過酷な環境に晒されている現代のビジネスパーソンの悩みは深い。だが、日々直面する課題の中には、私たちの人生をより豊かにするためのヒントが詰まっているという。今回はかなえ先生の新刊発売を記念して、超人気芸人である兼近大樹さんをお迎えした特別編を開催!
※全編は6月16日発売の『DIME』に掲載しております。今回はその一部を先行公開!
[特別対談]生きづらい世の中への処方箋
【読者からのお悩み】
スマホやSNSが発達したせいで「他人との距離感」が近く感じてつらいです。連絡がつきやすいからこそ四六時中監視されている感じがします。ほかにも、悪い噂もすぐ広まるし、ネットでリンチを受けている人を見かけるのもつらい。便利な世の中だけど、窮屈にも感じます。
犯罪学教室のかなえ先生
元少年院の先生で、犯罪心理学や教育犯罪学の知見からニュースなどを解説するVTuber。近著に『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』。
お笑い芸人 EXIT
兼近大樹さん
91年5月、札幌市生まれ。吉本興業所属。17年にりんたろー。とコンビを結成し、M-1グランプリで3回戦進出。21年に自伝的小説『むき出し』を上梓。22年、日テレの『24時間テレビ』でランナーとして100㎞を完走。
初対面の番組でお互いに感じた印象は?
先生 ABEMAの番組で共演させていただいたのですが、私のことを覚えていらっしゃいますか?
兼近 もちろん、覚えていますよ。こんなイケメンが映像で現われたんで、衝撃でしたよ(笑)。
先生 まあまあ、そうですよね。ニュース番組にVTuberが出てきたらビックリしますよね。
実は私の母が兼近さんの大ファンで、デビュー直後の18年のライブに連れて行ったことがあるんです。チケットがあっという間に完売したライブ。
兼近 あのライブに来てくれていたんですか! 光栄です。ありがとうございます。
先生 いえいえ。それ以来、ずっと私もファンだったんですが、番組で共演させていただいた時に印象がかなり変わったんです。兼近さんは、静かな覚悟を持った“やさしいリアリスト”だなと。
兼近 “やさしいリアリスト”ってかっこいいな。言われたい、言われたい(笑)。
先生 少年院に行っても更生できない子の問題がテーマで、兼近さんは人の痛みへの共感力と言いますか、自分の軸があって現実を見て自分の意見を持っているけど、異なる考え方の人にも共感できる。それは経験の中で育まれてきたものなのだろうなと。
兼近 そういう分析をしながら、出演していらっしゃったと(笑)。
先生 あ、すみません。心理学を勉強しているので、ついそういうふうに見てしまうんですよね。
失礼ついでに言ってしまうと、兼近さんは何か理想の自分があって、そうなるための手段がお笑い芸人だったのかなと感じました。
兼近 おっしゃるとおりで、僕の場合は、お笑いがめっちゃ好きで芸人になったというより、自分が自分を好きでいられるためにはどうしたらいいかを考えて、ここまで来たと思っています。
ABEMAでご一緒して、かなえ先生は僕と近い考え方をされる人だなという印象を受けました。心で思っていても、言いづらいことってあるじゃないですか。
先生 ああ、はい。
兼近 それをかなえ先生が代わりに発信してくれたので、うれしかったです。
先生 いえいえ、私も同じで、あの場に兼近さんがおられて良かったと思っていました。
兼近 ありがとうございます!
ABEMAでの共演以来のオンライン対談が実現!
ABEMAのニュース番組『#アベプラ』の「被害者の心情伝達制度も…少年院の更生&教育効果はEXIT×元少年院教官と議論」(23年3月30日放送)で共演して以来のふたり。画面越しでの再会となったが、「お久しぶりッス~!」と終始、和やかな雰囲気だった。
〝被害者ムーブ〟で誰かを叩くSNSの住人たち
先生 兼近さんは視聴者やファンの方から相談を受けるような仕事はされていますか?
兼近 自分の考えを伝えるような場は持っていませんね。雑誌などでの書きモノもやっていませんし。
先生 発信しないのが最高のリスクヘッジかもしれませんね。ただ、TVに出る以上、何も発言しないわけにはいかない。自分はそんなつもりはないのに、相手に悪く受け取られることってないですか?
