調査元によってばらつきはあるが、日本人がスマホを使っている時間は1日あたり平均2時間半。くわえて、パソコンやテレビを通じてネットに接続している時間も同じくらいあるので、多くの人は1日5時間、ネットに向き合っていることになる。
一方、「スマホ脳」や「スマホ依存」といった言葉が人口に膾炙し、画面を長時間見るのが素晴らしいことだと思っている人は少数派だろう。でも、「わかっちゃいるけど、やめられない」で、今日もまた暇さえあればスマホを眺めてしまう……
短期間のスマホ断ちでも効果あり
そんな、悩めるスマホ族にとって一筋の光明となるのが、「デジタルデトックス」だ。「デトックス」とは、解毒とか排毒という意味。「一定期間スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスとの距離を置くことでストレスを軽減し、現実世界でのコミュニケーションや、自然とのつながりにフォーカスする取り組み」だと、一般社団法人日本デジタルデトックス協会は、定義している。
「一定期間」使わないという点に注目。なにも、スマホを解約して、完全にやめてしまおうという話ではない。同協会によれば、「電車に乗っている時、友人を待っている時間」という短時間のスマホ絶ちでも効果はあるという。「効果」というのは、目や脳の疲れが取れる、睡眠の質が良くなる、ストレスが減るなど健康上の利点を指す。「幸せな気持ちになれる」というのも効果の1つだ。最近、心身がいまひとつ不調という自覚があれば、デジタルデトックスを検討する価値はある。
同協会によれば、「1泊2日以上のデジタルデトックス期間を取ることも非常に有効」だとも。そして、食べたくても食べられない断食道場のように、強制的にスマホがさわれない状況に身をおくことがすすめられている。海外では、食事の間にスマホを使わなければドリンク1杯サービスというカフェや、Wi-Fi接続できないロッジに3日間泊まる宿泊施設が話題になっており、日本でもこうした取り組みが増える雰囲気がある。
デジタルデトックスができる宿泊施設が続々
実際、デジタルデトックスに関連したサービスが、ちらほらと出始めている。その1例が、昨年秋に行われた「てらっくすプラン」。日本最大の禅寺である大本山妙心寺(京都市)で、1泊2日の“プチ”デジタルデトックスを体験できるというもの。
この宿泊プランでは、寺に付属のホテル・花園会館にチェックイン後、坐禅と境内の拝観、和尚とフリートークなど体験が用意され、「睡眠の質向上に効果があるとされる」創作精進料理も供される。なかなか楽しそうだが、スマホは専用の木箱にしまい、デジタルデトックスモードにさせられる。
宿泊の間、スマホは木箱に封印(写真:花園会館)
あくまでも実質1日半の“プチ”レベルだが、効果のほどについて、参加者の1人にうかがった。
「デジタルデトックスの後、ずっと先延ばしにしていた仕事にすぐに取りかかれました。集中力が充電された感じで、デトックス中に優先順位が整理されたような気がします。スマホ時間についても、ふとしたときに用もなく眺めることが減ったと思います」
デジタルデトックスをうたうプランは、このホテルにとどまらない。先駆的な事例としては、(株)星野リゾートが軽井沢などで展開する「星のや」がある。ここは、「脱デジタル滞在」と銘打って、「デジタル機器から離れて、各地の自然や地域文化に触れるアクティビティに没頭するプロブラム」を、数年前より通年提供。直近では、箱根の温泉旅館「一の湯」が、その名もずばり「デジタルデトックス温泉プラン」を期間限定で実施した。こちらは、チェックイン時に用意された袋の中にスマホを入れ、滞在中は封を開けなかったら、「デジタルデトックス成功記念」にオリジナル商品をプレゼントするというものであった。
「デジタルデトックス温泉プラン」を実施した「一の湯」(写真:一の湯)
また山梨県の小菅村では、えむすび(株)と(株)さとゆめが共同事業として、「源流リトリート」を昨年開始。これは、対象を企業経営者に絞り「ソーシャルバリューアップの実現」を目的としたプログラム。3日の間、スマホは手放しマインドフルネスなどに集中する。「ビジョンがブラッシュアップされ予定の2倍の売上」になるなど、大きな効果をあげている。