コロナ明けとなり、同僚や友人との飲み会や会食の機会が徐々に復活しはじめている。先日、友人たちを連れ立って、ふらりと立ち寄った居酒屋で発見したのが、2つのテーブル席の間にちょこんと置かれたお一人様用のスリムな喫煙ブースだ。ふつうは臭いや煙が外に漏れないようにドアがあるものだが、このブースにドアはなく、上半身が隠れる透明のシートが、のれんのようにさがっているだけ。「これじゃあ臭いも煙も全部出てしまうのでは?」と話しつつ早速ブースを使ってみることにした。
正面の壁にある「こちらに向かって煙を吐いてください」の指示通りに、紙巻きたばこの煙を大量に吹きかけると、一瞬にして煙はスーッと壁に吸い込まれ、壁にバウンドして逆流することもない。つまりブース内に煙がこもらないので、服や髪にたばこの臭いがつかないのである。
さらにガラス越しに周囲を見渡したが、隣り合わせのテーブル席に座る女性のグループも煙や臭いに迷惑をしていることはなく食事を楽しんでいる様子。これはのれん仕切りとはいえ一切煙や臭いが漏れていないという証拠だ。この画期的な喫煙ブースの名は『スモーククリア』。どんな仕組みで魔法のようなことができるのか。製造したメーカーを訪ねてみた。
“クリア分煙”を旗印に置くだけで使える喫煙所を開発
「スモーククリア」を製造・販売するエルゴジャパンは1988年に創立。アミューズメントホール(パチンコ店)向けのデザインと快適性を追求したオリジナルチェアや、隣席との間を仕切る分煙用パーソナルボードなどによって成長を遂げたメーカーだ。同社のスモーククリア営業部・本部長の福田裕二さんに、「スモーククリア」開発のきっかけや特徴について伺った。
「東京オリンピックの開催が決まった2013年に『スモーククリア』の開発をスタートしました。オリンピック開催国になることで喫煙ルールが厳格化されることが決定し、アミューズメントホールや飲食店、企業が簡単に設置できる喫煙ブースとして発案しました。実際、2018年に健康増進法の一部を改正する法律が成立し、2020年の4月から改正健康増進法が全面施行されました。当社では商品化を急ピッチで進め、2019年に法人、個人事業主向けに『スモーククリア』の販売に漕ぎつけました」(福田さん)
製品コンセプトは、[吸う人も吸わない人も安心して快適に過ごせる空間を実現する]“クリア分煙”。「たばこのニオイを外に漏らさない」、「たばこのニオイを服や髪につけさせない」、「たばこのニオイを感じさせない」の3つの柱を絶対条件として開発に取り組んでいった。
「『スモーククリア』は、ブース本体、吸気・排気ファン、フィルターの3つの要素で構成されています。本体の設計や機能面はこれまでの製造ノウハウをいかして自社で行い、ファンは国内の老舗電気メーカー、フィルターはヨーロッパの専業メーカーと共同で開発を進めていきました」(福田さん)。
多層構造フィルターと吸引ファンには試行錯誤の繰り返し
そのメカニズムは、まずたばこ燃焼中に出る煙や喫煙者が吐いた煙が拡散する前に前面の吸気口からファンを回して吸引。高性能フィルターで有害物質と臭いを除去した後、きれいな気流にろ過して天井の排気口から同空間へ送り戻すというもの。これによって服や髪に臭いがつかず、たばこの煙や臭いが中にこもることや、ブース外への流出をシャットアウトする。
「吸引した煙をすぐにろ過しないと臭いが残留するためフィルター性能アップには最も苦心しましたね。何度も改良を重ね、高圧縮カーボン(=活性炭)フィルター(特許出願中)、HEPAフィルターなどを用いた多層構造のフィルターが完成しました。また、フィルターのきめが細かいことから、スムーズにろ過できるように、ファンのパワー調整や設置位置にも試行錯誤しました。吸引した煙を外に出さない“内部排気型”の喫煙ブースとしては、劇的に高性能かつコンパクトで、事業主が導入しやすい低価格も実現しています」(福田さん)。
エルゴジャパン スモーククリア営業部・本部長の福田裕二さん。「全面禁煙の影響で売り上げが伸び悩む飲食店などを“クリア分煙”で応援できればと思っています」
ブース内の人感センサーがあり人の出入りを感知し、空気清浄運転とLEDダウンライトのON/OFFを自動的に行う。
正面の壁面全体が煙吸引ゾーンとなっているので体に臭いが残らない。
こちらは幅1590×奥行き1350×高さ2110cmの4人用タイプ。どのタイプもブース内に余裕があり、落ち着いてたばこを愉しむことができる。穴にたばこを落とすだけで火が消える、自然消煙灰皿ニードルも特許出願中。
高圧縮カーボンフィルターや、0.1~0.2μmの微粒子を99.995%除去するヨーロッパ規格で最高水準となるH14クラスのHEPAフィルターなどを用いた多層構造フィルター。有害物質や臭いを1度にろ過できる。
居酒屋での発見時から気になっていた“のれん”は、吸引力を強くする効果もあるが、喫煙者と非喫煙者が、快適に過ごせる空間を提供する心理的効果があるという。
「ドアのないオープンタイプですが、スキマから煙や臭いが外に漏れることはありません。喫煙者が自然に中に入って吸っていただくための仕切り線代わりや、のれんがあった方が心理的に安心できるという役割もあります」(福田さん)。
のれんは、店の業態やインテリアなどに合わせて、オリジナルのデザインのれんを作ることもできる。