政府において「子どもの声は騒音ではない」旨を明記する法律案が検討されている旨が、2023年4月に各種メディアで報道されました。
たしかに子どもの声については、必ずしも親や本人に責任があるわけではなく、許容すべきものとして社会的な理解度が高まっているように思われます。
その一方で、悪質な騒音による近隣トラブルの事例も少なからず発生しています。今回は騒音トラブルのよくある事例や、適用される法律のルールなどをまとめました。
1. 騒音トラブルのよくある事例
近隣住民の間で発生しがちな騒音トラブルとしては、以下の例が挙げられます。
・隣人が飼っているペットがうるさく、夜通し鳴き続けている
・マンションの上階や隣室などから大きな音がする(深夜に及ぶパーティが開催されている、子どもの声や走り回る足音がうるさいなど)
・隣人が大声で暴言を叫ぶなど、頻繁に奇声を上げている
など
2. 騒音の違法性のボーダーライン|受忍限度論
近隣住民の出す騒音がうるさく感じたとしても、そのすべてが違法と認められるわけではありません。
騒音が違法であるかどうか(=損害賠償請求の対象となるかどうか)は、「受忍限度を超えているかどうか」という観点から判断されています。
2-1. 「受忍限度」とは
「受忍限度」とは、被害者が我慢すべき被害のボーダーラインです。
人間が生活する中では、多かれ少なかれ生活音を出すことが避けられません。住居が隣接している場合には、隣人の生活音が聞こえてくるのは当然です。
そのため、ある程度までは隣人の生活音を我慢すべきですが、一定の限度を超えた場合に違法となるという考え方が採用されています(受忍限度論)。
騒音の受忍限度を決定するに当たって、考慮されるべき主な事情は以下のとおりです。
・騒音の音量
・騒音の発生源と被害者の間の距離
・騒音の時間帯、時間の長さ
・行為者が騒音を防止するために講じた措置
・実際に被害者が受けた健康被害の内容
など
2-2. 保育園児の遊ぶ声が違法な騒音に当たらないとされた裁判例
神戸地裁平成29年2月9日判決では、保育園児の遊ぶ声がうるさいとして慰謝料の支払いと騒音の差止めを求める近隣住民の訴えが棄却されました。
神戸地裁は受忍限度論に基づき、以下の理由を挙げて、保育園児の遊ぶ声が受忍限度を超えていないと判示しています。
・午前6時から午後10時までの敷地境界線における等価騒音レベルが基準値を上回っていない
・保育園の騒音は、敷地境界線から原告の自宅に届くまでに17~18dB減衰している
・騒音が発生している時間帯は、1日のうち約3時間にとどまる
・保育園は設置前の約1年間にわたって近隣住民向けの説明会を行い、近隣住民からの要望等を受けて防音壁を設置し、近隣住民宅の窓の二重サッシ化費用を負担するなどの対応をした