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【今月のマストリードな1冊】ケモノバカの皆さんに熱烈推薦『ゴリラ裁判の日』

2023.05.20PR

【今月のマストリードな1冊】ケモノバカの皆さんに熱烈推薦『ゴリラ裁判の日』

動物をめぐる裁判っていうのは中世ヨーロッパなんかではよく開廷されてたみたいで、エドワード・ベイソン・エヴァンズの名著『殺人罪になった豚』(青弓社)や、池上俊一の『動物裁判 西欧中世・正義のコスモス』(講談社現代新書)なんかで、そのあたりの歴史を学ぶことができるんですけど、訴えるのはもっぱら人間で動物は一方的に裁かれる側だったわけです、もちろん。

でも、全国3千万人(推定)のケモノバカの皆さん、それって実に不公平だと思いませんか。動物を虐待したり、公園に毒餌まいたり、野良猫や鳥を面白半分にクロスボウで射るような残忍な輩を、被害動物は殺人罪や傷害罪に問うことができないんですから。というわけで、今月オススメしたいのが、第64回メフィスト賞を受賞した須藤古都離のデビュー作『ゴリラ裁判の日』(講談社)なのです。

須藤古都離/著 講談社 1925円

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主人公はアフリカのカメルーンにある動物保護区で生まれたローランドゴリラのローズ。保護区内にある類人猿研究所で、チェルシーとサムによって手話での会話を教育されたヨランダを母に持つ好奇心旺盛なローズは、成長するにつれ母親より高度な言語能力を身につけていきます。やがて、チェルシーとサムのすすめでアメリカに渡ったローズでしたが、移住先の動物園で夫のオマリが、あるアクシデントのせいで園長によって射殺されてしまい――。

〈私は弱い女じゃない。黙っていられなかった。許せなかった。戦わずにいられなかった〉と、動物園を訴える原告となったローズが陪審員によって請求を棄却され、打ちのめされる場面からこの物語は始まるんです。

カメルーンの動物保護区で育ったローズの過去と経験、手話を音声で言語化してくれるグローブとの出会い、アメリカに渡ったいきさつ、会話ができるゴリラとして一世を風靡する様子、オマリが射殺される原因になったアクシデント。物語はいったん過去へとさかのぼり、ローズが裁判に負けた時点へと戻っていきます。

動物園に居場所を失ったローズに救いの手を差しのべたのが、アメリカで一番のプロレス興行団体WWDの腕利きマネージャー・ギャビン。クイーン・コングというリング名で活躍するも、〈私はオマリの死から目を逸らすために、ギャビンが用意してくれた役を演じているだけだ。なんでも良かった、クリフトン動物園や、あの悲劇を忘れられるのなら、プロレスじゃなくても良かった〉というローズの本心を見抜いたギャビンは、彼女にもう一度立ち向かえと発破をかけ、優秀な弁護士ダニエルを紹介するんです。

〈私にとってあなたはただの話せるゴリラじゃないし、野生動物の代表でもないよ。私にとってあなたは友達のローズ〉と言ってくれる韓国系ラッパーのリリーや、心強い味方であるチェルシー、サム、ダニエルとの友情。そうした心温まるエピソードを描きながらも、作者は「人間と動物のちがいは何なのか」「人間は動物よりも優れた存在なのか」という鋭い問いを読者に突きつけます。

「論破」や「炎上」にみえる言葉の暗黒面

また、〈私にとって言葉は魔法だった。/目の前にいる誰かとお互いの気持ちを伝えあい、理解しあうための優しい道具だった。言葉があれば自分の心を差し出すことも、相手の心に触れることもできた。言葉を覚えさえすれば、そこにはゴリラも人間もなかった〉と考えていたローズが、裁判を通じてさまざまなネガティブな言葉の嵐にさらされるさまを描くことで、「論破」や「炎上」などに代表される侮蔑や暴力や分断の装置にもなりうる言葉の暗黒面について考えさせてくれる小説にもなっているんです。

〈私はゴリラではない。私は人間でもない。ゴリラと人間の合間で彷徨う何かだ。/私は誰かに理解してもらいたかった。私の気持ちを。私の孤独を〉という苦悩を抱えるローズを、弁護士のダニエルはどんな戦術で守るのか。物語終盤は、動物が人間に盾突くなんて許せないとローズに憎悪をたぎらせる陪審員も登場する、スリリングな法廷劇へと展開していくんです。

ダニエルの意想外な弁論と、ローズが法廷で語りかける言葉、最後の最後にローズが選ぶ生きる道に感動を覚えない人はおりますまい。全国3千万人(推定)のケモノバカ同志の皆さんに贈るマスト・リード小説です。

文/豊崎由美(書評家)
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