埃及は、北アフリカにある国の名前です。昔の日本では、外国の国名に響きが近い漢字を当てて表記していました。無理矢理な印象のある当て字も多いため、現代人がスムーズに読むのは難しいかもしれません。埃及の読み方や意味・由来、さらには関連語を紹介します。
「埃及」の読み方は「あいきゅう」
埃及と書いて、『あいきゅう』と読みます。これは何を表しているのでしょうか?
エジプトの国名にちなんだ当て字
埃及とは、エジプトの国名を表わす漢字です。『あいきゅう』という読み方は、『アイギュプトス』に由来しています。
古代ギリシャ人は、現在のメンフィスに当たる『フウト・カァ・プタハ』という都市をアイギュプトスと呼びました。これがローマに伝わった際に『エジプト』に変化し、都市ではなくエジプトそのものを指す言葉になったといわれています。
なお文献によっては、『埃及』ではなく、『阨日多』などしているケースもあります。
「埃」が砂漠を連想
エジプトは正式名称を『エジプト・アラブ共和国』とする、アフリカ北部の国です。国土は日本の約2.7倍ありますが、95%以上が砂漠で占められています。砂嵐や砂埃が舞う様子を見れば、『埃』という文字が当てられたのも納得しやすいでしょう。
特に3月下旬から4月にかけては、季節風によって砂嵐が頻繁に起こります。ひどいときは、舞い上がる砂によって航空機が運航できなくなることもあるようです。
中国語での表記も同じ
エジプトは、中国語表記も『埃及』とされます。ただし発音は『あいきゅう』ではなく、『あいじ』という読み方が近いようです。
日本で使われている外国の国名・外来語の多くは、中国語を由来とします。読み方も中国語をそのまま使っているものもあり、日本語では理解しにくい・読みにくいものが少なくありません。
日本で外国の国名や外来語にカタカナが多く当てられるようになったのは、1920年代半ば以降だとされています。
エジプトに関連する漢字
『埃及』以外にも、特殊な漢字が当てはめられた言葉はたくさんあります。読み方の難しい、エジプトに関連する言葉や漢字を確認しましょう。
木乃伊
木乃伊の読み方は「ミイラ」です。
漢字の由来は、中国の陶宗儀(とうそうぎ)という人が14世紀に書いた、『輟耕録(てっこうろく)』という書物です。陶宗儀は本の中でミイラに言及しており、『木乃伊』という文字を使っていました。この当て字が、日本に定着したと考えられています。
一方で、ミイラという呼び方の由来は、ポルトガル語の『ミルラ』です。ミルラとは日本語の『没薬(もつやく)』で、ミイラ作りの防腐剤として使われていました。時代を経てミルラがミイラそのものを指すようになり、本来の意味とかけ離れてしまったと考えられています。
つまり日本語で書く『木乃伊』は、読み方はポルトガル語から、書き方は中国語から影響を受けているのです。
獅身女
夏目漱石は自身の著書『虞美人草』で、エジプトの『スフィンクス』を『獅身女』と表記しました。スフィンクスは、頭は人間・体はライオンという、神話上の生き物です。古代エジプト語の『シェセプ・アンク(生きている像)』という言葉がギリシャに伝わったとき、『スフィンクス』へと変化したといわれています。
スフィンクスのエピソードとして有名なのは、『人々になぞなぞを出し、答えられない人を食べていた』というものです。恐ろしい怪物という印象もありますが、スフィンクスは古代エジプトでは太陽神の化身として崇められていました。
スフィンクス関連の遺跡はいくつもあり、中でもギザのスフィンクスは特に有名で、エジプト観光の目玉となっています。
金字塔
『金字塔』とは、ピラミッドを意味する漢字です。砂漠にそびえる四角錐の遺跡は、エジプトの象徴として知られています。
ピラミッドは、古代エジプトの王の墓とする説が有力です。古王国時代(紀元前2500年頃)に盛んに作られたとされており、現在までに大小さまざまなピラミッドが見つかっています。
ピラミッドの多くは綿密な計算に基づいて製作されており、建設機械のない古代に作られたとは思えないほどの規模・精度です。古代エジプトが優れた技術力・経済力・組織力を持っていたことの証しであり、エジプト文明を理解する上で非常に重要な要素と考えられています。
現在見られるピラミッドのうち特に有名なのは、クフ王・カフラー王・メンカウラー王のものとされるピラミッドです。これら『ギザの三大ピラミッド』を含む周辺一帯は、世界遺産に認定されています。
エジプト周辺国の漢字表記と読み方
『埃及』以外にも、読み方の難しい国があります。エジプトに近い『希臘』『利比亜』の2国を紹介します。
希臘
『希臘』と書いて『ギリシャ』と読みます。こちらも中国由来の漢字ですが、中国語では『希腊』と書き、日本での表記とまったく同じというわけではありません。
ギリシャという名前の由来は、かつてペロポネソス半島で勢力を誇っていたといわれる『グレキア族』です。グレキア族の英語読みである『グリース』がなまって、日本では『ギリシャ』とよばれるようになりました。
ギリシャとエジプトは地中海を挟んで向き合っており、歴史的な関係は浅くありません。紀元前332年にはマケドニア(ギリシャ北部)のアレクサンダー大王がエジプトを侵略し、ファラオとなった時代もありました。
利比亜
『利比亜』は、エジプトの西側に位置する『リビア』の当て字です。リビアは地中海を挟んでヨーロッパ大陸と向き合っており、エジプトと同様にローマ帝国やビザンチン帝国などの影響を受けました。リビア国内には、現在も当時の歴史を物語る遺跡や遺物が多数残っています。
中でも有名なのは、首都トリポリの東に位置する『レプティス・マグナ』とよばれる古代遺跡群です。この地からはローマ帝国で初となるアフリカ出身のローマ皇帝が誕生し、大いに栄えました。遺跡にはローマ時代の浴場や神殿・劇場などがよい状態で残っており、世界遺産にも認定されています。
ただし、長く続く不安定な政治状況から、日本人のリビアへの渡航は制限されています。外務省の定める危険度レベルは4と高く、観光はおすすめできません(2023年5月時点)。
構成/編集部