2022年の上場企業による自社株買いは過去最大の9兆2,220億円に達し、2002年以来最大となりました。実施企業数も1社当たりの金額も増加しています。
2023年も引き続き自社株買いは活発に行われています。5月の自社株買いは3兆2,000億円を超えました。単月での金額としては過去最大です。
自社株買いとは、企業が発行した株式を買い戻すことで、株主への還元策の一つとされています。しかし、株式の買い戻しが株主のメリットになるという理屈が、今一つピンときません。自社株買いとは、いったいどのようなものなのでしょうか?
自社株買いは株価上昇の兆候というのは本当か?
自社株買いは株式を発行している企業が、自らの資金で市場の自社株を買い集めることです。買い戻した株式は消滅するか、金庫株として保有され続けます。
自社株買いを設定した企業の株価は、ポジティブに反応すると言われています。シンクタンクのニッセイ基礎研究所は、2019年から2021年までの4月~12月で自社株買いの実施を発表した企業の株価を調査。その結果、自社株買いの設定日の翌営業日に、平均して約2%の上昇が認められたと発表しています(「2021 年4~12 月の自社株買い動向」)。
この調査は単純な株価ではなく、対TOPIXの累積超過収益率で導き出した指数による検証で、外部環境の影響を排除した純粋な自社株買いの効果だと言えるでしょう。
自社株買いが株価の好材料となるという話は、信ぴょう性が高いということになります。
企業が自社株買いを行う主目的は株主還元でした。すなわち、株主には手持ちの株が上がるというメリットがあります。
18%超の株式を買い戻すスルガ銀行の株価は?
なぜ、株価が上がるのでしょうか?市場に流通する株式数が減るためです。
地銀のスルガ銀行が、2023年5月18日に自社株買いを発表しました。発行済株式数の18.58%に相当する3,500万株を買い戻すというもの。取得総額を220億円としました。
この発表を行ったのは18日の17時半。この日の終値は510円でした。翌営業日の19日は一時6.7%高い544円をつけました。
スルガ銀行の普通株式は合計1億8,800万株あります。そのうちの18%程度に相当する3,500万株が減少するという内容です。
流通する株式の減少が株価に好影響を与えるという考え方には、PERという指標が役立ちます。PERは株価収益率のことで、株価を1株当たりの純利益(EPS)で割って計算します。
1株当たりの純利益というのがポイントです。
スルガ銀行は2024年3月期の純利益を85億円と予想しています。PERを出す際は通期予想を使うのが普通です。
1株当たりの純利益は45.1円。自社株買い実施を発表する前(5月18日)のスルガ銀行の株価は510円でした。PERは11.3倍です。
しかし、今回の自社株買いで株式数は減少します。株式が引き締まった影響により、1株当たりの純利益は55円まで高まります。もし、株価が510円で変わらなかったとすると、PERは9.2倍まで下がります。
PERは株価が割安か割高かを判断する指標で、業績や経営環境、不祥事などが生じない限り、大きく変化することはないと言われています。
スルガ銀行のPERは理論上、11倍程度まであるはずなので、株価が上向くのです。