パーソル総合研究所とベネッセコーポレーションの社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、立教大学・中原淳教授と共同で、就業者の社会貢献意識(ソーシャル・エンゲージメント)に関する調査(サンプル数6000人)を実施。回答結果を図表やグラフにまとめて発表した。
ソーシャル・エンゲージメントの定義
就業者の社会課題解決への関心の強さや責任感、課題解決への効力感を「ソーシャル・エンゲージメント」として測定。
就労形態では「公務員・団体職員」のソーシャル・エンゲージメントが高い
他に業種では「教育・学習支援業」、職種では「クリエイティブ職」「事業開発・商品開発・研究職」でソーシャル・エンゲージメントが高くなっている。
ソーシャル・エンゲージメントが高い層は、低い層と比べ幸せな活躍をしている人の割合が2.9倍
この他にもパフォーマンス、ワーク・エンゲイジメント、ジョブ・クラフティング(※)などの指標もすべて高い傾向が見られた。
※働く人が自分の仕事を主体的に再構築し、自分にとってより意義のある形に変えるプロセス
ソーシャル・エンゲージメント(S.E)が高い層では、環境配慮や人権配慮行動を行っている割合が高い
また、学びへの前向きな行動も2.3倍見られる。
「手触り経験」「見渡し経験」「踏み出し経験」が多いほど、ソーシャル・エンゲージメントが高い
性年代別に見ると、仕事に関する「手触り経験」「見渡し経験」において、中高年になるほど男性の方が経験率が高くなっていく。
ソーシャル・エンゲージメントが高い若年層の特徴
ソーシャル・エンゲージメントが高い若年層は、学生時代に「積極的に行動」し、多様な人と交流する「ネットワーク行動」や「内省」を行っていた人が多い。また、「職業と学びの紐づけ(ラーニング・クラフティング)」「領域を超えたカリキュラム」「能動的な学び」を行っていた。
ソーシャル・エンゲージメントにプラスの影響を及ぼす要素
「視野の広さ」と「仕事上の余裕」が、ソーシャル・エンゲージメントにプラスの影響を及ぼしていた。
人事管理における「キャリア目標の明確さ」「多様な人材の活躍支援」が視野の広さにプラスの影響を与えている。一方で、「異動転勤の多さ」や「新卒偏重の人員構成」などはマイナスの影響が見られた。
調査結果からの提言
パーソル総合研究所 ベネッセ教育総合研究所 立教大学・中原淳教授
今回、就業者の社会課題への関心の高さや社会変化への効力感の高さを示す「社会」へのエンゲージメントとして、「ソーシャル・エンゲージメント」という独自の概念を用いて調査を行った。
ソーシャル・エンゲージメントが高い従業員は、目の前の仕事に主体的に取り組み(ジョブ・クラフティング)、学びの意欲が高く、業務上の成果や主観的なウェルビーイングも高いことがわかった。
ソーシャル・エンゲージメントの高さには、学生時代・社会人の経験との関連が見られ、社会人領域では直接的体感を伴う「手触り経験」、仕事以外の越境経験である「踏み出し経験」、組織や仕事を俯瞰して見る「見渡し経験」といった経験が、ソーシャル・エンゲージメントを育てていることが示唆された。
また、ソーシャル・エンゲージメントには企業の人事管理も影響する。キャリア目標を明確化することや、長時間労働を防止することなどとプラスの関連が見られた。また、業務命令による異動・転勤の多さはマイナスに作用しており、伝統的な日本の配置転換の在り方が、就業者の社会的関心を下げている可能性も示唆された。
CSR活動や金銭支援といった直接的な社会貢献だけではなく、主体的に社会のことを考えられる人材を育てることも、企業の重要な社会的責任として認識されるべきである。そのために、社会課題を解決する「社会志向」の人材マネジメントの重要性を提議したい。
調査概要
構成/清水眞希