長期間にわたって生死が明らかでない人については、家庭裁判所に対する申立てにより「失踪宣告」の審判が行われます。
特に、行方不明者がいるために相続手続きを進められない場合は、選択肢の一つとして失踪宣告の申立てをご検討ください。
今回は失踪宣告について、制度の概要・活用場面・手続きなどをまとめました。
1. 失踪宣告とは
「失踪宣告」とは、長期間にわたって行方不明の人を死亡したものとみなす、家庭裁判所の審判です。
参考:失踪宣告|裁判所
1-1. 2種類の失踪宣告|普通失踪と特別失踪
民法では、「普通失踪」と「特別失踪」の2種類について失踪宣告が認められています(民法30条)。
①普通失踪
不在者の生死が7年間明らかでないときは、失踪宣告が行われます。
②特別失踪
戦地への出征や乗っていた船舶の沈没など、死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、その危難が去った後1年間明らかでないときは、失踪宣告が行われます。
1-2. 失踪宣告の効力|失踪者は死亡したものとみなされる
家庭裁判所によって失踪宣告の審判がなされると、失踪者は以下の時期に死亡したものとみなされます(民法31条)。
普通失踪:生死不明になってから7年間が経過した時
特別失踪:死亡の原因となるべき危難が去った時
失踪者が死亡したものとみなされることにより、発生する主な法的効果は以下のとおりです。
①失踪者について相続が発生する
失踪者の財産は相続人の共有となり、相続人の間で当該財産を分割することになります(民法896条、907条)。
②失踪者が相続人である相続について、代襲相続が発生する
失踪者が被相続人の直系卑属(子など)または兄弟姉妹として相続権を有する場合、失踪者の子が代襲相続によって相続権を取得します(民法887条2項、3項、889条2項)。
③失踪者と配偶者の婚姻が終了する
婚姻関係の終了により、失踪者の配偶者は再婚が可能となります。
1-3. 失踪宣告を活用すべき場面
失踪宣告の制度がもっともよく活用されるのは、相続に関する場面です。
たとえば長年行方不明である家族がいて、その家族が多額の財産を残しているとします。この場合、失踪宣告がなされれば相続が開始し、相続人の間で財産を分け合うことができます。
また、すでに開始している相続について、一部の相続人が長年行方不明である場合にも、失踪宣告の制度を活用することが考えられます。
遺産分割は原則として相続人全員で行う必要があるところ、行方不明の相続人がいると遺産分割協議を進められません。しかし失踪宣告がなされれば、行方不明者は相続人でなくなるため、遺産分割協議を進めることができます。
なお、長年行方不明である配偶者との婚姻関係を終了させたい場合にも、失踪宣告を申し立てることは可能です。
ただし、普通失踪は7年間の生死不明が要件とされているところ、配偶者の生死が3年間以上不明であれば、離婚訴訟によっても離婚が認められます。
参考:離婚|裁判所
1-4. 失踪宣告の申立ての手続き
失踪宣告を申し立てる際の手続きの流れは、以下のとおりです。
①家庭裁判所に対する申立て
不在者の利害関係人が、不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所に申立書などを提出します。
必要書類や費用などは、裁判所ウェブサイトをご参照ください。
参考:失踪宣告|裁判所
②家庭裁判所調査官の調査
申立人や不在者の家族に対するヒアリングなどを通じて、失踪の事実や期間などに関する調査が行われます。
③公示催告
家庭裁判所により、不在者に対して生存の届出を促す公告が行われます(家事事件手続法148条3項)。
普通失踪では3か月以上、特別失踪では1か月以上の公示催告期間が設けられます。
④失踪宣告の審判
普通失踪または特別失踪の要件を満たすと判断した場合、家庭裁判所は失踪宣告の審判を行います。
⑤即時抗告期間・審判の確定
失踪宣告の審判に対して、不在者および利害関係人は、審判の告知日から2週間に限り即時抗告ができます(家事事件手続法86条1項)。
即時抗告期間の経過後、失踪宣告の審判が確定します。
⑥失踪の届出
失踪宣告の審判確定日から10日以内に、申立人が失踪者の住所地の市区町村役場へ届出を行います。届出の際には、審判書の謄本と確定証明書を添付する必要があります。
2. 失踪宣告は取り消される場合がある
失踪者が生存する場合、または死亡したとみなされた時期とは異なる時期に死亡したと証明できる場合には、失踪者本人または利害関係人は、家庭裁判所に失踪宣告の取消しを申し立てることができます。
家庭裁判所によって失踪宣告取消しの審判がなされた場合、失踪者が死亡したことを前提とする相続手続きはやり直さなければなりません。
ただし、相続人が取得した遺産をすでに使ってしまった場合には、現存利益の限度で遺産を返還すれば足ります(民法32条2項)。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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