最近のソフトバンクグループの動き
(参考)社債情報 | ソフトバンクグループ株式会社 (group.softbank)
ソフトバンクは上記のように個人向けの社債を多く発行している。特に最近では、自己資本の低下から自己資本に組み入れることができる劣後債を積極的に発行している。
2023年4月発行のソフトバンク債は、劣後債で、利払繰延条項がある債券だ。劣後債は、Tir1には組み入れることができないが、その50%を総自己資本に組み入れることができる。ただし、紀元前償還条項の初回償還可能日つまり5年を過ぎるとその組み入れ率はゼロとなるため、自己資本に組み入れる債券への借り換えのため、繰上げ返済される可能性は非常に高い。
ソフトバンクグループは、グループ企業に携帯事業、YAHOO!のインターネット事業、PayPayの金融事業を抱えているが、実質は投資会社だ。ビジョンファンドというファンドを形成し、主に以下のIT企業を中心に投資し、未上場株の価値が高くなれば売却、またはその株式をもとに(担保に差し出し)その他を未上場株式への投資をしている。
・英アーム
イギリスの半導体設計大手。
2020年半導体大手米エヌビディアがソフトバンクから買収する可能性があったが、独占禁止法に抵触するとして承認が下りなかった。
2023年に米国市場への上場を申請した。
・中国バイトダンス(未上場)
中国(抖音)、日本(Tik Tock)、アメリカで人気のショート動画アプリを手掛ける中国のIT企業。まだ未上場で、世界一のユニコーン。
・DIDI
中国の配車アプリ大手。2021年に米国に上場するも、中国当局により上場廃止に追い込まれる。香港に再上場する可能性もある。
・アリババ
アリババは中国通販大手タオバオ、決済のアリペイ、クラウド事業などを抱えるIT大手だ。
米国、香港に上場しているが、関連会社アント上場をきっかけ(創始者が中国の制度を批判したことが原因で上場予定が延期に)に、アリババの株の価値も大きく下落し、ソフトバンクグループの大きな損失の原因となる。
未上場の企業が多く、IPOで新規上場すれば大きな利益となる可能性を抱えている。近ぃ大きなIPOはアームで米国市場に上場予定だ。
また、投資会社のソフトバンクグループの損益は、あくまでも保有する未上場株の評価額の損益であるため、その価値の上下に大きく左右され、兆円単位で動く。
2021年純利益が日本企業過去最高となったのは、保有株式は大幅に評価が上がったことや、特にアリババが上場して株価が大きく値上がりしたことも基因している。しかし、2022年は、2020年にアリババの創始者の当局批判をきっかけにアリババの株式が1/3程度まで下がり、損失が拡大した。2022年からはアリババ株を担保にした資金確保、新規投資停止、個人向け社債の発行などで手元資金なんとか確保できてきたところだ。
ソフトバンクグループは投資会社であるため、価値が下がれば投資を継続できなくなるため、現在手元資金を厚めにしており、2023年3月期では約5兆円までになっている。そして、アームの上場が成功すればさらに手元資金は厚くなり、懸念されていたアリババやその他の株式の評価減による財政悪化の懸念はとりあえず払拭された。ただ、保有しているIT企業の大幅な価値減少があれば大きなリスクをはらんでいるのは確かだ。
ソフトバンク債券は初心者向けの投資だが・・・
社債は途中売却をしない限り倒産しなければ損をしないため、株価やその会社の業績をそんなに細めに気にする必要のない初心者向けの金融商品だ。
しかしながら、ソフトバンクグループは、名前から携帯会社をイメージするかもしれないが、実質は投資会社であり、その投資規模も大きくその損益は兆円単位で変動する。その投資株式の評価が大きく下がれば大きな損失を抱える可能性もある。また、4月に販売された社債は返済順位が通常の社債より低い劣後債であることから、ソフトバンクグループの動向には注意が必要だ。
文/大堀貴子