日本の漢字は、新聞・テレビ・公文書等で使用する「常用漢字」と、それ以外の「常用外漢字(表外漢字)」に分かれる。常用外漢字であっても「頃」「誰」「藤」のように見慣れた漢字は多いが、中にはなじみがなく、とっさに読み方がわかりにくい言葉もある。「叛く」は、そんな迷いやすい常用外漢字の一つ。正しい読み方と常用漢字での言い表し方を知っておくと何かと便利だ。
そこで本記事では、「叛く」の読み方と言葉の意味、使い方や気をつけたい誤用表現について解説する。
「叛く」の読み方と意味
「叛く」の読み方は「そむく」。取り決めたルールや目上の人間の命令・考えなどに従わず反抗や反対をすることを指す。「叛」が常用外漢字となっているため、公文書等に記載する場合は「背く(そむく)」と表記するのが一般的だ。
なお、叛く(背く)には、「反抗・反対する」という基本の意味以外にもいくつかの意味がある。
一つじゃない「叛く(背く)」の意味
反抗する、反対する以外の叛く(背く)の意味は以下の通り。いずれも慣用的な使い方をするため、例文を参考にしながら使い方を覚えておくと良いだろう。
・ある人やある思想、コミュニティなどから物理的または心理的に離れること。去ること。離反すること。
例文:「世間に叛く」
・予想したものとは反対の結果になること。
例文:「ファンの期待に背(叛)く結果となる」
・対象物と反対の方向に向きを変えること。
例文:「目を背(叛)ける」「顔を背(叛)ける」
「叛く」の正しい使い方、誤りやすいポイント
「叛く」という言葉にはニュアンスの異なる複数の意味があるが、基本的には「反抗する」「反対する」の意味で理解しておいて問題ない。ここからは、「叛く」の使い方と間違いやすいポイント、類語や対義語もチェックしておこう。
「叛く」と「背く」の違いは?
同じ読み方をする「叛く」と「背く」は、基本的に意味も同じだ。ただし、漢字の意味を厳密に区別すると、「叛」の字には今まで従っていたものに反逆(反抗)するという意味がある。そのため、ただの反抗ではなく、以前は従っていたり仲間であったりしたことを強調したい場合に、「叛く」を使うケースもある。
【漢字の意味を重視した場合の「叛く」と「背く」の違い】
・叛く:裏切る、謀反を起こす(反抗する以前は仲間・同類・構成員等だったことが強調される)
・背く:反抗する、従わない(反抗する以前の態度がどうだったかは必ずしも考慮されない)
「反く」という言葉もある?意味は?
「叛」を常用漢字で表記する場合、「反」に置き換えられる。例えば「叛乱」→「反乱」、「叛旗」→「反旗」のように書きかえられるのが一般的だ。そのため、「叛く」も「反く」になるのではと考えてしまいがちだが、常用漢字としての「反」に「そむ(く)」という読み方は存在しないため、「叛く(背く)」を「反く」と書くのは誤り。「叛く」に該当する漢字は「背く」のみとなる。ややこしい部分なので間違わないようにしっかり覚えておこう。
「叛く」を使った例文
反抗・反対するという意味で「叛く」を使う場合は、以下のような使い方がある。
【例文】
「親の決めた進路に叛いて、自分の人生を歩もうと決めた」
「明智光秀は天正10年6月2日、主君の織田信長に叛き、本能寺の変を起こした」
「社内の不文律には叛くことになったが、上司の不正を報告した件は後悔していない」
「叛く」の類語・反対語は?
「叛く」の意味や使い方をチェックした後は、似た意味の言葉(類語)や反対の意味を持つ言葉(反対語・対義語)も併せて知っておくと語彙に幅が出るのでおすすめだ。
【叛くの類語】
「叛く」と同じ、「反抗する」「反対する」という意味を持つ言葉には、以下のようなものがある。
・歯向かう(はむかう)
・楯突く(たてつく)
・逆らう(さからう)
・手向かう(てむかう)
・牙を剥く(きばをむく)
・反旗を翻す(はんきをひるがえす)
【叛くの反対語】
一方、「叛く」と逆の状態を表現したい場合は、「従うこと」を意味する以下のような言葉を使うと良いだろう。
・服従する(ふくじゅうする)
・同調する(どうちょうする)
・遵守する(じゅんしゅする)
・付き従う(つきしたがう)
文/編集部