「ChatGPT」を提供しているOpenAIの利用規約には「作成した文章の権利はユーザーにある」としている。これに対して福岡弁護士によれば「課題が整理されていない部分がある」そうだ。その詳細について聞いた。
西村あさひ法律事務所 弁護士
福岡真之介さん
AIなどテクノロジー関連の法務に造詣が深い。内閣府で行なわれている「人間中心のAI社会原則検討会議」の構成員を務めているほか、関連の著書も多数上梓している。
【DIME】
「ChatGPT」では、そのまま記事として使えるような回答も得られます。OpenAIの利用規約からすると、OpenAIに許諾を得なくても自由に使えるという認識で問題ないでしょうか。
【福岡】
Open AIの利用規約では「OpenAIは『ChatGPT』が生成した文章のすべての権利を利用者に譲渡し、利用者は商用および非商用を問わずに利用できる」と規定しています。そのため、「ChatGPT」の利用者はOpenAIに許諾を得なくても、生成された文章を自由に使うことができるのです。もっとも、OpenAIが「ChatGPT」の利用者に対して著作権などの権利を主張しないにすぎません。「ChatGPT」の利用者が第3者の著作権を侵害する場合に責任を免れるわけではないのです。
【DIME】
それでは積極的に活用しても問題なさそうですね。むしろ、懸念点として挙げられる著作権侵害に抵触しそうなのは、どんなことでしょうか。
【福岡】
「ChatGPT」に「小説を書いてください」という指示を出すとします。この際には「他人の小説をそのままチャットに入力してプロンプトとして使う場合」と「他人の小説を『ChatGPT』に学ばせるデータとして使う場合」に分けて考えなければなりません。これは「著作権法第30条の4」に関することで、原則として他人の著作物の利用は可能ですが、どのような場合において例外になるのか、まだ日本で本格的に議論されていないのが実情です。しかしユーザーが「ChatGPT」に小説の内容を入力し、それが要約・改変されて得られた回答をネットなどに公開した時には、著作権侵害に当たる可能性があります。
【DIME】
似ている文章を見つけたとしても、元ネタと思われる小説を「ChatGPT」に入力したのかを証明するのは難しいのでは?
【福岡】
そうですね。ただし「ChatGPT」に入力した人には「責任」があることを忘れてはいけません。なお「ChatGPT」の回答が差別的や名誉棄損的なもの、時には事実と異なる情報になることもあります。とりわけ、このような回答を公の場に掲出した場合には「ChatGPT」ではなく掲出したユーザーが責任を問われることになりかねません。そのため、取り扱いには注意してください。また、情報漏洩の観点で言えば「ChatGPT」に機密データを入力してしまうと、OpenAIが行なう機械学習に利用されると考えたほうがいいでしょう。その結果、第三者の質問次第では、その機密データが第3者への回答に利用されてしまう可能性もあります。企業で扱っている社外に公開してはならない秘匿性が高い情報を、そのまま入力するのは、絶対に避けるべきです。
「ChatGPT」の活用時に考えたい3つの法的論点ポイント
【1】の段階では「著作権法30条の4」により著作物を利用できる可能性が高い。他人の著作物をプロンプトに入れる場合(【2】)には入れ方次第で著作権侵害になる可能性がある。【3】では他人の著作物に依拠して(基づいて)回答が作成され、かつ回答に類似性がある場合には著作権侵害となる。
著作権侵害を訴えるには依拠と類似性の立証が必要
アメリカだと『ディスカバリー』というAIで使ったデータなどの証拠開示手続きがあるものの、日本には存在しない。著作権侵害だと訴えた原告側は、証拠を取る手段がないのだ。「ChatGPT」の利用者が国内でも急増する中、福岡さんいわく「証拠開示手続きのあり方も検討すべき」とのこと。
取材・文/久我吉史
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取材・文/DIME編集部