最新ビジネスやマーケティングに詳しい方なら、「D2C」のモデルに注目しているだろう。デジタルを活用し、新しいビジネスをうみだしているトレンドで、ビジネスパーソンから注目を集めるウェルネスカンパニーTENTIALもそのひとつ。広報の吉本慎之介氏に、ここまでの成長の歩みを聞いた。
TENTIALは、機能性アパレルを提供するウェルネスブランド。インソールやサンダル(FOOT)、リカバリーウェアや枕、マットレスなどの寝具(SLEEP)、ワークウェアやインナーウェア(WORK)という3つの領域で、商品開発からオンライン/オフラインの販売までを一貫している。
創業者の中西裕太郎氏をはじめ、元アスリートが集まる同社の事業は、スポーツのノウハウ記事やアイテム解説を発信するスポーツメディアから始まった。その後、スポーツの知見とアスリートとのパイプを活かし、メーカーとして「日常生活のコンディショニング」のためのカテゴリを確立したのが、ビジネスのキモだ。最初に開発したのは、足元から姿勢を改善するインソールだ。
アスリートは、競技のパフォーマンスを上げるために、専用のインソールを使うが、本来競技以外の時間のほうが長い。そこで、特許技術で足裏を支えることで姿勢を正し、身体の歪みと、そのための不調を改善する「普段使いのインソール」を作ると、アスリートたちに支持された。
この商品は、腰痛・肩こりなどの悩みを抱える一般消費者のニーズにも合致する。特に仕事のパフォーマンスを求める中堅以上のビジネスパーソンが顧客となり、市場が広がった。
インソールに続いてリリースしたリカバリーウェア「BAKUNE」シリーズは、2年3ヶ月で20万枚を販売するヒット商品に。独自の機能繊維が遠赤外線を輻射し、血流を改善、寝ている間に筋肉のハリ・コリをほぐし、肉体的な疲労感を軽減するという。
上下セット(長袖/ロングパンツ)で1万9800円〜と、部屋着としては決して安くない価格。それでも売れたという実績が、ウェルネス市場の可能性を端的に示しているように見える。
寝具やワークウェア、入浴剤などにも進出する同社は、今後も「できることは、まだまだある(同社広報・吉本慎之介氏)」と、あくまで意欲的だ。
D2Cを徹底した開発とマーケティング
「病気やケガ以前の身体の不調を解消したい」「コンディションを整え仕事や趣味のパフォーマンスを上げたい」。多くの人が抱えているニーズに、これまでにないアプローチで対応するTENTIAL。今でこそ、メディアで取り上げられる機会が増え、3月に10億円の資金調達を実施するなどビジネスの期待も大きいが、当初はまったくそうではなかった。
第一弾の「普段使いのインソール」は、必要性を理解してもらうのに時間がかかったという。ライバルもいないけれど、お金も、市場もない状態からのスタート。ただ、メーカーとユーザーが、主にオンラインで直接取引するD2Cのモデルに、同社はうまく適応してきた。
ひとつは、機能性アパレルという商材。ユーザーが買うのはデザインではなく、コンディショニングの機能だから、必ずしも現物を見る必要がない。オンラインでも、きっちりエビデンスを示すなど、コンテンツを充実させれば売れる。
次に、ニーズに応じた製造開発。同社は、直接ユーザーからの感想や要望を受けられる利点を活かし、こまめにマイナーチェンジを繰り返している。
しかも、身体の状態に敏感なアスリートから、的を射たフィードバックが得られるのは大きい。「ユーザーの声は全社に共有され、速いスピードで商品が改善される」と、吉本氏は自信を見せる。
最後に、地道なデジタルマーケティング。同社は今でも、新規顧客の9割をデジタル広告経由から獲得している。
デジタルマーケティングは、広告の画像やコピーをこまめに変えたり、ターゲットとその行動を分析したりと、地道な作業がキモ。裏返せば、コツコツ改善を積み重ねれば、限られた資金で成果が得られる。
「泥臭い運用(吉本氏)」は、アスリートがコツコツと重ねる日々の努力に似ている。
特に「特別なことは何もしていない」という吉本氏の言葉が、凡事徹底の凄みを感じさせる。D2Cのお手本のようなビジネスは、特に資本に限りがあるベンチャー、中小企業にとって、ビジネス思考のよいヒントになる。
取材・文/ソルバ!
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