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チャレンジングな端末はもう出ないのか?バルミューダと京セラのスマホ撤退の知られざる舞台裏

2023.06.18

■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議

スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、スマホ事業を一部撤退する京セラ、バルミューダについて話し合っていきます。

〝バルミューダフォン〟は1世代で終了へ…

房野氏:2021年に第1弾製品として「BALMUDA Phone」を発売したバルミューダですが、第2弾以降のモデルが出ることはなく、携帯事業からの撤退を発表しました。

BALMUDA Phone

石川氏:バルミューダとしては、第2弾、第3弾製品の準備はしていたものの、円安の影響もあって開発費がかさんでしまい、断念した。

石野氏:実際に開発をしていたというか、する意向は示していたんですよね。第1弾モデルを発売した後にも、メディアにアップデート計画を説明していたりと、2号機、3号機を出す気はあったんですけど、費用面が嚙み合わなかった。恐らくですけど、キャリアが買ってくれなかったといった理由もあると思います。

法林氏:物流や半導体の価格といったコストが上がった。初号機の販売価格(ソフトバンクモデルが14万3280円、SIMフリーモデルが10万4800円。いずれも発売当初の価格)でいろいろと叩かれたので、バルミューダとしても、ミッドレンジのスペック相応の価格に抑えないといけないと試行錯誤したけど、できなかったので諦めたというのが僕の予想です。

房野氏:BALMUDA PhoneのCPUはSnapdragon 765ですよね? 他メーカーの場合は同一CPUだといくらくらいの価格のスマートフォンになりますか?

法林氏:大体5万円くらい。

石野氏: 3万円~5万円くらいですよね。なのでBALMUDA Phoneはその倍近い価格になりますし、ソフトバンク版はさらに高くなってしまいました。

法林氏:端末の価格って最低限〝ミッドレンジならこれくらい〟といった感覚が共有されている。例えば軽自動車の価格が800万円と言われたら驚くじゃないですか。BALMUDA Phoneの価格設定は、ユーザーの感覚と合っていなかった。

石川氏:バルミューダはもっと価格を安く設定したかったけれど、いろいろな費用が積み重なってしまったと説明していました。

石野氏:あの作り方をしていると、費用はかかっちゃいますよね。

法林氏:1号機の発売後に話を伺ったところ、あの丸みを帯びた形状にしたことで、設計上の障害、弊害が出てしまったと。要するに、安くすることができない設計になってしまった。

石野氏:汎用部品がことごとく使えないデザインですからね。

法林氏:そう。今のスマートフォンには、安く作るための方法論があって、生産台数を増やしたり、汎用パーツを使うことが多い。BALMUDA Phoneでは、こういった価格を下げるための方法論から外れてしまった。ただし、ソフトバンクがキャリアモデルに採用してくれたことが救いだよね。おかげでビジネスとして成立した。

石川氏:ソフトバンクがいなかったら企画として成り立っていないし、スタートすらしていなかったけど、逆にそれによって不幸が生まれてしまったとも言えます。

法林氏:まあね。そもそもソフトバンクがいなかったら発売できていないし、発売できたとしても1か月、2か月くらいで終わりが見えていたと思う。ソフトバンクは、個性のある端末に寛容というか、積極的に採用する。iPhoneも日本では最初に始めたキャリアだけれど、今や4キャリアから発売されていて、SIMフリーモデルもある状態となってしまった。だから、ソフトバンクだけのモデルが欲しい。〝神ジューデン〟なんて打ち出しているのもそれが理由だよね。そういう意味では、BALMUDA Phoneは取り扱うのに都合のよい製品だった。

石野氏:そうですね。売上もちゃんと立っています。バルミューダはスマートフォン事業撤退による特損も出していますけど、たしか5億円くらい。かすり傷程度で済んでいます。

