世界10か国26業種の倫理・コンプライアンス担当者を対象とした調査
企業倫理とコンプライアンスに関するソリューションを提供するLRN Corporation(以下LRN)は、日本企業の倫理とコンプライアンスに関する調査結果を初めて掲載した、「2023年 倫理コンプライアンスプログラム(以下、E&Cプログラム)の有効性に関する報告書」を公開した。
本報告書は10か国26業種の従業員数1,000人以上の企業および組織における約1,860人の倫理・コンプライアンス担当者を対象とした調査への回答に基づいてまとめられており、この分野の調査では最大かつ最も包括的なものになっている。本稿では、その概要を紹介していく。
2023年度版の報告書内では、経済的および地政学的な逆風が世界を覆う中、企業や組織は回復力と最適な業績を確保するために、倫理・コンプライアンスの取り組みに対して、これまで以上に注意を払う必要があると指摘している。
本調査によると、全世界の回答者の半数以上が、経営上の意思決定において倫理性を勘案していることに対して経営幹部を高く評価している。
さらに、回答者の過半数(84%)が、従業員に「正しい行いをする」よう動機付けるために、明文化された規則やルールではなく価値観を頼りにしていると述べている。
日本における企業倫理とコンプライアンスプログラム
全世界で1,800件以上の回答のうち、日本のE&Cプログラムに関する回答は約11%を占めている。日本のプログラムは全体的に見て、有効性、革新性、トレーニングのベストプラクティスに関しては、グローバルと比較をすると著しく低い傾向にある。
LRN独自のランキング指標で「効果的でない」として低く評価されたプログラムの割合が64%であり、世界平均の40%と比べて大幅に上回っている。
日本のプログラムでは、社内システムなどの要因が、プログラムの有効性や効果の向上を妨げていると報告されている。
また社内システムの強化の必要性とともに、日本のプログラムにおけるトレーニング改善の優先事項として、トレーニングプラットフォームの強化や特定のリスクに対応するカスタムコンテンツの充実があげられた。
コンプライアンス研修のカリキュラムの重要分野として、グローバル全体では、「ITセキュリティ」、「ESG」、「データ保護」が挙がったが、日本では「DEI(多様性、公平性、包括性)」、「ESG」、「ITセキュリティ」が研修内容として優先されており、現在、日本企業が推進している分野の内容が挙がっている。
今回の結果についてLRNの最高諮問責任者であるタイ・フランシスMBEは、次のように述べている。
「日本には、世界をリードする有名企業が数多くあり、倫理・コンプライアンスプログラムの有効性を高める機会がたくさんあります。特に、世界中の規制当局が個人の説明責任を重視していることや、急速に台頭する非常に複雑なリスクを考慮すると、日本の取締役会や役員が組織のE&Cプログラムを十分に充実させることは極めて重要です」
さらにLRNのCEOであるケビン・マイケルセン氏はこう話す。
「世界中の企業は現在、規制の強化、経済の不確実性、利害関係者の活動、貿易制裁、サプライチェーンの混乱など、多くの要因の中で複雑かつ深刻な状況の中に身を置いています。倫理的な企業文化の醸成と業績の関連性は明らかであり、これらの課題を乗り切り、今後も続くであろう困難な状況を乗り切るために、ますます重要になると考えています」
グローバルな観点から注目すべきその他の調査結果
・E&Cプログラムの強化のために改善が必要な主な分野は、不十分な内部システム(76%)、スタッフ不足(73%)、予算制約(73%)、従業員の離職(68%)がプログラムの効果に対する主な障害となっている。
・ウクライナ侵攻や世界的に多くの国に対する制裁が激化しているにもかかわらず、貿易管理と制裁のトレーニングを強化する予定があると回答したのはわずか25%であり、この分野のリスク管理を強化したのは45%にとどまっている。
・回答者の60%は、取締役会が上級管理職による不祥事に効果的に対処するよう積極的に保証していると感じており、業績評価、昇進、賞与、主要管理職の採用において、役員および従業員の倫理行動を考慮する公式要件を持つようになっている。
・回答者の44%が、過去1年間に倫理に反する行為を行った上級管理職または業績優秀者を懲戒解雇したと回答し、そのうちの76%は、その個人による非倫理的な行為の結果として金銭的なクローバック*の対象となったと答えている。
・回答者の半数以上(52%)が、倫理やコンプライアンスに関する要因やリスクを考慮することで、必要であればビジネス上の施策を大幅に変更したり、断念したりすると回答していることから、倫理やコンプライアンスへの関心の高まりは、現場において実際の変化をもたらしている。
・プログラムの影響をリアルタイムに把握できるデータ指標の収集と分析を重要視している回答者は59%であったが、実際にそのような指標を収集・理解して能力を向上させたのは、わずか20%であった。
構成/清水眞希