こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
今回は【浮気の裁判例】をザックリ解説します。
▼ 本日の目玉
・車にGPSを取り付けて妻の行動を把握
・証拠として認められるか!?
・探偵さん、もうひと踏ん張り!
・裁判所は「ただの友人関係だね」と判断
以下、分かりやすくお届けします(東京地裁 H25.10.9)
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話風に変換
登場人物
▼ 原告(Xさん)
男性(当時45歳)
保健代理店業の社長
ーーー 何が起きたんですか?
Xさん
「私には内縁の妻(A)がいるんです」
「Aを…男に寝とられました」
「浮気相手のYさんに損害賠償請求します」
▼ 内縁の妻(Aさん)
当時39歳くらい
▼ 被告(Yさん)
・男性(当時39歳くらい)
・独身
・高校時代からのAさんの友人
出逢いから別れまで
Xさんと内縁の妻Aさんの出逢いからザッと。
■ Aさん(内縁の妻)
Xさんと出会う前に前夫と離婚。
H8 結婚
2人の子供を生む
H11 離婚
■ Xさん(原告)
Xさんも前の妻と冷え冷えでした。
♥ラブ
そんな2人が出逢います。H13年ころに交際スタート。
内縁関係に止まった理由は、Xさんの前妻が離婚に応じなかったからです。
(Xさんの妻が離婚に応じたのは10年後のH23)
▼ Xさんが妻と別居
H15ころ。Xさんと前妻は別居。そしてAさんと同居を始めます。
▼ ポン、ポンポーン!
H19までに、内縁の妻AさんはXさんとの子供を3人、生みました。
これで子供は合計で5人になりました。
▼ わたし、出ていきます
同居から約8年後(H23)。内縁の妻Aさんは子供たちを連れて実家に帰りました。
今回訴えられたYさんの話によると、内縁の妻Aさんは【Xさんからの暴力・暴言】が原因で別れることを決意したようです。
▼ 自立
実家に戻ってから約2ヶ月後、内縁の妻Aさんはアパート借りて、子供たちと生活をスタートさせました。子ども5人抱えてのシングルマザー、マジで大変…。
浮気しただろ!
XさんはYさんを訴えました。言い分は「Yさんはウチの内縁の妻AとSEXした」というもの。
▼ 部屋の明かりが消えた!
ーーー 浮気の証拠、何かあったんですか?
Xさん
「Yさんは、午後10時ころ、内縁の妻Aの家に入りました。そして約2時間滞在。午後11時ころ、部屋の照明がすべて消えたんです」
ーーー 照明は消えて2人のハートに火がついたってヤツですね
Xさん
「・・・・・・。そして1時間30分後、部屋の明かりがつきました。その15分後、Yさんがアパートの玄関から出てきました」
ーーー これが真実だとするとヤッてますよね。Yさん、反論はありますか?
Yさん
「家には行きましたけどSEXなんかしてません。だって1部屋しかないアパートですよ(1K)。そのとき子供もいました。SEXすることは不可能です」
ーーー 法律業界で【SEXインポッシブルの抗弁】と言われてるヤツですね(言ってるのオマエだけだろ)
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「その時、アパートに少なくとも3人は子供がいたのでインポッシブルだね」
というわけで、このXさんの主張は撃沈しました。
はい、次!
▼ 探偵の調査
Xさん
「内縁の妻AはYさんの家で2人きりで会っていました。午後11時26分〜朝の4時37分まで!これは探偵の調査で明らかです。室内から男女の話し声が聞こえ、テレビの音が廊下にも聞こえる音量だったとの報告を受けています」
ーーー テレビの音、でか!これはニャンニャン声を上回るTVボリュームにするという【火事を消すなら爆弾を】戦略ですね。Yさん、どうですか?
Yさん
「会ってません。ていうか『Yさんの家』って言ってますがこれは仕事上の事務所です」
ーーー 裁判所さん、ご判断を
裁判所
「その調査報告じゃ不貞行為の事実は認定できないですね。その部屋に出入りするなどの証拠がないので」
■ ポイント
惜しかったですね。2人の出入りの証拠があれば不貞行為が認定された可能性が高いと思います。【泊まる=不貞行為】はほぼ確定なので。「トランプしてた」という芸能人反論はまず認められません。
というわけで、裁判所は「不貞関係はナシ!ただの友人関係ですね」と判断。Xさんの負けとなりました。
GPSで尾行はOK!?
以下、補足。
Xさんは「なんか怪しい…」と思い始めてから、内縁の妻Aの運転する車にGPS機能のついた携帯電話を置いて動向を探っていました。その履歴を証拠提出しました。Yのところ行っていたことを立証するためです。
Yさん
「これは違法収集証拠です。裁判で証拠として取り扱わないでください」
裁判所
「いやいや。OKな証拠です。違法収集証拠じゃありません。たしかに内縁の妻Aの許可なく取り付けられたものだけど、当時のYさんらの精神的、肉体的自由を拘束するようなものじゃないからです」
(証拠として取り上げくれましたが結局Xさんは負けてます)
▼ どんな証拠ならOKか?
民事訴訟では基本、どんな証拠でもOKです。しかし【ムチャして集めた証拠】はダメ、証拠として取り上げてくれません(正確にいうと【著しく反社会的な手段を使って、人の精神的、肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴う方法によって集められた証拠】などは、裁判所は「ダメ〜」と言います)
× NGなケース
たとえば、浮気相手の家に勝手に入って盗聴器を仕掛けたとしましょう。その録音データを証拠として裁判に出しても「ダメ〜」と言われるでしょう。住居侵入やっちゃってますから。
○ OKなケース
これに対して、自宅に録音を仕掛けておくのはOKだと思います。配偶者が自宅に浮気相手を呼んでる可能性のある方はチャレンジしてみてください。もし裁判所が「この録音ダメ〜」と判断しても別にマイナスにはなりません。ゼロかプラスなら実践あるのみです。
今回は【妻 or 夫婦で使ってる車へのGPS取り付けの証拠はOK】と判断されました。裁判官次第ではありますがご参考にしてください。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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