イングランド銀行を打ち負かす
1992年9月にソロスはイングランド銀行を打ち負かした男として、世界中に名を轟かせました。おそらくソロスにまつわるエピソードで最も有名な出来事です。
当時のイングランド銀行はポンドの価値の維持や欧州における為替相場の安定性を確保することを目的とした制度、ERM(欧州為替相場メカニズム)への所属を継続させるために、大量のポンドを市場に投入していました。
ソロスはこうした一連の動きを注意深く観察しており、イングランド銀行が通貨価値を維持することが不可能であり、ERM脱退を事前に確信していたことで、大量のポンド売りを浴びせて、約9億5800万ドルの利益を得ました。さらに、その前後のマーケットの動きを含めると、結果的に約20億ドル近くの莫大な利益を得ています。
当時、ソロスはイギリスに大きな損失を与えたと非難の声もありましたが、話はここで終わりません。
この取引で得た利益の大部分をソロスは西側諸国への慈善活動に使ったからです。
またポンド安によって結果的にイギリス経済の成長を促し、発展をもたらしたことで、ソロスはイギリスでも英雄的な存在になったのです。
おわりに
ウォールストリート・ジャーナルが今月13日に報じたニュースによると、
現在92歳になったソロスは自身の慈善団体「オープン・ソサエティ財団」を息子に譲ったようです。この財団は教育団体や人権団体などのリベラルな活動に毎年15億ドルを寄付しており、米国ではビル・ゲイツの財団に次ぐ2番目の大きさです。
日々変化していく世界情勢に対して、どのように対応すべきなのか、投資と慈善活動の両方で活躍したソロスの哲学から、私たちは多くのことを学べるのではないでしょうか。
文/鈴木林太郎