石川氏:でも、3000台くらいの在庫が余っているんだよね。バルミューダが抱えているのが3000台で、たぶんソフトバンクはもっと抱えているはず。この前ソニーの商品説明会に行ったんですが、改めて、スマートフォンを作るのは大変だなって思いました。オーディオやカメラなど、ソニーの技術を結集したの製品が、「Xperia 1 V」となっている。もちろん、外部業者に発注すればスマートフォンは容易にできるかもしれないけれど、人の心を動かすというか、感動できるスマートフォンを作れるかというと、また別の話なんだなと感じています。

Xperia 1 V

石野氏:シャオミやOPPOに比較すると、バルミューダは、製品に関わっている人の数が2桁くらい違います。だから、そのフィールドで戦っちゃうと勝ち目はないですよね。

石川氏:たぶん、トースターとかを何千人規模で開発しているメーカーはないけれど、スマートフォンではそれが当たり前だからね。

法林氏:以前、寺尾さん(バルミューダ株式会社 代表取締役社長)に、「スマートフォンを発売してどうですか」と伺ったことがあるけど、「とんでもない市場に足を踏み入れてしまった」と話していました。今の携帯電話やスマートフォンは、ペイするところまで持っていくには、かなりのコストがかかる。ソフトウエアを書くエンジニアもそうだし、汎用的な部品をうまく組み込んでいくのもそうだけど、〝いかに安く作るか〟という工夫ができないとダメ。BALMUDA Phoneはことごとく逆に行ってしまったので、当然コストがかかりますよねという話です。

房野氏:BALMUDA Phoneの製造を京セラに委託したから高くなった、というわけではないということですね。

法林氏:そうです。京セラはオーダーがあれば作るし、生産能力はあるので。問題は作ったスマートフォンがどれくらい売れるか、どうやって売っていくのかという点です。

房野氏:なぜ京セラがパートナーになったんですか?

法林氏:バルミューダは中国の会社にも打診したらしいけど、条件が合わなかったらしいです。

房野氏:昔流行った、ケータイのデザイン端末は、デザインだけを書いてもらって、中身はNECや富士通といった生産メーカーのものでしたよね。BALMUDA Phoneでも、デザインは自分たちでやって、中身は汎用パーツを使うことはできなかったのでしょうか。

法林氏:BALMUDA Phoneはデザインが独特ですからね。今のスマートフォンはほとんどが板状だけど、BALMUDA Phoneのように背面を曲げると、ボディの端のほうは厚みがなくなって、インカメラを収めるスペースを取りにくくなる。だから、専用のモジュールを作らないといけない。USB Type-Cとかも同じで、高さがないところに入るパーツを作らないといけないし、バッテリーも、背面の丸みに合わせた楕円形のものは作れないので、無駄なスペースが生まれてしまいます。

石川氏:最初の設計ではパーツが収まらなくて、デザインを変えたとも話していましたよね。最近のスマートフォンがなぜ板状になっているのかというと、それが一番パーツを収めやすいから。そこに、握り心地を重視した独自のデザインといっても、作るのは当然難しいですよね。

スマートフォンの値付けは難しい

房野氏:結局、BALMUDA Phoneは何万台くらいの規模だったんですか?

