ビッグテック企業を中心に開発が進むAIチャットボット。先行する「ChatGPT」の実力とともに、グーグルの動向、覇権争いの行方などについて、AIの有識者3人に回答してもらった。
KDDI総合研究所リサーチフェロー
小林雅一さん
KDDI総合研究所・リサーチフェローや、情報セキュリティ大学院大学客員准教授として活動中。物理学とマスコミ論に長け、海外留学経験や現地勤務経験もある。著書は『ゼロからわかる量子コンピュータ』(講談社)など多数。
プログラマー/人工知能研究者
清水 亮さん
著書『よくわかる人工知能』(KADOKAWA)などで知られるプログラマー/クリエイター。米マイクロソフトやドワンゴなどの国内外の企業で開発実績も多数。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員も務めた。
ジャーナリスト
西田宗千佳さん
大学在学中より執筆活動を開始。『メタバース×ビジネス革命』(SBクリエイティブ)などの書籍制作に携わるなど、最新のIT潮流などにも造詣が深い。Webや雑誌をはじめ、幅広いメディアで活躍中。
※本記事は3月に取材したものです。一部情報がアップデートされているものもあるのでご注意ください。
【DIME】「ChatGPT」を使ってみてどんなことに使えそう?
【小林】
昨年11月のリリース以来、政治経済や社会情勢など様々な質問を「ChatGPT」にしてみたところ、従来のAIとは比べ物にならないくらい精度の高い回答が得られるようになったことに驚きました。学習しているのは2021年以前のことに限られていますが、情報収集には十分活用できると思います。数学は大の苦手で中学生が解ける連立方程式を何度やっても解けないという側面はあれど、この先、企業を含めた利用が増えていくと思います。「ChatGPT」など生成AIの機械学習に使われたコンテンツの権利問題が気になります。
【清水】
私の意見はまだ「発展途上」だなと。仕事で受けた原稿を書かせてみましたが、そのまま出せるレベルではありません。一方で「LangChain」というGPTを使ってサービスを開発するライブラリーがあるのですが、新しい言語モデル「GPT-4」が公開されたことで、処理速度が2倍になりました。GPT3.5の利用料は1/10に下がっており、実用的に使おうとする人が増えていくと思います。
【小林】
当初の「ChatGPT」で問題になった回答の誤りや〝幻覚〟などは、ベースの技術が「GPT-4」になり、かなり解決されました。今や提示される回答は理路整然としており、論旨も明快です。多くのビジネスパーソンが様々な用途に使いまくるでしょう。
【西田】
私が一番役立つと思ったのは、取材の依頼書を書いてもらう時ですね。依頼書は「誰に」「何の用件で」「いつまでに」という情報が必要です。これらの情報を箇条書きで「ChatGPT」に入力すれば、体裁が整えられたものが出力されます。一から自分で作るのは結構労力が必要だし面倒なので助かっていますね。
【清水】
「作りたいゲームのプログラムのソースコードを一発で出力できる!」みたいな誇大広告がありますけど、実際は無理なんですよ。「ChatGPT」に「スーパーマリオを作って」と言ってもできませんし。どこかのサンプルプログラムをつなぎ合わせたようなものなら出でてきましたけど、実用的とは言えません。
〈サマリー〉
・発展途上で用途が限られる
・仕事を補助する使い方ならアリ
【DIME】対抗馬として注目されているグーグル「Bard」は?
【小林】
「Bard」と「ChatGPT」を使ってみた米国のジャーナリストによれば、現時点では「ChatGPT」のほうが優れているようです。OpenAIと提携しているマイクロソフトがリリースした「新Bing」も注目の生成AI検索として話題を集めていますが、OpenAIの「GPT-4」がリリースされた後に、動きがモタモタしているように感じます。グーグルは主力の検索エンジンを大切にする余り「Bard」に注力できないはず。以上を勘案すると現時点では「ChatGPT」が最も有利です。
【西田】
今、実用的なのはどちらかというと「ChatGPT」のほうですよね。AIに頼みたい最たる仕事のひとつが、議事録作成時の文字起こしなのですが「Microsoft Teams」のプレミアム機能には「ChatGPT」を使った機能が、すでに実装されていますし。
【清水】
正直なところ、マイクロソフトとグーグルのケンカには興味がない(笑)。AIの研究には数百億円単位のお金が必要で、彼らのような大企業でないと研究を続けることはなかなかできません。彼らの〝つぶし合い〟の結果、どちらも激安で使えるようになったら、アプリ開発者たちはハッピーになりますよ。
【小林】
ケンカとは少し違う視点になりますが、グーグルとしては不適切な情報を出力しないよう、過敏になっているように思います。旧フェイスブック(メタ)が2022年にリリースした「Galactica」の〝酷評〟を目の当たりにしていますから。人種差別につながる発言や誤った情報を出力しないように調整が必要なわけですが、保守的に作るとつまらなくなって使われなくなる。リスクを承知で回答をおもしろくするのか。その結果どれだけ利用されるのかが、カギとなりそう。
【清水】
その指摘は的確だと思います。グーグルは〝サーチエンジンオプティマイゼーション〟として、自らの検索トラフィックを気にしていますから。検索の利用者が減るという基幹事業そのものに影響が出てしまって、既存のユーザーに迷惑がかかるというリスクを抱えていますし。悩ましいところでしょう。
〈サマリー〉
・「Bard」の普及率は回答の内容がカギを握る
・検索事業との共存が難しい
【DIME】ビッグテックを中心とする覇権争いの行方は?
