「シワ改善」と謳える化粧品が次々と発売。ポーラに吹き荒れる逆風
最高のスタートを切った初年度だったが、すでに逆風も吹き始めていたのが2017年。ニールワンのほかにもシワを改善する医薬部外品有効成分が承認されたことによって他社製品が続々と発売し、シワ改善市場は戦国時代に突入する。2018年にはシワ改善市場のシェアNo.1も他社に譲る結果となった。
ブランドコミュニケーション部 コミュニケーション企画チームの田中愛美さん。
「2019年の売り上げ個数は前年比の約60%。2020年の時点では、シワ改善商品としての先行優位性は低くなっているようでした。他社から低価格の商品や、美白などほかの悩みとシワを同時にアプローチする商品が発売され、市場は広がったものの、リンクルショット メディカル セラムを選んでもらえているのか、という点に課題を感じていました」と話すのは、コミュニケーション企画チームの田中さん。
田中さんは自身もポーラを愛用していたことから、2018年に中途採用で入社。入社後はプロモーション担当としてさまざまなブランドに携わり、2020年からは2021年にリニューアルしたリンクルショット メディカル セラムのプロモーションのメイン担当として奮闘した。
壮大なデビューを飾った初代を受け継ぐ、社運をかけたリニューアル品のプロモーション……田中さんの肩には、大きなプレッシャーがのしかかっていた。田中さんが目標にしていたのは「新規顧客の獲得」。
それはリンクルショット メディカル セラムが手持ちの化粧水・乳液にプラス1でシワ改善できるという商品特性があり、ポーラが初めての人にもアプローチしやすかったというのが大きな理由だ。会社としても大きな予算が投じられ、非常に高い新規顧客獲得目標が掲げられた。
田中さん「2021年1月1日の発売日前後だけではなく、発売後の1年を前期・中期・後期の3つのフェーズに分け、年間を通じたプロモーションを計画しました。最も注力したのは『市場の第一人者にとどまらず、シワ改善の最前線を開拓し続けるポーラ』というメッセージを強く伝えること。
他社の後発商品が美白などの機能を合わせてシワ改善ができることをアピールしている中で、ポーラのリンクルショット メディカル セラムはシワ改善に真摯に向き合い、常に挑戦し続けていることをリニューアル品で伝えていきました」
リニューアルした事実を伝える広告だけでは、売れない葛藤。
2017年に発売した初代リンクルショット メディカル セラムはテレビCMなどマス広告を中心に展開していたが、2021年では「マス×デジタル」を組み合わせてアプローチ。前期となるフェーズ1ではTVCM、WEBCM、美容誌のタイアップ、WEBのタイアップなどを網羅し、ありとあらゆる手段でプロモーションを実施した。それにも関わらず、成果が出ない――田中さんは強い焦りを感じたと言う。
田中さん「初動で勢いよく新規顧客の獲得を目指し、年間目標のうちフェーズ1では45%の進捗を想定していたのですが、結果は33%。リニューアル品の認知は高まったものの、知っていただくことと、買っていただくことは違う、ということを痛感しましたね」
そこからフェーズ2に向け、寝る間も惜しんで戦略を練り直し。PR担当・クリエイティブ担当・商品企画担当の3人と一緒に企画を考えながら、関係する社内各事業部、外部パートナーなどさまざまな部署と数えきれないほどの調整を重ねた。コロナ禍もあって思うように連絡が取れないこともある中、毎日のスケジュールが各所との打ち合わせでテレビ欄のように埋まっていったと、田中さんは振り返る。
中期のフェーズ2では商品の認知拡大だけではなく新規で「購入」をしてもらえるような施策に打ち手を変更。フェーズ2は上半期のベストコスメが発表されるタイミングということもあり、SNSのキャンペーンやインフルエンサーとのタイアップなど、第三者の生の声を拡散していく施策に注力する方向に転じた。
田中さん「リンクルショット メディカル セラムがリニューアルしたという事実だけではなく、リンクルショット メディカル セラムのシワ改善の成分はポーラ独自の『ニールワン』ということ。そしてその成分を配合した美容液が進化している、という商品の特徴が口コミでしっかりと伝わるような施策を試みました」