石野氏:決算を修正した時の情報から推測すると、2022年末までに、ソフトバンクとSIMフリーを合わせて大体2万5000台といったところですね。

法林氏:SIMフリーも合わせるとたぶん5万台くらい。BALMUDA Phoneは安売りしていたのもあるけれど、売れたのは1万台くらいじゃないかな。

石野氏:かなり安売りしていたので、その時に結構売れている可能性もあります。

房野氏:バルミューダはスマートフォン事業から撤退するけれど、ソフトウエアアップデートなどは継続するみたいですね。

石野氏:ソフトウエアのアップデートまで投げ出しちゃうと、メーカーとしての信用を失っちゃいますからね。

法林氏:搭載されているAndroid OSは京セラが書いているし、京セラはセキュリティアップデートなどもちゃんと行っているので、これは提供されると思います。

石川氏:とりあえずは、セキュリティアップデートが2023年11月まで。その後、致命的な脆弱性などが見つかった場合は対応を検討すると発表しています。

法林氏:発売から2年は面倒をみるという感じだよね。

石川氏:そうですね。これもあって、スマートフォン事業を撤退するのかどうかを早めに判断しないといけなくて、このタイミングになった。

法林氏:国内だとシャープくらいだけれど、Androidプラットフォームに深くかかわってきたメーカーはもともと、2年か、3年くらいのアップデート補償をしていた。最近はGoogle Pixelが5年って言いだして、みんな追いかけているけどね。

 京セラもプラットフォームのアップデートはきちんとやってきているので、BALMUDA Phoneでも変わらずにやるでしょう。ただし、費用がかかるので、そこから先のアップデートについては難しい。事業としてやめるものに対してお金を出すのかという話にもなってきます。

石川氏:そこもありますよね。メーカーとして製品を出すことはできるけど、その後何年間アップデートを続けるのかというところまで見ているメーカーは意外に少ない。

法林氏:個人的には、BALMUDA Phoneは製品として悪いものではなかったと思っている。値付けに関しては思うところがあるけれどね。メディアも、良くない部分をクローズアップしすぎて、火に油を注いでしまったと思っています。でも、ここ数年、似たようなデザインのスマートフォンばかりになってきているので、チャレンジ自体はよかったと思う。BALMUDA Phoneのような製品は、端末と結びつけるのではなく、IoTとか、アクセサリーと結び付けてほしかったですね。

石野氏:IoTに関しては、スマートフォンの経験から寺尾さんも興味を持ったようで、今後積極的に取り組んでいくみたいですね。むしろ先にそっちをやっておくべきだった気もしますが……。

法林氏:スマートフォン以外のバルミューダ製品って、意外とコンピューター化されているものがないんだよね。

石野氏:IoTで言うと、今、市場にある製品はおしゃれなデザインのものが少ないので、バルミューダ製のスマート電球とか、スマート扇風機とかが出ると面白いですよね。

房野氏:個性的なデザインのスマートフォンという意味で、BALMUDA PhoneとNothing Phone (1)がよく比較されていましたが、Nothing Phone (1)は成功しているのでしょうか。

Nothing Phone (1)

法林氏:日本では成功したとは言えないけど、グローバルではそれなり。

房野氏:バルミューダとの違いはなんですか?

石野氏:Nothingは、CEOがもともとOPPOにいた人で、スマートフォンを熟知していましたし、中国大手ののBYDに発注していたりと、端末自体は、意外と堅実な作りになっているんですよね。背面を透明にして光らせるというチャレンジングな部分はありますけど、BALMUDA Phoneほどコストがかかるわけではありません。

法林氏:できる範囲のチャレンジというか、スマートフォンの生産現場をわかっている人のチャレンジだよね。

石川氏:奇抜さを狙ってはいますけど、あれをチャレンジと言っていいのか悩むくらい。

法林氏:そういう意味では、BALMUDA Phoneも、珍しい形状にするのではなくて、背面を光らせるとか、そういうアプローチをしてもよかったよね。

房野氏:iPhone 3GやiPhone 3GSに似ているとも言われていましたよね。

iPhone 3GS

石野氏:今振り返ると、iPhone 3Gが出た時も、結構ネガティブな意見が多かったですよね。

法林氏:OSのできがよくなかったもんね。

石野氏:OSもそうですけど、形状的にも、日本では発売されなかった初代iPhoneに比べると、かわいらしくなってしまったという声もありました。満場一致でかっこいいという意見ではなかったと思います。

石川氏:そもそも、iPhoneも最初は全然売れていないからね。キャンペーンで配ってはいたけど、ソフトバンクだけだったし、数はそんなに出ていません。盛り上がったのは、KDDIが取り扱いを開始してからです。それでいうと、どれだけiPhoneがいい端末だろうと、結局は価格の影響が大きい。iPhoneが0円だから買ったという人も、当時はたくさんいましたよね。

