Googleが無償で提供しているアクセス解析サービス「Google Analytics」のプロパティ「Universal Analytics(以降、UA)」が2023年7月1日に停止されることになっている。以降、その役回りは、より緻密なユーザー解析を行えるようになる「Google Analytics4(以降、GA4)」に移管されるため、UAをWebマーケティングなどに活用していた人は“GA4”への移行作業を行わなければならないわけだが、具体的には何をすれば良いのか。デジタルマーケティングの専門家・株式会社HAPPY ANALYTICS代表の小川卓氏に、UAとGAの特徴の違いや、移行の手順について解説してもらった。
UAのデータはGA4に引き継げない。移行の準備はいますぐ始めるべき
じつはすでに2020年10月にリリースされているGA4。UAとは具体的に何が違うのだろうか。
「UAは『セッション(訪問)』を軸にした分析ツールで、セッションの滞在時間を『ページ』の表示時間の合計で表すなど、ページという単位を用いたデータを集積して訪問(セッション)単位で見るものでした。しかしサイトを訪れる人はページ内で様々な行動を行ったり、訪問ごとに意識してサイトを使っているわけではありません。。GA4ではよりユーザー単位での計測や行動に注目した『ユーザーエンゲージメント』や「エンゲージメント率」やページ閲覧以外の行動を計測することが容易になるなど行動データをより正確に計測・分析できるようになっています。
UAでも後からカスタマイズすることで詳細な行動データを拾えるようにはなっていますが、計測方法が統一されておらず、管理が煩雑でした。GA4では最初から、ページビューやeコマースなどもすべて『イベント』という単位として管理することにより、分析や計測がよりしやすくなっています」(小川氏、以下同)
2022年3月16日のUA停止の発表を受けて、大規模・多数のサイトを運営する企業や、クライアントを抱えている広告代理店はこぞって移行準備に乗り出しているという。
「というのも、UAで取得したデータをそっくりそのままGA4に引き継ぐことはできないのです。データの比較を行いたい場合は同時期にUAとGA4の両方で計測する必要があり、大手は1年間、半年間のデータ取得に動いているわけです。もしまだ手付かずなのであれば、7月1日にUAが停止されるということは、前月比データを出すのにせめて6月にはGA4での計測を開始したいところ。計測するデータや用途を検討したり、GA4の仕様に慣れるための期間も必要になるため、5月中に移行の準備を始めることをおすすめします」
上場企業のうち、GA4の導入率は4月現在約63.9%(SEM Technology社調べ)にのぼるが、中小企業の導入率はもっと低くなりそうだ。
「複数のサイトを持っている企業だと、ユーザーの横断的な行動分析を行うためには1サイトごとにGA4の設定をする必要がありますから、早期に準備を始めているケースが多い。一方、UAの設定を外部に委託し、自社で他業務の合間にデータの解析だけ行っているといった場合は、移行のタイミングをうっかり逃してしまっていることも考えられます。ただし、移行支援を専門業者や代理店に外注しようとしても、5〜6月はどこも手一杯で、新規の依頼を受けつけてもらえない可能性もあります」
GA4移行のステップ、まずは既存要件の取捨選択から始めるべし
今年2月、Googleから「UAの設定を生かして自動でGA4プロパティを設定する」といった旨の案内がリリースされてはいるものの、小川氏曰く「自動設定されたものをそのまま使うのは厳しい」とのこと。サイトのアクセス数ぐらいしかチェックしていないのであればさして影響はないかもしれないが、UAの活用度が高ければ高いほど、自動で移行されなかったり、計測要件が変わってしまうものも多いようだ。
しかし前述の通り、今このタイミング(5〜6月)での外注が難しいとなれば、自社でどうにかするしかない。GA4への移行は、実装も含めてしっかり行う場合は数ヶ月程度かかるが、まずは最低限おさえておきたいポイントや、基本的な移行のステップを振り返ってみよう。
GA4実装開始前の作業(1〜2週間)
UAの利用用途や利用頻度、外部ツールとの連携有無といった既存要件を整理したうえで、GA4での計測方針を策定する。さらに、GA4導入のタイミングにあわせて新規に計測したい内容もリストアップを。
「GA4では『ビュー』という概念がないため、どのようなプロパティ構成にするのか、何を計測除外するのかといったことも、ここで整理しておきましょう」
既存要件の整理例
(小川卓氏「Google Analytics4 ガイド」より)
GA4の初期実装(1週間)
計測タグを追加し、GA4で計測が出来ているか確認する。計測が確認できたら、クロスドメインやIP除外などの初期設定を行う。
「UAとGA4とでは計測定義が異なるため、数値が10%ほど合わないのは当たり前ですが、単に設定が抜けていて数字がズレていることもあります。社内アクセスを計測から除外するなど、ありがちな落とし穴は実装前に潰すのが吉です」
GA4の追加要件の実装と計測確認(1〜2週間)
コンバージョンやイベントなど、追加計測として必要となる要件の設定を1つずつ進める。この際、UAとGA4でのデータ取得方法を見比べられるよう、実装設計書を作成。そして、Google Tag ManagerのプレビューモードやGA4のDebug Viewを使ってデータ取得・レポート反映できているかを確認する。
「各レポートへの反映は24〜48時間かかるケースがあるため、十分に時間を取って計測チェックを行いましょう」
UAとGA4それぞれのイベント取得例1
(小川卓氏「Google Analytics4 ガイド」より)
本番リリース(数日間)
計測の確認を一通り終えたら本番環境へのリリースを行う。主要ページをチェックし、データが正しく計測できているか、極端な数値のズレがないか確認する。
本番リリース後
リリース後は、UAで見ていた、あるいは新たに見たいデータがどこで閲覧できるかを整理して、GA4を使うメンバーに共有しよう。GA4に移行しても連携ツールは移行されないため、GA4のプロパティと接続して再作成が必要となることに注意しよう。
探索機能でレポートを作成し、望み通りのアウトプットになっているかを確認する。
(小川卓氏「Google Analytics4 ガイド」より)
以上がGA4移行の大まかな流れとなる。新システムへの移行は誰でも骨の折れる作業だが、今までUAを活用しきれていなかったとすれば、これは解析ツールの運用を改めて見直す良い機会ともとれるだろう。
「UAがアップデートされてきたように、購買行動にいたりやすいユーザーの予測分析など、GA4でできることは今後どんどん増えていくことでしょう。GAを効果的に活用するためにも、ぜひ今すぐにでもスタートを切りましょう」
Google Analytics4 ガイド
小川卓氏が個人運営する「Google Analytics 4」の実装・設定・活用のための情報サイト
文/清談社・松嶋千春