アパレルや化粧品はもちろん、食品、玩具、スポーツ用品、文房具などなど。百貨店にはあらゆるジャンルにおける、上質な商品が取り揃えられている。その中には「アート」という分野も網羅されているが、その売り場に足を運んだことがある人は、正直それほど多くはないだろう。なぜなら百貨店で販売されているアート作品の多くは、何十万から百万円位の価格帯が中心。おいそれと購入できるものではなく、富裕層をターゲットにしているイメージも強い。
だが最近、そんな百貨店のアート事情が変わり始めている。
大丸松坂屋百貨店がアートメディア「ARToVILLA(アートヴィラ)」を立ち上げた狙い
2022年1月に「ARToVILLA(アートヴィラ)」というWEB媒体のアートメディアが開設された。コンセプトは「アートをつくる人、受け取る人、お互いが一緒になってアートを楽しむ視点を増やす」だが、こちらのサイトを運営しているのは大丸松坂屋百貨店だ。
「近年、日本のアート市場は盛り上がりをみせていますが、世界の市場規模が7兆円といわれているところで、日本の市場規模はわずか2500億円ほどにとどまっています。なぜ日本人はアートにお金をかける人が少ないのかといえば、アートとの日常的な接点がほとんどないことが大きいのではないかと。アートは美術館で鑑賞するものという認識が強く、所有する感覚があまりないのが現状です」
こう語るのはアートヴィラの運営を行う、大丸松坂屋百貨店プロジェクトマネージャーの村田俊介さんだ。確かに日本でも注目度の高い展覧会では行列になることも多く、アートは盛り上がってはいる。だがそれを“買う”となると話は別。特にビジネスパーソンが中心のDIME世代ではそういった人が多いのではないか。
「観るだけではなく、アートを生活に取り入れる。そのためにはアートを自分事として取り入れることができる状況づくりが必要なのではないか?そういった仮説をもとに、まずはメディアを持つことで、アートに興味がある人への“扉”としての役割になることを目指しています。ちなみに“アートヴィラ”はアートと“扉”を掛け合わせた造語です」
アートヴィラでは新進気鋭のクリエイターのインタビューや作品が紹介されているほか、大丸松坂屋百貨店で展開しているアートイベントに限らず、さまざまな作家を紹介している限らずさまざまなアートイベントをフラットに紹介している。そこには正直大丸松坂屋百貨店としてのカラーはもちろん、“百貨店感”は感じられない。
「やはり一般的に百貨店における美術の固定されたイメージは、かなり強いものがあります。富裕層向けの“画廊”という感じで、一般のお客様は足を運びにくいですよね。我々は一旦そことは距離を置きながらメディアを中心としたコミュニケーションをとることで、敷居の低さを出すべきだと考えました」
実は昨年11月、そんな村田さんの想いが集約された「アートヴィラ マーケット」というイベントが開催されている。コンセプトは“衝動買いができるアート”で、著名作家の作品でありながら数万円で購入できるものも用意。場所は大丸松坂屋百貨店ではなく、東京・渋谷の「FabCafe Tokyo」での開催となった。
「3日間の限定イベントで、1日に100人くらいの集客がありました。我々がアプローチしているターゲット層にはアートを所有するというニーズがある。今回、場所を百貨店ではない場所にしたことで、それを純粋に見極めることができました」
ただそれと同時に村田さんは、ギャラリーや美術館にはない百貨店としての強みもあると語る。
「百貨店の“百貨”というのはいろいろな価値を提供することが由来です。ファッションや食料品、化粧品といったいろいろな商品があり、お客様は目的が曖昧のまま足を運んでもいいんです。私たちのアートヴィラもそういった部分は共通していて、決して目的をもってアートを楽しむ人だけにアプローチをするのではなく、潜在層を顕在化させていくことを目指しています。ギャラリーを構えるのではなく、いろいろな文化が集約された強みがある百貨店だからこそ、ユニークな価値を作ることができる。だからこそ僕は百貨店の美術フロアにある、気軽に足を運びにくいと思われている雰囲気を将来的に変えていきたいという意識が強いです」