■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は2023年秋ごろの割り当てが検討されているプラチナバンドや、楽天モバイルについて話し合っていきます。
楽天モバイルがついにプラチナバンドを獲得する?
房野氏:かねてより検討されていた700MHz帯の周波数が、いよいよ今秋より割り当てられることがほぼ確定しましたね。順当にいけば楽天モバイルのプラチナバンドになりそうです。
石川氏:とりあえず、プラチナバンドが秋には割り当てられる。ただ、楽天モバイルに割り当てられるという流れになっているけど、どうやって決定するのかなと。
法林氏:ほかのキャリアが手を挙げたら、どうするんだろうね。
石野氏:楽天モバイル以外の会社が手を挙げると、そこに決まってしまう可能性があるので、他キャリアは手を挙げないか、挙げるにしてもしょぼい計画を出すことになりますよね。
石川氏:そう。ただ、ここで各社としても手を挙げないておかないと、今後電波が欲しくなった時に、「あの時挙げなかったじゃないか」と言われかねない。なので、手は挙げるけど、通らないようなしょぼい計画を出すはず。ただ、それってどうなんだろうねとも思います。
法林氏:あと、そもそも審査の条件はどうなるのか。どこまで楽天モバイルに忖度するのか。
石野氏:正直みんなわかっているというか、3キャリアは手を挙げたら楽天が文句を言うことはわかっているし、楽天も3キャリアに喧嘩を吹っかけたいわけではないですからね。
法林氏:でもさ、原則ではそんなの関係ないよね。手を挙げたからといって取れるわけではないし、ここまで楽天モバイルは文句を言ってきたんだから、ちょっと邪魔してやろうくらいの気持ちになっていてもいい。むしろ手を挙げるべきだと思うよ。
石野氏:とはいえ、邪魔すると今度はターゲットになりかねないですよ。
石川氏:邪魔したら、プラチナバンドを返上して、1000億円負担して、楽天に渡せという話になりかねない。どう落としどころを付けるのか注目ですね。
房野氏:今回割り当てが検討されている700MHz帯は、ドコモが見つけてきたものですよね。
石野氏:そうです。ドコモの職人芸が光ったような形。
法林氏:そもそも、それもどうかと思う。楽天自身が探さないとダメでしょう。
石野氏:まあ、無線に精通したドコモだから見つけられた、とも言えるんじゃないですか?
石川氏:というか、本当にドコモが見つけたのかわからないですよ。総務省がドコモに提案している可能性もある。
石野氏:もしくは、総務省が意図しない形でプラチナバンドの再割り当てが盛り上がってしまったので、ドコモに空いている帯域を探すようにお願いしたのかもしれません。本当のところはわからないですけどね。
石川氏:ドコモとしても、もとの計画では3キャリアのプラチナバンドを再編成して、費用も3キャリアが負担しなければならないような状況だったので、落としどころを見つけたような形なんじゃないですかね。
石野氏:大人の対応って感じですよね。
プラチナバンドの運用は一筋縄ではいかない
石川氏:いろいろ調べてみると、今回の700MHz帯がどこまで実用性があるのか疑問になりつつある。干渉する可能性があるギリギリのところなので、出力を抑えないといけないかもしれません。そうなると、基地局から電波を吹いていても、端末側から電波を出せなくて、結果としてつながらない可能性もある。
石野氏:あまり遠くまでは飛ばせないかもしれません。
石川氏:あと、今の基地局にプラチナバンド用のアンテナを付け足すのか、新しく1個にまとめたものを付け直すのか。いずれにしてもコストはかかります。
法林氏:700MHz帯のほうが、波長が長いので、アンテナは長くしないといけないし、高さも必要。アンテナを基地局に2本設置しても、その重さなどに耐えられるのか疑問ですね。
石野氏:耐荷重量の問題もあるでしょうね。重くなると、建物のオーナーが困るという意見も出るでしょうし、耐震や耐風の基準を満たせなくなる可能性もあります。あと、鉄塔をどうするのかという問題もあるので、三木谷さんが言うほど簡単にソフトウエアアップデートでどうにかなる問題ではないと思います。
楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長最高執行役員 三木谷 浩史氏
房野氏:コストはそれなりにかかりそうですよね。
石野氏:まあ、とりあえずプラチナバンドを獲得できそうでよかったねという感じですかね。他社から奪うとなると時間もかかるし、他社ユーザーからも恨まれるので、丸く収まりそうでなによりです。
石川氏:ただ、プラチナバンドしかつながらない場所で、大量にデータ通信されると辛いだろうなという懸念もあります。使い放題プランとあのプラチナバンドの幅は両立しない気がする。
石野氏:相性悪いですよね。3MHz幅で30Mbpsでしたっけ。30Mbpsの条件が256QAMで、2×2 MIMO。プラチナバンドの条件が悪い場所で、256QAMの接続は難しいでしょう。
石川氏:そこを両立するために料金プランをいじったりするのかな。
法林氏:確かに、プラチナバンドしかつながらない場所で、大容量のデータ通信をされると厳しいよね。早めにほかの周波数で補填する努力は必要になるね。
房野氏:プラチナバンドがカバーするエリアは、地方などがメインになるんですか?
法林氏:山の中などを広くカバーしたいという意図はあるはず。
石川氏:あとビルの中などもカバーするために、都市部でも使いたいはずです。
法林氏:都市部はある程度カバーできているのも事実なので、ビルの奥とか、地下駐車場とかをカバーしたい。
石野氏:確か、3MHz幅の700MHzって、キャリアアグリゲーションの標準化がされていないですよね。
石川氏:というか、キャリアアグリゲーションする意味がなくない?
法林氏:しないほうがお得かも。
石野氏:でも、電波が重なっているところで、700MHzから1.7GHzに再接続する時に、制御を失敗して大変なことになる可能性もありませんか?
法林氏:結局それはほかのキャリアも同じだけど、複数の周波数がある時に、どこにどういうトラフィックを流していくのかは、ネットワークのチューニング次第。世界初の完全仮想化というくらいですから、そこはうまくやってほしいね。
石川氏:1.7GHzが流れているなら、そっちにつなげちゃえばいいだけだからね。
法林氏:問題は、下の帯域(700MHz帯)があまりにも狭すぎるから、キャリアアグリゲーションするメリットがほぼない。
石野氏:そうなると、つかんでいる電波を素早く切り替えないといけなくなるので、ハンドオーバーを早めにしなければならない。楽天がローミングを広い範囲でやっている時に、auの電波をつかんで、なかなか離さないという問題があったけど、再来しなければいいけど……
法林氏:充分あり得る。そこはチューニングが必要だよね。
石川氏:キャリアアグリゲーションの技術を楽天モバイルが持っているのかという疑問はありますね。
法林氏:3キャリアは、複数の周波数を、つけたり切り離したりというのを、さんざんやってきているからね。
石川氏:ドコモはそれでもいまだにうまくいっていないみたいですしね。