こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
今回は【いきなり解雇されたのに手当ナシかよ!】事件です。
ーーー 突然解雇したのに、解雇予告手当を支払っていないようですが…
会社
「Xさんが悪いので払う必要はありません」
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「むりむり」
「解雇予告手当48万円はらえ」
いきなり解雇された時にもらえるお金について知識武装してください。分かりやすくお届けします(萬作事件:東京地裁 R1.9.5)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・不動産売買、仲介などを行う会社
▼ Xさん
・いわゆる営業さん
どんな事件か
Xさんは元は取締役だったんですが、辞任して社員となりました。
その43日後、解雇されます。
ファイト!
ーーー なんで解雇したんですか?
社長
「Xさんが横領したからです」
「あと、私を殴ったからです」
Xさん
「横領してないし、殴ってもいないです」
「いきなり解雇されたのに解雇予告手当がもらえませんでした」
「手当1ヶ月分の給料を請求します」
傍聴人
「異議あり!解雇予告手当ってなんですか?」
裁判所
「エマージェンシー!」
「傍聴人がしゃしゃり出てきた!」
「休廷!林さん、ご説明してさしあげて」
林
「うす!」
解雇予告手当とは?
会社は、解雇するには30日以上前に解雇を予告とダメなんです。
労働基準法 20条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない
Q.
「チミ、今日で解雇ね!」と言われた場合は?
====
条文のつづき
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない
====
A.
ザックリいうと1ヶ月分の給料を払う必要があります。これが解雇予告手当です。
スタジオにお返しします!
裁判所
「どうもどうも」
「で、会社さん、なぜ払わないんですか?」
会社
「今回、解雇したのはXさんに責任があるからです。なので解雇予告手当を支払う必要があません」
■ 解説
たしかに、Xさんに責任があれば、会社のいうとおりです。
条文のつづき
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない(=解雇予告手当を支払わなくてもいい)
となると、争点は、Xさんが横領したのか?社長をボコったのか?です。
▼ 横領したのか?
会社
「横領してます。値引きしていない金額を客から受け取っておきながら、会社には『値引きしました』と言って差額を横領したんです」など
Xさん
「横領してません。会社の勘違いです」
と、証拠をつけて詳しく説明。
(詳細は割愛)
裁判所
「ふむ。たしかに、横領はしてないですね」
▼ 社長をボコったか?
ーーー 社長、どんな状況で殴られたんですか?
社長
「業者に頼んでXさんのパソコンを点検していたときのことです。Xさんが『何するんだ。パソコンに触るな」と言って、私の胸ぐらをつかんで締め上げて、平手で2、3回なぐってきました」
社長は言い分を裏付けるため、2名の陳述書も証拠提出しました(おそらく社長サイドの社員)「社長のいうとおりだ!」という陳述書です。
ーーー Xさん、社長はこう言ってますが
Xさん
「ちょっと待ってください!殴られたのは私ですよ!それを手で払いのけようとはしましたが。私からは殴っていません」
ーーー 水かけ論ですな…。裁判所さん、いかがでしょうか?
裁判所
「Xさんは社長を殴ってない!と認定します」
社長
「え!この写真を見てください。私が殴られた直後に撮ったものなんですが、首のあたりが赤くなっているじゃないですか」
裁判所
「たしかに赤くなってるんですが、殴打の痕として合致していないと考えます」
「あと、社長は訴訟【前】の通知書には「顔面を【グー】で殴られた」と書いてますけど、訴訟になってから【平手で】殴られたと言い分を変えてますよね。こういうところも社長の主張を信用できない理由の一つです」
■ マメ知識
裁判所は、言い分をコロコロ変える人を信用しません(主張の変遷にビクッ!とします)。誰かを訴えたいときには大木のようなブレない主張を心がけましょう。
▼ 録音、チョー大事
裁判所
「さらに、Xさんが証拠提出した録音データを聞きましたが、ここにはXさんの「オレを殴ったな」「警察に電話してくれ」という発言が録音されていますが、社長が殴られたことを裏付けるような発言は収録されてないんです」
■ 注目
Xさんは不穏な空気を感じたのでスマホ?をRECモードにして社長との話し合いに臨んだのでしょう。今回、この録音も大きな証拠として採用されています。
教訓:不穏な話し合いに臨むときはREC
結果
というわけで、裁判所は「Xさんに責任なし!」と認定。原則どおり、解雇予告手当48万円の支払いを命じました(+ 未払い給料69万円の支払いも命じています)
これにて閉廷
と思いきや!
ビシッ!
さらに48万円のお仕置きです。倍返し。
すなわち、48万円+48万円=96万円です。
■ 解説
「不払いが悪質だなぁ〜」と判断すれば裁判所はお仕置きを命じます(付加金・労働基準法114条)お仕置きの金額は裁判所のサジ加減ひとつ。
裁判官が「この不払いはクソだ!」とブチギレれば最大で倍返し(半沢直樹)を命じることがあります。今回はそのケースでしたね。
ーーー 裁判所さん、倍返しを命じた理由は?
裁判所
「裁判にあらわれた一切の事情を総合考慮した結果です」
ーーー 簡単にいえばガラガラポンですな!
裁判所
「退廷を命じます」
林
「うわ〜!」
(警備員2人につまみ出される)
さいごに
「チミ、明日から来なくていいよ」など30日以上前に解雇を伝えられなかった人は、解雇予告手当をもらえます(7日前に伝えられた人は23日分、など細かい計算方法あり)
もし払ってもらえない方がいれば、労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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