今回の米国投資家列伝シリーズは、かつてイングランド銀行を打ち負かした男と呼ばれ、世界三大投資家のひとりに数えれれる伝説の投資家「ジョージ・ソロス」です。
実に半世紀以上にわたって金融の世界で活躍を続けたソロスは、これまでどんな人生を歩んできたのか、さまざまな体験を通じて養われた投資哲学について深掘りしていきたいと思います。
両親の影響を受けたソロス少年
1930年、ソロスはハンガリーのユダヤ人家庭で生まれます。
弁護士の父と専業主婦の母、2つ上の兄の4人家族のなかで育ち、典型的な中流階級でした。父は浪費癖があり、必要な分しか働きませんでした。母は古風な考え方の持ち主であり、ときに勤勉でない父に対して不満を抱き、たびたびケンカをしていたようです。
こうした父と母の価値観の違いは、異なる視点が必要な投資の世界でとても役に立ったとソロスは語っています。
実は父の浪費癖には明確な理由があり、それは第一次世界大戦を生き延びた経験から「大金を持つことで盗みなどの危険が高まるリスクがある」という、父ならではの哲学からきていることに、ソロスも徐々に気付いていきます。
そして、ソロスが9歳のとき、今度は第二次世界大戦がやってきます。
ナチスによるユダヤ人迫害でソロスは命の危機に晒されますが、ソロスの父は偽の身分証を作るなど戦略的に冷静な判断をしたことで、家族全員が生き延びることができました。
こうした戦争の経験がソロスの投資哲学の基本となり、投資に役立つ3つの教訓を得たといいます。
【投資に役立つ3つの教訓】
① 危険を冒す事は悪いことではない
② リスクを冒す際は全てを賭けるな
③ 現実と認識との間には、溝が存在する
①の場合、投資の世界では危険を冒さなければ利益を得る事はできません。ここでいう危険とは投資の「不確実性」です。株やFXなどの金融商品は不確実性が高く、確実性が低い分、期待リターンが大きいのです。その一方、現金や債券は確実性が高く、不確実性が低い分、期待リターンが小さいのです。ときに危険を冒さないことで絶好のチャンスを逃し、大きな機会損失につながることがあるのです。
②の場合、戦争などの命の危険に晒されている状況でない限り、失敗しても立ち直る余力を残して投資することが大切です。なぜなら想定外の状況でもリスク調整をすることで、損失を最小限にすることができるからです。どんな状況でもマーケットから退場しない、適切なリスクヘッジが投資には必要不可欠なのです。
③の場合、人間には誰もが先入観バイアスがあることを、ソロスは戦争を通じて何度も経験しました。たとえば通常時であれば社会のルールを守ることが大切ですが、戦争が発生した場合などの非常事態では、ときにルールを守ることが必ずしも自分を守ることに繋がりません。先入観で判断せずに、現実を直視することの重要性を知ったのです。