こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
ワル知恵を働かせた会社!
会社が【有給を取りにくくするための策を講じていた】事件です。
Xさん
「有給をとりたいのですが」
会社
「うーん、条件を満たしていませんね」
「ウチの就業規則に従った計算だと」
「無理ですね」
裁判所
「どんな計算方法だよ!」
「この就業規則は無効」
「欠勤扱いはダメ」
「44万円支払いなさい」
以下、分かりやすくお届けします(エス・ウント・エー事件:最高裁 H4.2.18)
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
どんな事件か
Xさん
「有給をとりたいのですが」
会社
「うーん、条件を満たしていませんね」
「以下の条文を見てください」
労働基準法 39条
使用者は、その雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない
会社
「あなたは【全労働日】の8割以上出勤してないからです」
Xさん
「【全労働日】の8割以上出勤してるはずですが…」
会社
「土日などの休日も【全労働日】に入れて計算しました?ウチの就業規則ではそうなってるんですよ」
■ 注目!
会社は就業規則変更をしていたんです。休日も【全労働日】に入れることで有給をとりにくくするための策略だったと思います。【全労働日】が多くなれば8割をクリアすることが難しくなるからです。
Xさんは会社の説明に納得できませんでした。そして強行突破で休みました。
すると、会社は・・・
会社
「有給とれないのに休んだから欠勤扱いしますね」
「その日の賃金はカットします」
「あと、ボーナスもカットします」
Xさんが訴訟を提起
Xさんは、賃金とボーナスがカットされた分の支払いを求めて提訴しました。
ジャッジ
Xさんの勝ちです。裁判所は、会社に対して約44万円の支払いを命じました。
ーーー Xさんが勝ったポイントは、どこにあったんでしょうか?
裁判所
「Xさんは有給をとる条件をクリアしていたからね。すなわち【全労働日】の8割以上出勤してたってことです」
ーーー 会社は「土日なども【全労働日】も含めて計算すると条件クリアしてない!」と主張してましたが
裁判所
「シャラップですね。【全労働日】って労働契約上、労働義務が課されている日のことを言うのよ。会社は独自の運用で、休日も【全労働日】に含めて計算してるようだけど、これは労働基準法39条1項違反です」
裁判所
「なので、有給をとったXさんを欠勤扱いしたことは違法。で、賃金カットも違法。カットした分を支払いなさい」
ーーー ボーナスの点はどうですか?
裁判所
「ボーナス計算するときに、有給とった日を欠勤いにして計算するのも違法です。なのでボーナスもカットせず支払いなさい」
とういわけで、裁判所は、会社に対して約44万円の支払いを命じました。
マメ知識
2つマメ知識を。
▼ 有給とるのに理由はいらない
「有給とって何するんだ?」とホザいてくる上司がいるかもしれませんが、理由を説明する必要はありません。最高裁がそう言ってるからです。
年次有給休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由(全林野白石営林署事件:最高裁 S48.3.2)
恋に落ちる時と、有給をとる時に理由はいらないのです(キマリましたね)
▼ 会社の承諾も、いらない
「有給とりたい?どうしよっかなぁ〜。キミの頑張りを見てから決めるよ」とホザく加齢臭キツめの上司がいますが、無視でOKです。
有給って、労働基準法39条の条件を満たしていれば「とりますね」でOKです。会社の承諾なんか、いりません。これもさっきの最高裁が言ってます。
会社の承認の観念を容れる余地はない(by サイコー裁)
(有給を取るための条件についてはココで書くと膨大になるのでググってみて下さいね)
■ 例外
ただ、会社が「その時期はちょっと…」と考えた時には「その日は無理だからこう言う時期にしてくれないかな?」とお願いされることはあります(時季変更権〈労働基準法39⑤〉)。まぁ会社の「その日は無理」の立証レベルは相当なものが要求されますが。
もし会社から「その日は無理」と言われたら、こう切り返してみましょう。
あなた
「私が有給をとることで【事業の正常な運営を妨げる】のでしょうか?(労働基準法39⑤)その日の私の労働が業務の運営にとって不可欠であり、かつ、代替要員を確保するのが困難であることについて詳細な説明をお願いします」
会社は「ウッッゼ!」と思うでしょうが、有給をとりたければ実践してみてください。詳細な説明がなければ、労働局に申し入れてみましょう。
さいごに
今回の会社は、有給をとりにくくするための就業規則にしていました。「就業規則に書いてるから従わなきゃ…」とあきらめることはありません。あくどすぎれば(法律に違反していれば)就業規則は無効となります。
▼ 相談するところ
有給がとりにくい方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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