先日、梅雨前線と台風2号の影響で、各地が記録的な大雨に見舞われたことは記憶に新しい。
今回の豪雨で台風シーズンの到来を予感した人も多いだろうが、実際のところ、今年はいくつの台風が発生する見込みなのだろうか?
ウェザーニューズはこのほど、2023年の「台風傾向」を発表した。
台風発生数は平年より多い 29 個前後、日本の南〜東日本太平洋側に接近しやすい傾向
台風の発生数について
今シーズンの台風発生数は、5 月までに発生した 2 個を含めて 29 個前後の予想。
シーズン中は 2019 年以来の強い「正のインド洋ダイポールモード現象」が発生する見込み。この影響で、台風発生域の対流活動が平年より活発になるため、台風の発生数は平年の 25.1 個よりやや多くなりそうだ。
正のインド洋ダイポールモード現象が発生すると、インド洋の東部で高気圧性の循環が強まり、フィリピン近海へ吹く風(モンスーン)が強まる。この風がフィリピンの東で東風(貿易風)とぶつかることで、平年に比べ周辺での対流活動がやや活発になる見込みだ。
図1:日本周辺の海面水温と高気圧の位置関係
台風の発生位置について
今シーズンは、正のインド洋ダイポールモード現象と同時に、2015〜2016 年以来の強度となる顕著な「エルニーニョ現象」も発生する見込み。
エルニーニョ現象が発生した場合の台風の発生位置の傾向を示した近年の研究(※1)に基づくと、今シーズンに予測されているエルニーニョ現象の海面水温分布の場合、台風の発生位置が平年よりも東または南東にシフトすると考えられる(図 2)。
また、海面水温が高い海域を通る時間が長くなるため、勢力の強い台風が多くなるとみられる。
図2:台風の発生位置の傾向
台風の進路傾向について
エルニーニョ現象が発生した場合の台風の進路傾向を示した近年の研究に基づくと、今シーズンに予測されているエルニーニョ現象の海面水温分布の場合、東シナ海方面へ進む台風は少ない傾向がみられる。一方、日本の南から東日本太平洋側を中心に台風が接近しやすくなるとみられる(図 3)。最新の台風情報を確認しつつ、十分な備えが必要だ。
図3:台風の進路の傾向
類似年の台風発生数
1951 年以降、エルニーニョ監視海域(NOAA/米海洋大気局)の予想海面水温とインド洋の予想海面水温が、今年の予測と類似している年は、5 例(2015、2009、1997、1982、1972 年)だ。各年の台風発生数は 22~31 個、平均すると 26.6 個で、類似年の台風発生数は平年よりやや多い状況だ。
参考 1:正のインド洋ダイポールモード現象
正のインド洋ダイポールモード現象は、インド洋東部で海面水温が平年より低く、西部で平年より高くな
る現象だ。この海面水温の変化に伴い、インド洋東部では通常に比べて蒸発が抑えられる分、下降気流が発生し、高気圧が強まる。
この高気圧から吹き出す風の影響を受けて、フィリピン近海では上昇気流が強まり、対流活動が活発化する。このため、フィリピン近海で多数の積雲や積乱雲が発生しやすくなり、台風が発生するケースが多くなる。
図4:「正のインド洋ダイポールモード現象」模式図
参考 2:エルニーニョ現象
エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけての海面水温が、平年より高くなる現象だ。この海面水温の変化に伴い、通常フィリピン近海で活発な対流活動が東(南東)へシフトする。
図5:「エルニーニョ現象」模式図
※1 参考文献:Song, J., P. J. Klotzbach, and Y. Duan, 2020: Differences in Western North Pacific Tropical Cyclone
Activity among Three El Niño Phases. J. Climate, 33, 7983–8002, https://doi.org/10.1175/JCLI-D-20-0162.1.
※2 2023年は、6月6日現在の発生数。
※3 平年:統計期間1991〜2020年の平年値を使用している。
出典元:株式会社ウェザーニューズ
構成/こじへい