兼近 僕の場合、それはもう、何を言っても全方位から責められていますよ。例えば、「お腹空いた」って発しただけで、「世の中には満足にご飯を食べられない人もいるんですよ」とか、「のんきでいいですね。私の周りにはそれどころじゃない人がたくさんいる」とか返ってくる。言葉の捉え方って無限にあるんで。
先生 どうにでも捉えられます。
兼近 本当は、僕に対して「あなたが嫌いです」と言いたいんでしょう。だけど、もっともらしい意見にすり替えてぶつけてくる。
先生 罪悪感を植えつけようとするんですよね。
兼近 だから最近は、僕を好きでいてくれてる人がいるっていうことだけを頼りに、やるしかないと思っています。本当はSNSとかやりたくないんですよ。だって、僕のことが嫌いな人って、何か一言発するだけで「傷つきました」ってなっちゃうから。全部が全部、嫌がらせで書いているとは限らなくて、本当に傷ついている人もいるんだと思う。そういう傷ついている人を見ると、僕自身も傷ついちゃうので、葛藤しながら、僕のことを好きでいてくれる人を見るようにしています。
先生 私は同業者からも「アンチに悩んでいる」といった相談をよく受けるんですが、兼近さんの例のように自分と無関係な人に対して被害者や弱者の〝体裁〟で他人を非難する「被害者ムーブ」の人が多い。
兼近 流行ってますね。
先生 SNSで他人が叩かれているのを目の当たりにした人は、その〝地雷〟を避けるように行動しなきゃいけないから、息苦しさを感じるようになってしまいます。
生きづらさの正体は「正解が増えた」から
兼近 今は“正解”と“不正解”が多様化して、何をしても、解釈によって正解にも不正解にもなる。例えば、「ダイエットする」と言ったら、「体に悪いからやめなよ」「少しでもキレイになるならやったほうがいいよ」と正反対の意見が返ってくる。どうしたらいいかわからなくて、それが生きづらさの原因なんだろうと感じます。どれが正解かわからなくて、不正解を選ぶと非難される。
先生 わざわざ「その選択は間違いだ」と言ってくる人がいるから、どうすればいいかわからなくなる。自分の選択に自信が持てないと、自分を肯定できなくなりますよね。
兼近 そうそう。
先生 今回のお悩み相談は、SNSの発達で他人との距離感が近くなってつらいというテーマなんですが、自分の選択に自信がない、自分に自信が持てないというのが、居心地の悪さの原因なのかなと。
兼近 昔は学校や会社、地域、家族などがそれぞれ別の世界としてあって、会社ではダメでも地元の友だちの間ではいい感じだよなって逃げ場があったのが、今は全部SNSでごちゃまぜになった。
先生 確かに。ごちゃごちゃになって、誰が自分を見ているかわからない状態になっています。
兼近 僕は今、47都道府県を全部回る全国ツアーをやっているんですが、地方で人と触れ合うとSNSをやっている人ってそんなにいないんですよ。だから、SNSから離れればその悩みは解決する。
先生 極端な話、SNSが滅べば、今の人類の抱えてる生きづらさは半減されると思う。そうは言っても、もう止められませんけどね。
兼近 SNSで炎上するといったケースだけでなく、何かにチャレンジして失敗した後、誰も救ってくれないというのも生きづらさの背景にあると思う。他人の失敗に厳しくて、すごく不寛容な世の中になっていますよね。
先生 わかります。
兼近 ただ、「やめたほうがいいよ」と止めてる本人も、善意で言っていたりしますからね。その裏にはやさしさも実はあったりする。
先生 やさしさなんだけど、それを振り切って実行して失敗すると、「ほれ見ろ」って言われる。
兼近 「ほれ見ろ」は嫌ですね。
先生 チャレンジしてないやつが言うなよって思う。
兼近 自分の選択を正解にするのって、他人ではなくて、自分なんですよね。自分の未来で正解にするしかないんです。
だから、ちょっとした失敗をした時に、周りが「大丈夫だよ」「こうすれば何ともないよ」と支えてあげれば、失敗も成功になる。
先生 うんうん。社会的に成功した人でも、実はたくさん失敗していて、失敗が糧になっている。
兼近 それをみんなが理解したら、寛容な世の中になっていくと思うんですね。寛容でいるためには、僕はみんな失敗するべきだと思います。失敗して、その失敗を許してくれた、支えてくれる人がいたという経験をすると他人を許せる、支える側になれる。
先生 今のお話、めっちゃ刺さりました。失敗を経験すると、「オレもこんな失敗したけど大丈夫だったよ」と支える側になれる。
兼近 そうです。「だから言っただろ」って責めても何も変わりませんからね。
構成/清水典之
※後編は6月17日15時に公開予定!
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