透析を向上させるテクノロジーの開発
アイメックがあるオランダの研究機関ホルストセンターでは、国際的な産学連携により、飛行機機内に持ち込めるサイズのポータブル人工腎臓の開発を進めている。
もともとオランダは血液透析を世界で初めて実施した歴史がある。1943年、医師Willem Kolff(ウイレム・コルフ)氏がオランダ東部のオーバライセル州の町・カンペンで腎不全により昏睡状態に陥った女性の血液浄化を行った。
今回、実用化に向けて開発中のポータブル人工腎臓はDutch Kidney Foundation(オランダ腎臓財団)とシンガポールの医療機関 DialyssとスイスのNextKidneyの共同開発により、開発された新製品である。
ウィーリング氏は「血液透析がスタートしてから80年もの月日が経ち、今やドローンで(患者の家へ)薬が運ばれてくる時代なのに、腎臓病患者はずっと同じ様に長時間病院で過ごし、旅行もままなりません。患者の生活の質を向上させられないかという観点に立って、ポータブルな機器は開発されました」と語っている。
大量の水を使う透析
透析では大量の水が必要になる。一回の透析で使う水の量は約70~120リットルで、水は毒素を除去するために使われるだけでなく、毒素を含んだ水の浄化のためにも必要だった。ポータブル透析装置で使う水の量は約6リットル。独自に開発した吸着剤の技術を向上させることで、使用する水の量を減らし、水を何回も再利用できるようにした。
ウィーリング氏は、「ポータブル透析装置はスーツケースに収まり、空港の手荷物として飛行機内に持ち込むこともできるようになるでしょう。休暇・旅行の時は荷物入れに入れておけます。シンプルなプラグだから、日本でもアメリカでも使えて、排水装置も不要です」と語っている。
左の女性が使っているすべての機器が右下のトランクに収まるほどの大きさ
さらに進んだ埋め込み型人工腎臓
また、ホルストセンターでは、血中にある毒素除去の技術開発のため、生態適合性の高い素材やナノエレクトロニクス技術の開発を進めている。
血液透析では、腎臓のフィルターの役割をする「ダイアライザー」と呼ばれる筒状の装置に血液を通して血液中の毒素や老廃物を取り除く。この時、毒素が血中のタンパク質と結合していたら、それらは大きくなりフィルターの孔を通らずに血中に取り残されてしまう。
ドイツ・アーヘン大学病院の研究者Joachim Janowski(ヨアヒム・ヤンコフスキ)教授は、血中のタンパク質にくっついた毒素(タンパク質結合尿毒症毒素)が、ラジオ波により共鳴振動すると、血液透析によって除去されやすいことを発見した。
有用なタンパク質を体内に残せるサイズの穴の開いた透析フィルターを通して毒素を除去する際、従来の機械では有用なタンパク質にくっついた毒素は残されるが、ラジオ波で共鳴振動させることで、タンパク質と毒物が分離して、不要な毒素成分だけを取り除くことができる。
アイメックでは体内埋め込み型の血液フィルター「ダイアライザー」に「MI-TRAM(マイトラム)」と呼ばれるスマートモジュールからラジオ波を注入させることに成功した。送られるラジオ波は他の医療機器に影響を与えない。
マイトラムは指先ほどの大きさ(持っているのはウィーリング氏)
この原理は、既存の血液透析装置だけでなく、ウェアラブルまたは埋め込み型など将来の血液透析装置にも(すでに極小チップに集積されているため)応用できる。
また、(実験中の)マイトラムのマイクロチップは、体温や心拍数、血流などのデータを収集して外部のデバイスに送信できる。かかりつけ医が患者を遠隔からモニターすることが可能になり、患者の定期的な通院の必要性が無くなることが期待される。