株式市場の適正化と好循環を作り出すために
それでは、企業が自己資金を使ってまで自社株を買い戻すのはなぜでしょうか?
活発化している背景は2つあると考えられます。1つは東京証券取引所が株価対策を各企業に要請している通り、株主を重視した経営を求められていること。もう1つはアクティビストの台頭です。
東証は2023年4月にPBRが1倍を下回る企業に対して、改善するよう求める異例の勧告を行いました。PBRは株価を1株純資産で割ったもの。PERと同じく投資判断に使われる指標です。
東証が勧告するPBR1倍割れの企業は、理論上は会社を解散して資産を株主に分配した方が株主を利することになります。簡単に言うと、上場する価値のない会社だということになります。
しかし、日本にはPBR1倍を下回る企業が多く、三菱UFJフィナンシャル・グループ、日本製鉄、本田技研工業、日本郵政、オリックス、旭化成、野村ホールディングス、日本ハムなどの一流企業もPBRは1倍を下回っています(2023年6月8日現在)。
東証としては、企業価値を高めて投資妙味を高め、国内外の投資家からの資金を呼び込まなければなりません。投資家にその収益が分配されて再投資に回り、企業活動を活発化させたいからです。
特に日本市場はアメリカなどと比べると盛り上がりに欠けています。その改善に本腰を入れました。
また、2024年からはNISAの投資枠が大幅に拡大されます。政府は多くの国民に投資を促そうとしています。そうした中で、株価底上げの意図もあるでしょう。
自社株買いはPBRを高める最も手っ取り早い手法の一つです。
ベンチャーキャピタルとアクティビストの対立
アクティビストの要求を飲んで自社株買いを行うケースもあります。アクティビストは数%の株式を取得し、自社株買いなどの株主提案を行って短期的にリターンを得る手法を得意としています。
旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスが、ベンチャーキャピタル・ジャフコの株式を取得し、自社株買いを要求しました。同社が株式を取得したのは、2022年6月ごろ。当時の株価は1,200円前後でしたが、持株の大半を処分した際の株価は2,500円でした。2倍以上高まっています。
ジャフコはPBRが1倍を下回っていました。ただし、野村総合研究所の株式を大量に保有しており、潤沢な資産がある会社でした。そこに目をつけたのがシティインデックスイレブンス。持株をすべて売却し、自社株買いを行うよう要求したのです。最終的にジャフコはその要求を飲みました。
この一件で、ジャフコは買収防衛策に奔走するなど、一時的に経営が混乱しました。アクティビストの目を付けられると、本業も危うくなります。
アクティビストとの面倒ごとを避けるためにも、早めに自社株買いを行ってPBRの底上げを図る企業がいてもおかしくはありません。
取材・文/不破 聡