コロナ後遺症の定義付けのための症状スコア
新型コロナウイルス感染症の後遺症(post-acute sequelae of COVID-19;PASC)を定義付けるための12種類の症状からなる「PASCスコア」が開発され、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に2023年5月25日掲載された。
米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのLeora Horwitz氏らの研究によるもので、米国人約1万人のデータを基に開発された。
このPASCスコアには、倦怠感やブレインフォグ(頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態)、運動後の疲労(post exertional malaise;PEM)、めまい、消化器症状、動悸、性的欲求や性機能の変化、嗅覚や味覚の変化、口渇、長引く咳、胸痛、異常行動という、12種類の症状が含まれている。
これらの症状を1~8点で評価してPASCを定義付けるというもので、カットオフ値は12点だという。Horwitz氏は、「われわれの研究は、PASC定義付け作業の重要な一歩だ。この症状リストは時間の経過とともに変化する可能性があるが、今後の研究や治療法開発に向けて、基盤となるだろう」と語っている。
この研究は、米国立衛生研究所(NIH)の資金提供によるCOVID-19からの回復法に関する研究(Researching COVID to Enhance Recovery;RECOVER)のデータを用いて実施された。
解析対象は、COVID-19感染者8,646人と未感染者1,118人を含む成人9,764人で、このうち感染後30日以内に研究参加登録されていた2,231人のうち、224人〔10%(95%信頼区間8.8~11)〕がPASCと診断されていた。
このデータを基に、最も効率よくPASC患者を特定できる症状を検討した結果、前述の12の症状から成るスコアが開発された。
また、PASC患者を以下の四つのタイプに分類できることが分かった。タイプ1は嗅覚や味覚の喪失または変化が中心の群、タイプ2はPEMや倦怠感が中心の群、タイプ3はブレインフォグに加えPEMや倦怠感のある群、タイプ4は倦怠感やPEM、ブレインフォグ、消化器症状、動悸のある群。
PASCのリスクが高い人とは?
このほかに本研究から、COVID-19ワクチンを接種していなかった場合にPASCリスクが高くなることも明らかになった。
オミクロン株発生後のCOVID-19患者のうち、罹患前にワクチン接種済だった患者の9.7%がPASCと診断されていたのに対して、ワクチン未接種状態で罹患した患者では17%がPASCと診断されていた。
また、COVID-19に再感染した場合もPASCリスクが高くなることが分かった。感染回数が1回の場合、PASCと診断された割合は9.7%であるのに対して、2回以上の場合は20%だった。
研究者らは、この研究の次のステップとして、一連の臨床検査や画像検査データと照合し、PASCスコアの精度をチェックすることを計画している。
また、PASCの効果的な治療法や予防戦略の開発のために、PASCという病態の根底にある生物学的メカニズムに関する研究の必要性も指摘している。
本報告に対して米国国立心臓・肺・血液研究所(NHLBI)のDavid Goff氏は、「開発されたスコアは初期段階の研究によるものではあるが、PASCの診断とモニタリングでの利用を意図しており、重要な研究ツールである」と評価。
ただし、一方で症状スコアによってPASCを定義することの限界も存在するとし、「COVID-19感染後に何らかの症状を訴える患者の全てに対して、これまで蓄積されてきた臨床経験に基づく治療がなされるべきである。また、今後PASCに対する治療法が開発されていくに従い、患者の訴える全ての症状を考慮することが重要になっていくだろう」と話している。(HealthDay News 2023年5月25日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2805540
構成/DIME編集部