ディー・エヌ・エーグループでヘルスケア事業を展開するDeSCヘルスケアは、エクシングと共同で、同社が提供するヘルスケアエンターテインメントアプリ「kencom」上で取得したアンケートデータ、およびヘルスビッグデータをもとに、歌唱とメンタルヘルスとの関連性について共同研究を実施。
その結果、高い頻度で歌う習慣がある人はネガティブな気分(不安/ふさぎ込み気分)が生じにくいことが示唆され、歌唱がメンタルヘルスに寄与する可能性を支持する結果が得られた。
今回のように約12,000人という大規模な集団を対象として複数年に渡るアンケートデータ、およびレセプトデータを用いて歌唱とメンタルヘルスとの関連を検証した事例は稀で、研究成果は「第96回産業衛生学会」の発表演題に採択され、同学会で発表された。
研究目的〜精神疾患の影響も考慮した上で歌唱と気分の関連を検討
うたを歌うことがメンタルヘルスに寄与することは広く知られており、精神科等の臨床現場でも、歌唱は音楽療法や作業療法として取り入れられている。
日常生活においても、歌唱はカラオケなどの形で気晴らし行為として用いられることも多い。実際にカラオケが気分の改善につながることを示唆する先行研究も存在するものの、ほとんどの研究で短期間での気分変動しか検証しておらず、対象集団も小規模なものとなっている。加えて、精神疾患との関連を考慮しているものも稀である。
そこで、本研究では大規模集団を対象に複数年にまたがる縦断調査を実施した。さらに、診療報酬データ(以下、レセプトデータ)も紐づけることにより、精神疾患の影響も考慮した上で歌唱と気分の関連を検討した。
研究方法〜ヘルスビッグデータなどを統合して解析
保険者より許諾を得て、提供されたヘルスビッグデータを本研究に用いた。「kencom」利用者の「アンケート回答」、「レセプトデータ」を統合して解析した。
アンケートは、2021年6月と2022年6月の2回実施した。1時点目と2時点目のアンケートではEQ-5D-5Lの「不安/ふさぎ込み」の項目を用いて、回答当日の不安/ふさぎ込み気分を測定した。
加えて、2時点目では回答時点から過去1年間の歌唱頻度として「うたを歌う(カラオケや合唱)」という気晴らしを、週に2~3回以上行ったかどうかを質問した。さらに、レセプトデータを用いて2回のアンケートの間の「うつ病または不安障害」の診断有無、および「生活習慣病」の診断有無を取得した。
2時点目の不安/ふさぎ込み気分の有無と、歌唱頻度との関連を評価した。その際、1時点目の気分、性別、年齢、うつ病または不安障害の診断有無、生活習慣病の診断有無の影響も考慮に入れた分析を実施した。統計モデルには、2時点目の不安/ふさぎ込みの有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を用いた。分析対象者は11,858名の利用者であった。
なお本研究は、DeSCヘルスケア 森正樹博士 (学術)、神田将和博士 (医学)、株式会社エクシング 春日井文敬経営戦略部副部長、東京大学大学院 総合文化研究科 教授 石垣琢麿博士 (学術)・医師・臨床心理士との共同研究となる。
研究結果
・歌唱頻度の高さは、不安/ふさぎ込み気分の生じにくさと有意な関連を持っていた(p < 0.05。歌唱頻度のオッズ比と95%信頼区間はOR = 0.63 [0.42 – 0.91] )。
・同時に考慮した変数のうち、1時点目の気分 (OR = 7.40 [6.75 – 8.11])、年齢 (OR = 0.98 [0.97 – 0.98])、うつ病または不安障害の診断有無 (OR = 2.22 [1.84 – 2.67])も、2時点目の気分と有意な関連を持っていた(すべてp < 0.05)。
・特に、1時点目の気分と精神疾患の影響を考慮した上で、歌唱頻度と気分の関連が観察された点は重要である。
本研究により、気晴らしとして歌唱する頻度が高い方は、そうでない方に比べて、不安/ふさぎ込みが生じにくいことを示唆する結果が得られた。これは大規模かつ長期のデータを用いた上で、精神疾患の影響も考慮して得られた結果であり、歌唱がメンタルヘルス向上に寄与する可能性を支持する結果と言える。
「第96回産業衛生学会」発表概要
演題:気晴らしとしての歌唱と気分の関連:健保集団の大規模縦断データを用いた調査研究
開催日程:2023年5月10日(水)~ 12日(金)
発表場所:オンライン発表
発表者:DeSCヘルスケア 森正樹博士(学術)
(共著者:DeSCヘルスケア 神田将和博士(医学)、株式会社エクシング 春日井文敬経営戦略部副部長、
東京大学大学院 総合文化研究科 教授 石垣琢麿博士(学術)・医師・臨床心理士)
関連情報
https://convention.jtbcom.co.jp/sanei96/index.html
構成/清水眞希