高齢化の進む米国、在宅介護利用者の増加に介護士の数が追いつかず
高齢化が進む米国では過去10年間、老人ホームよりも自宅で介護士の手を借りながら日常生活動作をこなすこと(Home and Community-Based Services;HCBS、自宅およびコミュニティーに根差したサービス)を好む人が増加している。
しかし、そのようなHCBSのニーズが大きな高まりを見せる一方で、それに対応できる介護士の増加の幅はわずかであることが、新たな調査から明らかになった。
米ペンシルベニア大学Leonard Davis Institute of Health EconomicsのAmanda Kreider氏とRachel Werner氏らによるこの調査結果は、「Health Affairs」に2023年4月19日掲載された。
Kreider氏は、「自宅で長期介護を受けたいと考える人の数が経時的に増加していることは分かっている。この一因は米国の人口の高齢化にある。その上、介護施設ではなく自宅で長期介護を受ける高齢者や障害者も実際に増えている」と話す。
同氏によると、この変化は主に、長期介護保険の担い手であるメディケイドが徐々にHCBSを低料金または無料でカバーするようになってきたことに起因するという。
同氏は、「長期介護が必要な人は、できる限り自宅で生活することを望む傾向があることから、理論上はこのシフトは好ましい傾向だ」と述べる。
このような現状を踏まえた上で、Kreider氏とWerner氏は、現在利用可能な訪問介護士の供給が目下の需要を満たすのかどうかを、2種類のデータを用いて調べた。
データの一つは、米国国勢調査局が毎年実施する「米国コミュニティー調査」の2008年から2020年のデータである。この調査では、米国の350万世帯の特性に関する情報が集められ、在宅で仕事をしていた医療従事者の数が推計されている。
もう一つは、非営利的な医療政策団体であるカイザー・ファミリー財団(KFF)が収集した調査データで、1999年から2020年にかけて、各州で在宅ケアを求めるメディケイド加入者の数が追跡されていた。
データを分析した結果、在宅介護業界の労働力は、2008年の約84万人から2013年の122万人へと増加し、2013年以降は増加のペースが鈍化したものの、2019年には142万人に達したことが明らかになった。
これに対して、HCBSを求めるメディケイド受給者の数は2008年から2020年にかけて継続的な増加を示し、特に2013年から2020年にかけてはその増加のペースが加速していたことが判明した。
その結果、2013年から2019年にかけて、HCBSを利用する患者100人当たりの訪問介護士の数は11.6%減少したと推定された。
Kreider氏は、「2020年以降に需要と供給の間の差がさらに拡大している可能性は大いにあるが、われわれは、この点に関しては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を踏まえて慎重に解釈している」と述べている。
在宅介護業界の成長が鈍い理由についてKreider氏は、その負の側面に言及する。
同氏は、「在宅介護の仕事は過酷であり、給料は安くて手当も少ない。介護士の多くは貧困状態にあり、半数以上がメディケイドやSNAP(補助的栄養支援プログラム)などの公的なサービスや支援に頼っている。介護業界は労働者を集めるのに苦心しており、より賃金の高いファストフード業界に労働者を奪われているとの逸話さえある。このような現状は、COVID-19によるバーンアウト(燃え尽き症候群)が原因で悪化している可能性もある」と話す。
こうした問題を解決するための現実的な方法は賃金の上昇だとKreider氏は指摘する。同氏によると、介護業界が、労働者の給料を上げられない理由としてよく挙げるのが、メディケイドの支払い率の低さだという。
同氏は、「メディケイドは長期在宅介護の主要な保険者であるため、賃金を上げるためにはメディケイドの支払い率の上昇も必要になる可能性がある」との見方を示している。
さらに同氏は、「介護業界では、訓練や成長、キャリアアップの機会、予測可能なスケジュール、介護業界の文化や人材紹介業者の改善も必要だ」と付け加えている。(HealthDay News 2023年4月26日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.healthaffairs.org/doi/10.1377/hlthaff.2022.01351
構成/DIME編集部