 バルミューダが不幸なのは、端末販売と回線契約の分離が進んでいるタイミングだったので、買う人が限られてしまった点。0円で販売できれば、気になる人が買っていた可能性はあるけれど、10万円超えと言われちゃうとなかなか手が出ません。やっぱり、端末事業は厳しくなっているし、チャレンジングな端末が出にくい環境だなと思います。

法林氏:キャリアが売上の結果に責任を持ってくれないとね。

石川氏:そう。チャレンジングな端末は、キャリアに余裕があるからこそできるものですからね。

石野氏:BALMUDA Phoneに限って言うと、ソフトバンクがサポートしたけどだめだったみたいな印象もありますけどね。

法林氏:ソフトバンクの判断が甘かったところもあると思うよ。

スマートフォン市場で生き残るメーカーは?

石川氏:京セラが個人向け端末事業から撤退する話にもつながるけれど、キャリアの決算を見ると、端末の出荷台数がかなり減っています。ドコモ、ソフトバンクは、2022年度は2021年度に比べると100万台、KDDIは260万台も減っていて、今の端末事業経営の厳しさが伝わってきます。KDDIが260万台も減らすということは、KDDIへの依存度が高い京セラが撤退するのも納得。上から順番にiPhone、Galaxy、Xperiaが売れていて……。

石野氏:Pixelも割り込んできて。

石川氏:そう。京セラは販売力の強いハイエンドブランドを持っていなくて、キャリアから依頼された端末を主に作っていたメーカーなので、市場全体の規模が小さくなると厳しいです。

石野氏:しかも、普通のスマートフォンでも、ソフトウエアで〝かんたんケータイ〟のようなモードが作れてしまう。そうなると、キャリアの下請け的に作っていたかんたんスマートフォンのような端末の市場も狭くなってしまう。京セラには熱狂的なファンがいる「TORQUE」シリーズがあるけど、タフネスモデルだけに長持ちしすぎてしまって、機種変更をする人が少ない。

TORQUE 5G

石川氏:しかも、バッテリーを自分で交換できる。ユーザーにはハッピーだけれど、機種変更のサイクルが長くなってしまいがち。新しいモデルが売れないのは当然です。

法林氏:Androidフィーチャーフォンは一定数売れるので、今後も残していくと思うけれど、らくらくフォンのようなシルバー層向けのスマートフォンは今後難しい。僕より少し上の世代でも、iモードを使っていた世代なので、かんたんケータイのような、タイル型のメニューがどこまで必要かは疑問。字が大きく表示するのは視認性の面で必要だけど、〝わかりにくいからシンプルなデザインがいい〟というのは、ちょっと違うかなと思います。

石野氏:法林さんは還暦を迎えられましたけど、普通にスマートフォンを使っているわけじゃないですか。そう考えると、らくらくスマホが必要な人たちはどんどん少なくなっていて、シニアと呼ばれる人たちでも、普通にスマートフォンが使える年代になってきています。

石川氏:京セラが撤退したのは個人向け端末だけで、法人向け端末は引き続き生産する。DIGNOケータイはアメリカだと、警察や消防など向けに手堅い需要があるので、そこは続けます。

法林氏:タフネス系のケータイは、どの部品を使って、どう作るのかというのがノウハウとしてあるし、どこの強度を上げるのかとか、壊れた時に代わりの部材を用意できるのかなどが大切。京セラは一定の体制を持っているので、今後も継続できる。

石野氏:今後、シャープでバブルが起こりそうですよね。国内のスマートフォンメーカーが減ったことで、発注がシャープに集中するかもしれません。

石川氏:キッズケータイやシニアケータイのね。

石野氏:あとルーターの発注も増えそうです。

……続く!

次回は、Googleの新型スマホ、タブレットについて会議する予定です。ご期待ください。

法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。

石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。

石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。

房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。

構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦

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