これらの取り組みが実を結び、結果として美容誌などが選ぶベストコスメを総ナメ。フェーズ2の終盤には盛り返し、後期となるフェーズ3ではリンクルショット メディカル セラムを長く使ってもらうための施策へと移行した。
田中さん「フェーズ3ではホリデーシーズンに合わせて『#リンクルショットThankYouキャンペーン』として、応募者とその方が感謝をしたい人の両方にリンクルショット メディカル セラムをプレゼントするというSNSキャンペーンを行いました。こちらはすぐ購入に繋がる施策ではありませんが、リンクルショット メディカル セラムが誰かに感謝を伝える時に選ばれるようなブランドとして、共感していただけたら嬉しいと考えました」
「一人で越えられるものではなく、その時にいたメンバーが最大限の力を発揮したことで達成できました」と話す田中さん。
結果として、2021年12月末には新規顧客獲得目標を大きく超える125%で達成。2021年の1年間で83億円を売り上げ、他社に譲っていたシワ改善薬用化粧品市場 売上金額シェアNo.1も取り戻した。
田中さん「商品企画の担当からシェアがトップになったと聞いた時は、本当に嬉しかったですね。リンクルショット メディカル セラムに関わるチームのSlackですぐに報告すると、10人以上のメンバーたちが次々とスタンプやメッセージで反応してくれて、みんなで喜びを分かち合いました。みんながそれぞれの立場で頑張っていて、特にフェーズ1の時の苦しみを考えると、最終的には成果が出たことが本当に嬉しかったです。今思い出しても泣きそうになります」
バトンは受け継がれ、新しい担当者へ。
そして2023年現在、リンクルショット メディカル セラムのプロモーションをメインで担当するのはコミュニケーション企画チームの蔵川弓子さん。田中さんを含めた前任者たちの想いを背負いながら、プロモーション担当として累計販売500億円達成に向けて力を尽くした。しかし、すべてが順風満帆……というわけにはいかないようだ。
蔵川さん「シワ改善市場は、以前に比べてより競争が激化しています。特に2022年はナイアシンアミドブームが起き、シワを改善する医薬部外品有効成分であるナイアシンアミド配合の商品が注目を集めました。かつ、低価格が増えているというのが2022年の状況。
21年より前までは中価格帯~高価格帯のアイテムが中心でしたが、2,000円以下でもシワ改善と謳える商品も登場しました。リンクルショット メディカル セラムは高価格帯のアイテムなので、その中でどう戦っていくか、という点に課題を感じています」
ブランドコミュニケーション部 コミュニケーション企画チームの蔵川弓子さん。
手軽に購入できるシワ改善化粧品が数多く登場し、2022年はトップシェアを再度奪われるという、競争がかなり激しいシワ改善市場。そんな中で、リンクルショット メディカル セラムの優位性は何かーーそれを伝えていくことが、今後シワ改善市場で戦っていく上で重要と、蔵川さんは話す。
蔵川さん「ポーラしか作ることができない『ニールワン』という武器を、もっと活用しなければいけないと感じています。
外部からの刺激によって肌が炎症を起こすとそこに好中球エラスターゼが集まり、それが過剰に真皮を分解してしまいます。これが、ポーラが発見したシワの原因。ニールワンはその好中球エラスターゼの働きを抑制することで、シワを改善するというアイテムなのです。
ちょっと難しいお話ですが、毎日のお手入れの際に『私の肌の好中球エラスターゼを、ニールワンが抑制してくれているんだ!』と想像するだけで、お客様のモチベーションも変わり、リンクルショットの使用体験がワクワクするものになるのではないかと思います。
ニールワンのことを単なるシワ改善成分ではなく、スキンケアの相棒だと感じていただけるように、様々な情報発信やマーケティング活動を行っていきたいと考えています」
シワ改善ができる――そのキャッチーなフレーズだけに頼らずに、地道な努力を重ねて、累計販売500億円を達成したポーラの「リンクルショット メディカル セラム」。その裏側では、「シワ改善にかけた想い」を伝えるための使命をもった社員たちが、困難を乗り越えながら活躍していた。2023年も、競争が激化するシワ改善市場で戦うのは決して楽ではないだろう。パイオニアのポーラがどのような手を打つのか、今後も注目していきたい。
取材・文/小浜みゆ