芒種は、麦などの種をまくとよいとされてきた時期です。中国から伝わった二十四節気では『夏』の季節に分類され、日本では古来、田植えを行う時期の目安とされていました。芒種の意味や時期、さらには七十二候や芒種の時期にするとよいことを紹介します。
芒種(ぼうしゅ)とは
芒種とは、何を意味する言葉なのでしょうか?概要や意味を詳しく解説します。
二十四節気の9番目
二十四節気とは、古代の中国で生まれたとされる暦の一種です。1年は四つの季節で構成されており、一つの季節は六つに分類されています。
芒種は、1年の始まりである立春から数えて、9番目に当たる節気です。季節としては夏に属し、前の節気は『小満』、次の節気は『夏至』となります。
二十四節気は月の運行に基づいて決められるため、日にちが固定されていません。芒種も年により日にちが異なりますが、毎年6月初旬となるのが一般的です。2023年の芒種は、6月6日から6月20までとされています。
「穀物の種をまく」という意味
芒種は、旧暦では4月末から5月上旬、新暦では6月初旬の頃です。麦や稲の種をまくのにちょうどよい時期とされ、古来日本では種まきの指標とされてきました。
芒種の『芒』は『のぎ』と読み、イネ科の穀物の、実の先端に付いているトゲトゲした突起を指します。一方『種』については、そのまま『たね』と読むことが可能です。芒種という文字の意味を知れば、『芒種=穀物の種をまくこと』とイメージしやすいでしょう。
芒種の時期にするとよいこと
新暦で6月初旬に当たる芒種には、どのようなことが行われるのでしょうか?日本で古くから行われる行事や習わしを確認しましょう。
田植え
稲は種まき後、苗に育ててから田んぼに植えます。外気温が低いと苗の成長は止まってしまうため、気温が下がりにくい芒種の時期が、田植えにはちょうどよいとされました。
日本の田植えの伝統を垣間見られるのが、芒種の時期に各地で行われる田植え神事です。有名なものとしては、ユネスコ無形文化遺産に登録された広島県の『壬生の花田植』や、大阪府の住吉天満宮で行われる『御田植神事』などがあります。
神事で行われるのは、奉納舞や早乙女(稲を植える女性)による田植えなどです。賑やかな田んぼの様子を見れば、田植えが大切な行事だった当時の雰囲気を感じられます。
ただし近年は稲作技術が進歩して、ほとんどの地域で田植えの時期が早くなりました。農家の多くは5月には田植えを済ませており、芒種を田植えの目安とする地域も少なくなっています。
子どもの習い事
芒種の期間である6月6日は、習い事を始めるのに最適な日とされています。特に歌舞伎や能楽といった日本の伝統芸能の世界には、6歳の6月6日を『稽古始め』とする習わしがありました。
6歳とする由来は、室町時代の能楽師『世阿弥』が書いた教本です。その中には『子どもが芸事の稽古を始めるなら6歳からがよい』とする記述があり、これが広く一般にまで浸透しました。
また6は、指を折って数えたときに小指が立つ数字です。『小指が立つ=子が立つ』と考えられることから、子どもの独り立ちに最適と考えられました。
このほか、江戸時代の歌舞伎で『6歳の6月6日の~』という語感のよいセリフが頻繁に使われたことも、『6月6日』の根拠の一つではないかとされています。
芒種の七十二候もチェック
七十二候は、二十四節気のそれぞれの節気をさらに3分割したものです。オリジナルは中国ですが、日本独自の気候や生物を含めて改訂されました。芒種の七十二候にはどのようなものがあるのか、見ていきましょう。
蟷螂生(かまきりしょうず)
『蟷螂生』は、芒種の最初の侯に当たります。日にちでいうと、6月5日から9日頃です。『かまきりしょうず』という読み方の通り、カマキリが卵から孵化する様子を表わしています。
カマキリの卵は、草や葉に植え付けられたふわふわした塊です。中には100~300もの卵が入っており、一斉に孵化します。
カマキリの卵が孵化するのは、夜よりも朝が多い傾向です。カマキリが孵化する様子を見たい場合は、朝方を狙って観察するとよいかもしれません。全ての子カマキリが誕生するまでには、2~3時間かかるのが一般的です。
腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)
『腐草為螢』は芒種の2番目の侯で、6月10日から15日頃までを指します。
腐草為螢とは、『枯れて腐った草が蛍になる』という意味です。その昔の中国では、虫などの小さな生き物は泥水や土・草などから生ずると考えられていました。そのため、川や草むらに蛍が飛び交う芒種の時期を、腐草為螢としたのです。
蛍は、幼虫からサナギの時期を土中で過ごします。羽化するときに土の中から姿を現すため、腐った草が蛍になったように見えたのかもしれません。
梅子黄(うめのみきばむ)
『梅子黄』は芒種の3番目の侯で、6月16日から20日頃までを指します。梅子黄とは、青々としていた梅の実が黄色く色付く様子を例えた言葉です。
梅の実は3~5月にかけて段々と成長し、6月の初旬に青梅の収穫が始まります。若く青々とした梅の実は爽やかな梅らしい香りが強く、フレッシュな梅酒や梅ジュース作りに最適です。
その後7月が近くなるにつれて、梅の実は黄色味を増していきます。固かった実は柔らかくなり、香りも爽やかというよりはまろやかです。黄色い梅の実で梅酒や梅ジュースを作ると、口当たりの柔らかい豊潤な味わいを楽しめます。
構成/編集部