海外赴任の辞令は突然発令されるものだ。長期保有目的で投資したNISA口座やつみたてNISA口座の資産は、海外移住する場合どうなるのか。
法律上は継続できるようになったが・・・
2021年10月1日時点で国外に長期に住んでいる人数(永住者を除く)は約81万人となっており、そのうちアメリカに32%、次に中国が8%と半数近くを占めている。平成元年はy約34万人であったのが日本企業の海外拠点が増えるなか右肩上がりに増え、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で若干減少したものの、今後さらに増えていくものと考えられる。
これまで、NISA口座は出国して日本国内に住所や居所を持たない非居住者となると、継続することはできなかった。しかし、海外赴任の辞令は突然来るものだから、せっかくNISA口座で長期に投資していたのに閉鎖することになるのは残念だ。
そこで、平成31年3月29日付「所得税法等の一部を改正する法律」が公布(平成31年4月1日以後出国する人から適用)され、NISA口座を開設している人が一時的な出国により非居住者となった場合に、出国前に保有していたNISA口座にある資産を継続して保有できることとなった(出国後に取得した資産はNISA口座に受け入れることはできない)。
■非居住者となったときにNISA口座を継続できる場合
・会社から海外赴任の辞令を受けたなどやむを得ない事由で一時的に出国、海外に居住すること
・出国の前日までにNISA口座のある証券会社に「継続適用届出書」を提出すること
(参考)
海外在留邦人数調査統計|外務省 (mofa.go.jp)
国税庁 税制改正等の内容 01.pdf (nta.go.jp)
実際に非居住者となったときの取扱い
前述の通り、法律上海外に居住していてもNISA口座を継続することが認められた。海外に居住しているときに、新しくNISA口座で買付することはできないが、出国前に保有していた資産をそのまま非課税期間内であれば非課税で保有することができるとされた。
しかしながら、実際の証券会社での取扱いは異なり、ほとんどの証券会社で非居住者となる場合NISA口座が継続保有できない。
また、損益計算や源泉徴収をしてくれる特定口座は国内に住んでいる人にしか適用できないため、特定口座での預かりは非居住者になるとできない。
なお、5年超の海外滞在で売却や配当金受取したときには、その滞在国の税金が課税されることもある。
■SBI証券
・非居住者となる場合、出国前にNISA口座の廃止手続きが必要
・NISA口座や特定口座で預かりの資産は一般口座に払い出しが可能
・非居住者である場合には、日本株式、日本国債以外は保有できない
・新規買付はできないが、出国前に保有していた一般口座の資産を非居住者である間に売却は可能。
■楽天証券
・1年未満の滞在は手続き不要(米国の場合、前年の米国滞在数の1/3、前々年の米国滞在数の1/6、出国年の滞在数の合計が183日以上の場合以下の手続きが必要)
・1年以上5年未満で国外に滞在する場合には、NISA口座と特定口座は廃止。
・NISA口座と特定口座から一般口座への払い出し、非居住者期間中の保有は可能だが、以下の条件がある。
①買付、売却ともに不可
②出国から90日以内に渡航先住所、納税者番号証明書等を提出
③日本株式、個人向け国債のみ保有可能
④常任代理人(弁護士、税理士、親族など)の選任(株主総会決議などを代理で行ってもらう)
・上記に該当しない場合には口座閉鎖が必要
・5年超の国外滞在は保有不可
■au カブコム証券
・非居住者となる場合、出国前にNISA口座の廃止手続きが必要
・NISA口座や特定口座で預かりの資産は一般口座に払い出しが可能
・非居住者である場合には、買付、売却ともに不可
このように、実際海外でNISA口座が継続できないのは、その金融機関が海外でも現地の金融規制当局・監督官庁等の許可を得ていないと金融商品の取引ができないためようだ。
証券会社によって取り扱いが異なるため、海外赴任が決まったら確認が必要だ。
出国したことを言わないで海外赴任した場合
証券会社で出国手続きをしたら、実際にはNISA口座を保有し続けることができない。証券会社によっては、一般口座で保有することができ、売却できない状態(価格が一時的に下がっている、保有し続けたい)のときは一般口座に払い出して所定の手続きを経て預けることができる。ただ、一般口座で保有はできるものの、非居住者期間中は売却ができない証券会社が多い。売却できないということは、何かあったときに軌道的に売却ができず、不安要素が残る。
一方で、出国したことを証券会社に伝えずにそのまま口座を維持した場合に、そのまま取引できてしまう可能性はある。ただし、証券会社から送付した書類が登録されている住所に届かないなどで証券会社に日本に住所や居所がないことが分かれば、即口座が凍結され、NISA口座で非課税になっていた税金が遡及課税されることがあるので、注意したい。
文/大堀貴子