■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
ルノーの「カングー」が3代目へとフルモデルチェンジした。「カングー」は本国フランスをはじめとするヨーロッパ圏では商用車として使われることがほとんどなのだが、日本では逆転している。「カングー」が大好きなオーナーが、乗用車として可愛がって使っている。そうしたオーナーが毎年たくさん(※2022年は1783台)集まる「カングー・ジャンボリー」というイベントも開催されている。不思議に思ったフランス本社が発行するPRメディアで大々的に記事にされたほどだ。筆者も訪れたことがあるが、会場には参加者たちの“カングー愛”が溢れていた。
その「カングー」がフルモデルチェンジした。日本で販売されるのは、1.3ℓガソリンエンジン版が4グレード(税込み価格384~405万5000円)と、1.5ℓディーゼルエンジン版が3グレード(税込み価格419~424万5000円)。
機械として優れているか? ★★★★★5.0(★5つが満点)
エクステリアデザインがやや直線主体のものになり、第一印象が大きく変わった。全長が210mm伸び、全幅が30mm拡がって、ボディが大きくなった。荷室容量は旧型より115ℓ増えて775ℓになり、リアシートを倒すと、132ℓ増えて2800ℓも積めるようになった。ガソリン版とディーゼル版を併せて、千葉県の一般道と千葉東金道路で3時間試乗した。
まずは、1.3ℓ4気筒ガソリン版から。ルノーと日産と三菱自動車のアライアンスにダイムラーも加わって共同開発されたターボエンジンだ。EVやハイブリッド、プラグインハイブリッドなど現在のクルマのパワートレインは電動化されているものが多いが「カングー」のガソリンとディーゼルエンジンは純粋の内燃機関だ。ただし、ヨーロッパ圏ではEV版の「カングー」がすでに発売されているというから、日本導入も期待して待ちたい。
このガソリンエンジンは1600回転から最大トルクの240Nmを発生していて、パワー不足は感じない。自然な感じで加速していく。走行中の静粛性が向上したのは、エンジンそのものだけでなくボディとシャシーの遮音性も高まったのだろう。
クセのない運転感覚に寄与しているのは、トランスミッションの働きも大きい。ツインクラッチタイプのATは、今回のフルモデルチェンジによって6速から7速へ変わった。段数が増え、賢く、洗練されている。ツインクラッチタイプで苦手とする低速域での変速ショックもなく、小気味よくギアを変えていくので運転しやすいし、燃費にも優れているはずだ。
走行モードも、ノーマル、エコ、ペルフォの3つが備わっている。ペルフォは荷物の積載量が多くパワーを必要としている場合などに用いる。
1.5ℓ4気筒ディーゼルエンジン版に乗り換えると、最近のディーゼルエンジンとしては珍しく、停止時のノイズは車外では目立っている。その一方で、こちらは最近のディーゼルらしく振動は皆無だ。
ガソリン版よりも最大トルクが270Nmと30Nm大きいので、たくさんの荷物を積んで日常的に長距離を移動するような乗り方をする人には断然、ディーゼル版を勧める。燃費に優れ、エンジンをあまり回さなくても力強いからだ。そうではなく、荷物もあまり積まずに短距離移動が多い人にでもディーゼル版を勧めない理由が思い浮かばなかった。
運転支援機能も一新された。アダプティブクルーズコントロールやレーンセンタリングアシストなどが、高速道路での走行を明確にサポートしてくれた。エマージェンシーレーンキープアシストやブラインドスポットインターベンションなどの運転支援機能は、ルノーの日本導入モデルでは初の装備となる。つまり、運転支援機能に関してはカングーが最も進んでいるということになる。長距離走行を、より安全で負担の少ないものにしてくれるから大歓迎だ。この進化は大きい。
商品として魅力的か? ★★★★4.0(★5つが満点)
初代や2代目の「カングー」には、商用車ゆえの不便さや快適性の足りないところなどもあった。しかし、3代目となってそれらの不満点はほぼ解消されていた。静粛性や快適性などが大きく向上したので、これはもう立派な乗用車である。
電動化こそ施されていないが、前述の通り、運転支援機能は大幅に進化して、日本仕様のルノーではナンバーワンとなった。594mmと低い荷室床面の最低地上高と出っ張りのほとんどないトランクの空間、シンプルで畳みやすいリアシートなど「カングー」の真骨頂である大きな荷物の積み下ろしやすさは変わらない。商用車ユースを前提に造られていることを最大限に活かしている。
日本での、今までの「カングー」の人気は、“商用車を、あえて乗用車として乗る”というある種のスノビズムに支えられていた。以前の「ジープ」や「ランドローバー」、メルセデス・ベンツ「Gクラス」やトヨタ「ランドクルーザー」などのオフロード4輪駆動車では、同種のスノビズムは「カングー」以前にも存在していたものだけれども、同じようなクルマがありそうでない日本市場では、3代目も一定の支持を受けることになるはずだ。フルモデルチェンジによる大幅なアップデートによって、息の長い商品になるだろう。
忘れずに付け加えると、アクセサリーのデジタルルームミラーは、ぜひ注文したい。大きな荷物を積み込んでも、後方視界を確保できるからだ。「カングー」でこそ活きてくる装備だ。
■関連情報
https://www.renault.jp/car_lineup/kangoo/index.html
文/金子浩久(モータージャーナリスト)