官公庁や自治体窓口のキャッシュレス決済対応が進められている。
しかし、どんな事柄にも「壁」というものがある。全国の市町村の窓口でクレジットカードやQRコード決済が利用できるようになったのは喜ばしいことであるが、ひとつの最先端が顕著になるとその下の遅れている部分まで目立つようになる。
代表的な例が「収入印紙・証紙」だ。
「完全キャッシュレス化」を阻害する収入印紙
収入印紙とは、つまるところ手っ取り早く物品やサービスに課税をするためのものである。
かつてイギリスがアメリカ植民地に対して発布した1765年印紙法は、アメリカ独立戦争の遠因になった。アメリカで消費されるあらゆる物品に印紙を貼ることを義務付ける法律で、これは植民地人の間で大きな反感を買った。
あらゆるものにすぐさま課税する手段として、収入印紙はこれ以上ないものだった。
しかし、時代は常に移り変わる。収入印紙は基本的に現金でしか入手することができず、それ故に自治体窓口の「完全キャッシュレス化」を阻害してしまっている。
先日、筆者はパスポートの更新を申請した。新しく取得したのは紺の表紙の5年用パスポートで、それにかかる費用は9,000円分の収入印紙と2,000円分の県収入証紙。無論、これらの印紙の購入は現金のみ。
この仕組みがある限り、たとえ戸籍謄本の発行手数料をキャッシュレス決済したとしても絶対に現金を持っていなくてはならない。
都道府県の収入証紙は廃止の方向へ
国の収入印紙は今も使われているが、都道府県の収入証紙は廃止の道を着実に進んでいる。
一例として、京都府の公式サイトを覗いてみよう。
京都府では令和4年9月30日をもって京都府収入証紙(以下「証紙」といいます。)を廃止し、証紙に代わる新たな納付方法を導入しました。これにより、時間・場所を問わずに京都府手数料等を納付していただけます。(京都府公式サイト)
もちろんこれは、収入証紙の分の税金が廃止されたというわけではない。申請窓口やコンビニ、金融機関、オンラインでの納付ができるようになったという意味だ。
しかし、ATMの現金引き出しにかかる手数料はここ数年大幅に値上げされている。故に時間外の引き出しや他行のATMの利用は極力避けないといけないが、現金が必要な場面に限ってそれを満たせる紙幣を所持していなかった……というのはよくある話。
そして「収入証紙の廃止」は、よく考えてみれば東京23区の住民よりも山間部や離島部の住民に多大な恩恵をもたらすのではないか。
歩道を行けばいくらでもATMがある東京23区とは違い、山間部は「街か農協へ行かないとATMがない」ということがよくある。従って「半月に一度、街へ降りてまとまった現金を引き出す」という具合に、定期的にATMのあるところへ足を運ばないといけない。
その問題を簡単に克服してしまうのがキャッシュレス決済なのだ。
我が国日本は環太平洋火山帯に沿う島嶼国家で、地域間の移動は決して容易ではない。そうした地理的条件があるからこそ、キャッシュレス決済の普及は日本にとっては喫緊事だったはずだ。