スズキの快進撃が止まりません。
2023年3月期の売上高は前期よりも3割高い4兆6,416億円、営業利益は1.8倍の3,506億円に跳ね上がりました。2023年3月期の期首予想では、売上高を3兆9,000億円としていました。予想を1.2倍上回る好調ぶり。2024年3月期は売上高を4兆9,000億円と予想しています。
スズキは2021年2月24日に中期経営目標を掲げており、2026年3月期に売上高4兆8,000億円を目指すとしていました。2年前倒しで達成する見通しです。
好調の裏にはインド攻略に成功していることがありますが、巧みな戦術が隠されています。
インド事業の売上高は2倍に
マツダとスズキは売上高が近いところにあり、両社ともに3兆円台で推移していました。しかし、マツダの2023年3月期の売上高は3兆8,267億円で、8,000億円以上の差がつきました。スズキはマツダを大きく引き離しました。
■スズキ業績推移
※決算短信より
スズキの販売戦略は他社とやや異なります。自動車の売上構成比率を見ると、トヨタやホンダが注力する北米エリアはわずか0.01%しかありません。日本がおよそ3割、アジアが5割を占めています。アジアの中でもインドに強く、自動車の売上高の46%はインドによるものです。
スズキがインドに進出したのがおよそ40年前。当時はまだ道路が十分に整備されておらず、経済も後れをとっていたために自動車が普及していませんでした。混沌とするインドへの進出は無謀とも言われましたが、軽自動車で国内トップだったスズキは、低価格戦略でブルーオーシャンだったインド市場の攻略を狙いました。
現在ではインドの自動車市場のシェア4割程度を握っていると言われています。2023年3月期のインド事業の売上高は1兆9,127億円でした。
■インド事業売上高推移
※決算説明資料より
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2021年3月期は1兆円以下の水準まで落ち込みました。そこから倍増しています。
1台当たりの価格が1.7倍に跳ね上がる
スズキがインドで高シェアを獲得していることは、比較的よく知られていますが、2023年3月期の決算説明では、シェア獲得以外にスズキの巧みな戦術が奏功していることを表す記述がありました。営業利益が大幅に改善した主要因として、「売上構成変化等」を挙げているのです。その効果は1,468億円にものぼります。
■営業利益増減要因
※決算説明資料より
これが何なのかを説明する前に、インドでのスズキ車の販売台数と1台当たりの単価の推移を見てみましょう。
■インド事業における販売台数と1台単価
※決算説明資料より
2019年3月期のインドでの販売台数は、185万台でした。2023年3月期は170万台です。台数は減少していますが、売上高は1.5倍に増加しています。すなわち、1台当たりの単価が上昇したのです。
売上高を販売台数で割り、1台当たりの単価を出すと、2019年3月期の67万円から、2023年3月期は112万円まで上がっているのがわかります。
スズキは2021年に発表した中期経営計画の中で、高品質の維持を優先的な課題を捉え、優先的に取り組むとしていました。高品質が単価アップという成果として表れているのがわかります。
トヨタと共同で販売するグランドビターラとは?
スズキは1979年に「アルト」という軽自動車を販売して爆発的なヒットを飛ばし、軽自動車におけるトップランナーとなりました。インドでも主力の自動車は「アルト800」で、60万円から80万円程度で販売されていました。
2022年に7年9か月ぶりのフルモデルチェンジを行いましたが、価格は大きく変化していません。
潮目を変化させたのが、2022年7月に発表した「グランドビターラ」でしょう。新型のSUVで、エンジンは1.5リッターのハイブリッド車という特徴があります。この車はトヨタ自動車とスズキの業務提携によって誕生した一台で、スズキが開発、トヨタが生産を行っています。
グランドビターラの価格はおよそ170万円。従来の車の性能や機能を高めて価格を大幅に引き上げました。
2023年1月には最上級SUVとして「グランドビターラS-CNG」を発売しています。高級感のあるパーツを用いたもので、価格は200万円を超えています。
フラッグシップモデルの投入は見事成功しました。インドでの販売台数はコロナ前の水準までは、戻り切っていません。しかし、大幅な増収となっています。
スズキはインドでのシェア50%獲得を目標の一つとしていますが、販売台数に固執をすると、過度な価格競争に参入することにもなり、利益が圧迫される要因にもなりかねません。販売台数を追いかけすぎて失敗したのが、日産でした。
自動車の付加価値を高めて高値で販売。顧客満足度を高めた上で、売上や利益率の向上を図ることの方が、業績面では好影響を与えるでしょう。2023年3月期の決算内容が、如実にそれを物語っています。
取材・文/不破 聡