過酷な環境に晒されつつある現代のビジネスパーソンの悩みは多い。だが、日々直面する課題の中には、私たちの人生をより豊かにするためのヒントが詰まっているという。異色の経歴を持つVTuberの短期集中連載、もう少し続く第5回!
羞恥心への処方箋
ザ・関西人の義母含め家族で大阪の遊園地を訪れた時のこと。女子トイレが混んでいるのを見た義母は「今だけ男〜♪」と男子トイレに……私の共感性羞恥ゆえか、胸が苦しくなりました。
【結論】アナタは悪くないけれど対処しないと苦しい状況は続く
急に都合よく性別が変わるのは「関西のオカン」の生態
関西出身の私からすると、アナタの遭遇した場面が鮮明に浮かび上がります。関西出身者じゃなければかなり困惑されるかもしれませんが、私の幼少期には珍しくない光景でした。
これは、たくましい関西のオカンの知恵のひとつでもあります。
「ちょっと今だけ男になってくるわぁ〜」とオカンが言うと、息子たちは決まって、「(女性であることを)バレんなよぉ〜」と返すのです。オカンたちに悪気はないのですが、非常識なのは間違いありませんし、場合によっては建造物侵入罪などの罪に問われることがあるので、滅ぶべき文化なのは間違いないでしょう(もうそういう時代ではありませんから)……という前置きをして、ここから真面目に回答させていただきます。
そもそも「共感性羞恥」って何なんだろう?
さて、改めてお悩みを伺って思ったことが2つあります。
(1)共感性羞恥を少し誤解しているかもしれない
(2)アナタの恥ずかしいと思う感性は矯正する必要がない
そもそも共感性羞恥とは一般に、自分ではなく他人が怒られている場面や、周囲に笑われて恥ずかしい思いをしている姿を見て、他人事であるにもかかわらず自分も恥ずかしいと感じてしまう感情を意味します。
ここで大切なポイントは、アナタが相手に「共感」しているかどうかです。
共感とは、他人の考えや感情を感じ取って同じ感情を自分も体験することを言いますが、共感性羞恥の場合には数ある共感の中でも特に「恥ずかしい」という感情に対して自分の感情を深く重ねてしまっている状態を指すわけです。
例えば、子供の授業参観で大勢の大人たちが見守る中、親御さんがいるからと張り切って素早く挙手をして解答する我が子。しかし、その回答は不正解で、クラスが小さな笑いに包まれた。何だか自分も恥ずかしい……これが共感性羞恥の代表例です。
では、今回の事例の場合、どうでしょうか?
別にアナタの義母は誰かに怒られているわけではなく、ましてや本人は全く恥ずかしい思いをしていないわけです。今回のケースは、単純に義母の行動を見て、「非常識な義母と同じように自分も見られたくない」という感情が近いのではないでしょうか?
そしてアナタ以外にも、読者の多くの方が自身の義母が同じ行動をした場合、同様の感情を抱くのではないでしょうか。つまり、アナタの反応はおかしくはないということです。
ここで少しアナタの感情について整理します。
今回のアナタの義母の行動は世間一般に見ても非常識な行動です。そのため、アナタが自身の感情の捉え方を変える必要はなく、義母にその行動をやめてもらえば解決する話だと言えます(義理の家族に何かと物言いができないというのは理解できますよ!)。
話題の「迷惑動画投稿」とも関連する重要な話
それはさておき、今回、本当に良い問題提起をしてもらいました。
たびたび、世間を騒がせている迷惑行為動画。どうしてあんな非常識なことをしてしまうのか? 寿司屋で迷惑行為をしてはいけないことまで親は教えないといけないのか? そんなコメントが私のYouTubeコメント欄にもたびたび寄せられます。確かに「回転寿司で器をペロペロしてはいけません」「醤油差しに口をつけてはいけません」などとわざわざ教えられなくとも、大多数の人はやりませんよね。
では、やってしまう人と、やらない人の差はどこで生まれるのか。
簡潔に言えば、「非常識とされる行動をしている人が身近に存在しているのか」というところに尽きると思います。身近なところに逸脱行動を取る人がいないと、そもそもそのような行動をしようという発想は生まれません。つまり、周りでやっている人がいないため、自分もしないということです。
一方で、周りにそのような非常識な人がいたとしましょう。まず逸脱行為が学習され、行為の正当化が行なわれます。そして行為の正当化(言い訳づくり完了)により、実行されやすい状態になってしまうのです。
注意すべきポイントは、必ず実行されるわけではないということ。
例えば、SNSや動画投稿プラットフォームに投稿されているコンテンツを視聴したとします。そのコンテンツが、一般には迷惑動画と類されるものであったとしても、それをおもしろいとする肯定的な意見を数多く目にしてしまったりすることで、次第に罪悪感が低減してしまったり、周りもやっているから大丈夫と正当化が完了してしまいます。「自分もやってみたい……」「バズりたい」と、考えなしに真似をしてしまうということは大いにあり得るでしょう。
今回のケースに当てはまるなら、おそらく相談を寄せてくれたアナタの周囲には義母のような人がいなかったから、非常識に感じられて恥ずかしいと思ってしまうのでしょう。一方で、アナタの義母からすれば、周囲で同じようなことをしている人がいたのか、冒頭の私の余談のように「関西オカンあるある」ということで学習しているのか、理由は分かりませんが行為の正当化が完了している可能性が高いわけです。
さて、いろいろと話しましたが、結論はひとつです。
先ほども申し上げましたが、子供への影響もあるのではっきりとやめてもらいましょう。伝えづらいのであればパートナーを経由して伝えるのもありです(パートナーが義母の味方になる可能性とか複雑な家庭事情は無視します)。
子供が年長者の逸脱行為や非常識な振る舞いを見て、恥ずかしい道に進まないようにすることが重要です。昔からやっていたことも今からNOと言えるようにしないと、問題は解決しないように思いました。
「ほかの人もやっている」という環境が、感覚を鈍らせてしまう。インフルエンサーのことを〝影響力のある隣人〟と捉えてしまう若者が、勘違いして過激な行為に走ってしまうのだろう。
犯罪学教室のかなえ先生
元少年院の先生で、犯罪心理学や教育犯罪学の知見からニュースなどを解説するVTuber。近著に『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』。
©夢乃とわ SDイラスト/紀羅わたり
※「教えてかなえ先生」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME6月号に掲載されたものです。