとなるFun+ 4G。格安エントリーモデルの実力はいかに
エントリーモデルとしての割り切った質感、デザインには独自の工夫も
エントリーモデルとして導入されたFun+ 4Gだが、その質感はやはり価格相応といったところ。ボディは樹脂製で、アルミなどの金属やガラスを背面に採用したモデルに比べると、高級感は一段落ちる。樹脂なので軽そうに見える一方で、実際の重さは192gあり、一般的なスマホと大きな違いはない。こうした点は、ごくごく普通のエントリースマホと言える。
本体は樹脂製で、質感では金属やガラスを使ったスマホに及ばない
デザイン的には、背面に特徴がつけられている。デュアルカメラに連なるように、本体下部までわずかなくぼみが設けられており、Orbicのロゴもここに入る。くぼみの中は、細かい凹凸がついているため、手に取った時にザラっとした質感が伝わってくる。ここに指をかけて本体を持つと滑りにくくなる実用性も兼ね備えている。
ただし、右手で持つと人差し指が当たるのはこのくぼみの反対側。左手で持つとちょうどいい位置にあるだけに、カメラごと位置を逆側に寄せてほしかった。スマホをどちらの手で使うかによるところが大きいが、一般的に右利きの人は右手で使うケースが多いだろう。右利きの人にとっては、単なる飾りになってしまっているのは少々残念だ。
本体上部には、3.5mmのイヤホンジャックが搭載されており、有線のイヤホンを接続することができる。最近では、USB Type-Cに対応したイヤホンも徐々に増えているが、PCや音楽プレイヤーとイヤホンを兼用可能な点はうれしい。音楽を聞く際に、わざわざヘッドホンや変換プラグを購入する必要がない点も、コストを抑えたい人が買うエントリースマホ向きの仕様と言える。
ディスプレイのベゼルは上下がやや太いが、エントリーモデルのため、ギリギリまで縁をなくすのは難しかったことがうかがえる。特に、下部のスペースが少々広い。これだけのスペースがあるなら指紋センサーを置いてほしかったが、同センサーは背面に配置されている。手に取った時、自然に人差し指が当たる場所で使い勝手は悪くない一方、机の上などへ置いた際にロックが解除しづらいのはこの仕様の弱点だ。エントリーモデルゆえに、デザインや仕様にはトレードオフが多い印象を受けた。
最近のスマホとしては、ややベゼルが広め。特に下部は面積がある
エントリーモデルとしては高いパフォーマンスだが……
一方で、このクラスとのスマホとしては、パフォーマンスが比較的高いのは好印象だ。スクロールなどへの追従はリフレッシュレートの高いミッドレンジモデル以上に比べるとやや遅れるものの、操作時の引っかかりが少ない。アプリの起動も、比較的スピード感がある。これは、チップセットにSnapdragon 680を採用しているお陰だろう。メモリ(RAM)が4GBと少なめだが、複数のアプリを同時に動かすといった動作をしなければ、まずまず快適に使える。
Geekbench 6で計測したスコア。エントリーモデルとしては、高めの数値だ
ただ、使用したのが発売前の端末だったためか、アプリが正常に起動しないことが何度かあった。上記のベンチマークテストも、通常より時間がかかっている印象がある。ソフトウエアのチューニングが済んでいない可能性はあるが、使い勝手に直結する部分なだけに、発売までの改善には期待したい。
また、ディスプレイの解像度は720p(720×1560ドット)とやや低め。6.1インチとサイズが大きいぶん、ピクセル密度が低くなってしまうため、精細感には欠ける印象だ。ある程度顔に近づけて凝視すると、ドットを認識することもできる。解像度が高く、あたかも印刷物のように見えるミッドレンジ以上のモデルに比べると、やや気になるポイントではある。そのぶん、描画のパワーが抑えられたり、バッテリーの消費を減らせたりするのはトレードオフのメリットだ。
端末名に4Gと入っているように、このモデルは5Gには非対応。通信スペックは4Gまでとなり、場所によってはやや通信速度が物足りないことがある。特に都市部の場合、4Gの周波数帯がひっ迫しているスポットも存在するため、こうしたエリアで利用する際には注意が必要となる。ただし、対応周波数は日本向けにカスタマイズされている。ドコモやKDDIの800MHz帯はしっかりサポートしているため、安心感はあると言えそうだ。なお、1.5GHz帯のような周波数は非対応になる。
とは言え、最近では2万円台前半ながら、5Gをサポートしている端末も増えている。こうした端末は、5Gだけでなく、おサイフケータイや防水といった日本向けの機能を満たしていることが多い。キャリア向けの端末はボリュームが出るため、スペックに対して価格を抑えられるといった事情もあるが、ユーザーにとって、そのような背景はあまり関係がないこと。同価格帯のキャリアモデルに比べると、やや厳しい戦いになりそうな気がしている。