過酷な環境に晒されている現代のビジネスパーソンの悩みは深い。だが、日々直面する課題の中に、私たちの人生をより豊かにするためのヒントが詰まっているという。異色の経歴を持つVTuberの短期集中連載、半年も続いた第6回!
徒労感への処方箋
兼業イラストレーターです。AIで誰でもプロ級のイラストを作成できるようになり〝悔しい〟を通り越して、心が折れそうです。これまで画力を磨いてきた日々は何だったのでしょうか?
【結論】アナタより優秀な存在があっても今までの人生は無駄にはならない
あえて目標を手放すことで、画力を磨く意味を見直そう
まずはアナタが胸の中で抱えているモヤモヤの原因の解像度を上げていこうと思います。アナタはきっと、呪文を唱えるだけで誰でも簡単に出力できる〝うまい絵〟に嫉妬しているのではなく、現実を受け止めきれなくなって、どこに不満をぶつければいいのかわからなくなっているのでしょう。
良い結果を出すために一生懸命がんばっても報われないかもしれないと思うようになると、胸を締めつけてくるような徒労感に苛まれることがあります。本当に努力をしてきたからこそ、襲いかかる絶望も大きいのだと思います。
そのような状況に陥った時、どうすればいいのか。
私は思考のベクトルを変えてみることをオススメしています。言葉だけ拾うとひどいように聞こえるかもしれませんが、思い切って良い結果(今回は画力を上げること)を得て報われようとするのをやめてみてはいかがでしょうか?
「おいおい、冗談だろ?」
これを読んでおられる方はそう思うかもしれません。
しかし、私は「もう夢を諦めなさい」ということを伝えたいのではありません。
まずは、落ち込んで狭くなっている視野を広げる思考のマッサージを始めましょう。
AIはアナタの価値を高めてくれるかもしれない
まず、「AIイラスト問題」ともいえるこの話題は、ここ最近頻繁にSNSで目にするようになりました。イラストレーターの仕事が奪われると、危機感を覚える人、法律的な問題を指摘する人、感情的に受け付けられない人、AI肯定派 vs AI否定派の争い……。一部のシステムエンジニアやイラストレーターなどからは、自分たちの仕事がAIに取って代わられるのではないかという声も上がっています。また、AIの正確性や安全性について指摘する声もあり、かのイーロン・マスク氏でさえ「人類への深刻なリスクになる」と警鐘を鳴らしています。
さて、ここで考えなければならないのは、AIは人間の仕事を奪うのかということです。この視点から、今回の相談内容について考えていきましょう。
確かにイラストレーターとして食べていくには、一定レベルの画力が必要になる場面は多くあるでしょう。その点で、一定レベルの〝うまいイラスト〟を出力できるAIの描いたイラストと、イラストレーターが人力で出力したイラストを並べて比べた時に、「純粋な画力」という意味でイラストレーター側が負けてしまうことはあるかもしれません。
ただ、ここで少し考えてほしいことがあります。
イラストレーターの価値は、画力だけで決まるものなのでしょうか?
そもそも、人が描いたイラストは、イラストレーターの感性がイラストという形として出力された創造物です。そして、イラストの上手い下手の判断は、受け手の感性に左右されるものであり、これは数値化できません。例えば、愛する我が子ががんばって描いた家族が集合しているイラストがあったとして、グチャグチャだったとしても感動する人もいますよね?
商業作品でも、決してうまいと言えないイラストでも、味があって妙に視線を外せなくなる、胸に何か訴えかけてくるような作品ってありますよね。例えば、絵画のオークション会場だと、グチャグチャに描かれているものや円を塗りつぶしただけの作品が、有名画家が作者というだけで数億〜数百億円で取引されることがあります。
ここまで話せば、少し見えてくるのではないでしょうか。
そう……ポイントは、「誰が描いているのか、誰が受け手であるか」です。
今回はイラストレーターさんに向けて回答していますが、クリエイターと呼ばれる人に等しく言えることだと思います。
今後AIイラストが当たり前になってくると、「誰が描いたのか」というところがますます重要になってくるでしょう。つまり、大切になってくるのは絵師のブランディング力です。
私が冒頭で「思い切って良い結果(今回は画力を上げること)を得て報われようとすることをやめる」のを提案したのは「努力の方向性を変えてAIとの画力競争を回避するのも有効な一手ではないか」という想いからです。
とらわれをなくすことで、気持ちは少し楽になるでしょう。心がとらわれてしまうと、足元の大事なモノが見えなくなってしまい、転んだ時に心が折れてもう立ち上がれなくなる……なんてことが起きてしまいます。
「諦めちゃダメ、努力を続けるべき!」
確かに大切なことではありますが、先が見えなくなったとき、素直に立ち止まって足元や周囲を見渡してほかの進路を探すことも考えてみてください。見えなくなっているだけで、気づきのきっかけは意外と身近な場所に転がっています。
AIネイティブが生き残る世界にこれからなる
あまり紙幅を割けませんが、高度なAI技術の登場に驚く人類の様子を見て、「もしかしたら蒸気機関が発明された産業革命期もそうだったのかな」と過去に思いを馳せてしまう自分がいます。新しい技術は私たちの生活を豊かにする反面、誰かの仕事を奪ってしまうという負の側面を必ず持っています。そのため、拒絶反応を起こす人がいるのも理解できます。
しかし、インターネットやスマートフォンが普及して、これまでの通信手段(手紙など)は廃れたでしょうか? 確かに、全盛期より勢いは失われたかもしれませんが、それでも形を変えて今も生き残っています。文化や物をどのように生かすのか、いつも試されているのは私たち人間です。AIが私たちの生活を豊かにしてくれるのか、誰も予測できません。
AIを最高の友とするのか、最悪の敵とするのか。私たち人間の生き方にかかっているのです。
「AIにできること」に目が行きがちだが、「人間にしかできないこと」もたくさんある。そのすみ分けをすることでAIと〝良き友〟としてつきあうことが今後重要になってくる。
犯罪学教室のかなえ先生
元少年院の先生で、犯罪心理学や教育犯罪学の知見からニュースなどを解説するVTuber。近著に『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』。
©夢乃とわ SDイラスト/紀羅わたり
※「教えてかなえ先生」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME7月号に掲載されたものです。
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