【清水】
覇権争いの最終勝者って、今はまだ誰も知らない会社かもしれません。むしろ「AI開発戦争がビッグテックの息の根を止める」といえる可能性も十分に考えられるでしょう。「GPT-4」や「LaMDA」といった大規模言語モデルを開発するのには莫大な資金が必要ですから。大型コンピューターの会社が次々と潰れる代わりに、小型コンピューターを製造する企業が台頭してきた、1990年代の状況に酷似しています。
【西田】
個人的には、AIがこの先、集約化していくのかローカル化していくのかに興味があります。自分がやっていることを知られたくないので、オフラインで使いたいというニーズも多分にあると思うんです。
【清水】
「Bard」でも「ChatGPT」でも、学習させているデータって基本的には同じ。アメリカの出版物や、ネット検索で出てくる画像・テキストを読んでいるだけ。独自性が本当に高い情報って、実はネット上に全く落ちていないんですよ。なので、ある分野のデータを徹底的に学習させて、特定の利用者が欲しい出力結果を出すというローカル化の方向には商機がありそうです。
【小林】
今のアメリカでは約450社のスタートアップ企業が生成AIを開発しています。この中には、グーグルでAIを研究していたものの、プロジェクトがつぶれたがゆえに自分で新しい会社を興した才能がある人もいて、潤沢な資金が流れ込んでいるんです。
【西田】
AIには「最強の脳がひとつあればよい」というわけではないですからね。「勝つ」ということをどのように定義するのかにもよりますが、AIのソリューション開発には、まだまだ戦い方があるように思います。
【清水】
AIの開発競争を漫画に例えると「ChatGPT」は紙やペンを提供しているようなものであり、大事なのは「その紙に何が描かれて」「誰が読んで喜ぶのか」ということ。人の好みに合わせていくのは難しい面がある一方、おもしろさもあります。そこから新たな覇権を取る企業が出てくるかもしれません。
〈サマリー〉
・知られざる会社が台頭するかも
・AI検索のローカル化に注目
【DIME】日本企業が参入できる余地は?
【西田】
ゼロからAIを作るのは、やはり費用的な面などからしても、日本企業としてはかなり難しいでしょう。一方で、前段で清水さんが言っていた「人の好みに合わせていく」という領域は、まだまだ手つかずのところが多いです。こういった議論については日本が得意とするところなので、十分に参入できる余地はあると思います。
【小林】
私も正直かなり難しいと思いますが、それでも日本企業にはあきらめずに何とか手立てを講じてほしいです。
【清水】
私は今、漫画家の方と一緒に、漫画制作に使える実用的なAIを作っています。漫画の台本をAIで実際に出力してみると「おもしろいものができた!」と評価できるシーンが多々出てきました。そもそも漫画の下書きって、日本独自の文化資源なんですけど、出版されている漫画の1万倍くらいの量があるんです。これをうまくAIに学習させれば、漫画に最適化した唯一無二のAIとなって世界と勝負できると思います。
【小林】
日本企業が独自の大規模言語モデルを構築するのは、もう手遅れかもしれません。むしろアプリでどれほど効果的なアウトプットを出せるかですね。
【清水】
日本の内閣府は「2025年にはデータサイエンスとAIが使えるように教育をする」という方針を出しています。それを実現するために日本企業がAI領域に参入していくには「ChatGPT」を使ったプログラミング学習を、積極的に進めたほうがいいと思います。ハードルの高い既存のプログラミング言語を使って習得するよりも、はるかに簡単ですし。
【西田】
世の中には「文章の書き方」に関する書籍は多数存在しているものの、そのとおりに書いている人って、ほんのひと握りですよね。「文章の書き方」つまりは知的生産の技術を学ばせ、卓越した文章力のAIソリューションを作るのもありかなと。「ゼロイチ」ではなく「イチから工夫する」のが得意な日本人としては想像力を働かせてAIの活用を考えると、意外な答えが出せるのではないでしょうか。
〈サマリー〉
・特定の用途で商機は十分にアリ
・「ChatGPT」でプログラミング学習を
取材・文/久我吉史
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