後半生で、あっと驚く転身を遂げる!
伝記小説や自叙伝、ネット上での記事などをいろいろ読んでだが、私がどうしてももうひとつわからないことがある。それはアカデミックな教養を備えていなかった寿衛子がなぜ、まったくの無名時代から、牧野の研究の真価を見抜くことができていたのか、ということだ。
最初の妻の猶は実家が裕福だったので、高等師範を卒業した才媛だった。だから牧野の研究の重要性を理解できたのかもしれない。だが寿衛子は父を早くに亡くしているので、家事見習い程度の教育しか受けていない。結婚して最初に牧野に送った手紙も字の間違いが多い上に内容も拙く、それを読んだ牧野ががっかりしたというエピソードさえ残っている。そんな寿衛子が、東京大学の精鋭たちでさえ当時は気づけなかった牧野の研究の真価を見抜いていたのである。そこが不思議でならない。
不思議といえば、人生の後半で寿衛子は、誰もがあっと驚く転身を遂げる(ドラマのネタバレになるかもしれないので割愛する)。ドラマもいよいよ東京大学編に突入して、寿衛子との結婚も近そうだ。これから彼女に襲い掛かる生活苦を思うとめまいがするが、私の疑問にドラマがどんな答えを出してくれるのか、そこが楽しみでもある。
2023年3月9日に出版された「草を褥に 小説牧野富太郎 (P+D BOOKS)」(大原富枝/小学館)。寿衛子が牧野に宛てた何通かの手紙が収録されており、そこから2人の生活や関係性が浮かび上がってくる貴重な資料となっている
文/桑原恵美子
参考文献/「草を褥に 小説牧野富太郎 (P+D BOOKS)」(大原富枝/小学館)、「牧野富太郎の恋」(長尾剛/朝日文庫)、「草木とともに~牧野富太郎自伝」(牧野牧野/角川文庫)